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永遠を誓ったケイト・スペード

あれ、と思って
あ、と気づいた。

下北沢駅の、エスカレーターを登りながら
なぜだか、気がついてしまった。

携帯のケースが、壊れかけている。

べろり、と
外れてはいけないところが、外れかけている。
よくよく見なければ、引っ張らなければ、気づかないような
小さな溝、亀裂

「壊れちゃったの?」
「ねえ、これは壊れてる?」

慌てながら、一緒にいたふたりの友達に話しかける。
現実を直視することのできないわたしは、真実を確認したかった。
友達は、「ああ」と、なんとも言えない、頼りない返事だった。

「形あるものは、必ず壊れますから」

弟は、ゆっくりと静かに言った。
それはそうだ、と思った。
そうだよね、と思った。
でも、わたしは寂しかった。

これは、永遠を誓ったケイトスペードのiPhoneケースだった。

仕事帰りの原宿で、ケースを買ったことを覚えている。
何年前のことか覚えてないけれど、原宿だった。

付き添いで、ケースを見に行った。
そのときわたしは、別のケースをつけていたので、買うつもりはなかった。

それでも、出会ってしまった。

一番星のような、ケイト・スペード。

かわいいけど、もうケースはあるし
憧れのケイトスペードのケースは、決して安くない。
それでも、
それでも、

わたしは迷って、このケースを買った。
もう、一生一緒にいるような気持ちで
飛び降りるみたいな気持ちで、
すごい勇気だった。

ケースを買ったあと、わたしは何人かの友達に自慢したし、
会社のデスクに置きっぱなしの携帯を、「かわいいね」と言ってもらえて、わたしはご満悦だった。
良い買い物をした、と後押しされた。

かわいいこのケースは、わたしにはずいぶんと背伸びだった。

値段もそうだけど、
今までは無地とか、キャラもののケースを使っていたのに
花柄で、きらきらがついているケイトスペードは
わたしをほんの少しだけ、おとなにさせてくれるような気持ちだった。

ポケモンのカバンで出歩いても、
耳のついたフードをかぶっていても、
大きなクマの絵のついたセーターを着ていても
ケイトスペードのケースは、わたしのそばにいてくれた。
背伸びしたいわたしに、必要なエッセンスだった。

形あるものは、必ず壊れる。
わかっている。
もう、何年も使っていた。

わたしは寂しさをたっぷりと飲み込んで、
それはもう、ごくごくと飲み込んで、飲み下して

いまは、新しいケースを探している。

どうしても、似たもの、になっちゃうけど
やっぱりまだ、背伸びはしたいから。

もうすぐ、新しい旅の鐘が鳴る

このケースが、本格的に壊れちゃう前に。
もう、どうしようもなくなってしまう前に、

いまわたしは、
新しい旅の準備をしている。


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