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終わりは次のはじまり。

お店を閉める月に入ったと思ったらもう一週間経過。

あと二週間したら閉店前の展示会期間に突入すると思うと、レイアウトや内容説明の看板や値付けなど、「色々やることあるなぁ」と焦る一方で、とても晴れやかで穏やかな気持ちになる。

私の一坪の店は、自分の作品を置く場所でもあったけれど、それ以前に実家の遺品整理で処分できなかったものと自分の仕事関係のサンプルや資料などを誰かにお分けするために設けた場でもあったので、例えば父が遺した杖や絵具、文具類、母の手芸用品や食器類、スカーフなど、そしてサンプルや半端な紙小物類を気に入って持ち帰ってくれる方に少しでも出会えて、その面で、いくつか望みは叶えることができた。

そしてお店をしたことで、手放してからその価値に気づいたり、手放す覚悟を決めたのに「やっぱり…」と手元に戻したくなったものもあった。特に本については、店の本棚に置いた後でも必要になって取りに行って資料として使ったり読み返すことが多く、どれが必要なのかを再確認することができた。

お店をしてみようと思い立った2019年夏。物件を各地に探しに出かけて、なかなか見つからなくて落ち込んで、最後にようやく見つけたのが今の街と家だった。お店をしなければこのような古い一軒家に住むこともなかったし、他の土地でいいところが見つかっていればこの街に住むこともなかっただろうし、少しずつ何かの選択肢が違っていたら、この2年はまったく別の色彩になっていただろう。

四柱推命の先生によると、私は一つのところにじっとしていられない運勢らしいけれど、仕事でいつも長時間椅子に座って静かに暮らし、人付き合いもほとんどせず家から出ないことが多いので、本来の性質と違う暮らし方をしていることになる。

本来は、サービス業などであちこち動き回ったり多くの人に会ったりするのが合っているのに、そうしないで部屋にこもって動かない分、プライベートで家族の世話をしたり人に頼まれて突然仕事を手伝うために出かけないといけないなどの「外からの要因」が起こるのだそうだ。それをまるごと信じているわけではないけれど、この20年の自分の移動と変化を思うと、「さもありなん」とつぶやいてしまう。

それでもこの2年は、そんな「仕事で動かない自分」をなんとか改善したくて(それは占いに従ってというより、単にエコノミー症候群を気にしてのことだったけれど)お店もどきのことをしてみて、確かに脚のむくみが改善されたし、悩んでいた「こむらがえり」が激減した。お店をすることでこれまで縁のなかったような人たちと交流し、様々な情報交換などをしつつ、どこか風通しの良い暮らしをすることもできた。それでも徐々に店を閉める日が多くなり、こもりがちになったのは、やはり自分にはお店は向いていなかったのだろう。接客が向いていないというより、毎週決まった時間に決まった行動をするという規則正しさが向かなかったのかもしれない。

お店をしていてありがたかったのは、「感想をくれる人」に出会えたことだった。感想そのものも、あたたかで好意的なものなら尚嬉しいけれど、それ以前に、他者を思いやり、「良かった」「面白かった」「気にいって大事にしている」などと伝えてくれる、その一手間を惜しまない「さりげない人」に感動を覚えることが多かった。

お世辞を言ったり褒めたりというのは、するのもされるのも、どこかテレビショッピング的違和感というか、嘘嘘しさが漂うものだけれど、ふとした率直な感想を伝える行為というのは、けっこう反射神経を要する難しいことだろうと思う。私は「いい」と思っても心の中で「わぁ」と思うだけで言葉にできなかったりもする方なので、自分がそうだからこそ、貸した本の感想を返してくれたり、「はにほ堂つうしん」というフリーペーパー風の読み物の感想をくれたりお店そのものについて何か表現してくれたりする方に出会うと、自分が褒めてもらったことそのものより、ああ、こんな人が世の中にはまだいるんだなぁ、よかった…と安堵するのだった。

(noteのスキなども、私は無精なのでお返ししたりできないことも多いのに、いつも通りすがりや投稿のたびに無償の優しさで背中を押してもらえることにありがたく思っています)

もう一つ、店をしていて良かったというか発見だったのは、お店に来られた方がオリジナルの商品などを持ち帰り、それをご覧になったご家族やお知り合いの方が仕事で私を起用してくださったり、ネットで私の趣味の世界を知って、それが会社のコンセプトに近いと感じてお店を訪ねてくださることもあるなど、お店をする行為やお店のスペースそのものが自分のポートフォリオがわりになったり、個人事務所の窓口や応接室みたいな存在になっているのを感じたことだった。

お店自体は10円や50円程度のものを中心に売っているため儲けどころか、大いなる時間と経費を無駄にした「お店やさんごっこ」を2年もやっている状況だったけれど、それは思いもよらぬところで仕事にもつながる可能性を秘めていると知り、無駄ってすごいなぁと最近になって思い直したものだった。

笠地蔵が好きな私は、誰かに何かをして、それを感謝されていつか「どっさり」何かを届けてくれるのをつい期待しがちだけれど、実際にはまったく違う方向から吉報が届いたりするものなのだと。

そういえば私はお店を始める直前、「お店、という創作活動。」という所信表明のような記事を書いていた。それをすっかり忘れてしまっていて、今回読み返すと、当初の思惑をずいぶん遠い昔の話のように感じて小っ恥ずかしい一方で、ただタイトルそのものはある意味で実現できたかもなぁと胸を張ろうとも思った。

あと二回通常営業をした後は、11月20日から4日間の展示会をして、そして最終営業日を迎えるので、店主として存在するのは合計で残り7日間となった。通常営業日はもちろん、展示会も人がさほど来てくださるとは思えないけれど、あまり結果を気にせずにこの2年間の月日を煮込んだような(あるいはしぼりカスのような)ものにしたい。

以下、展示品のうちハニホ堂が制作に携わったものたちをご紹介します(お店に置く大半は古雑貨や古本などですが、それらを紹介するのは大変なので、ここでは「創作」の一部を)。

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1.オリジナル新作ZINE『喫茶店のお客さんノートを読む』本文118p

定価1400円ですが、展示会ではご来場感謝価格の1200円で頒布します。

「喫茶店に置かれているお客さんが書き込めるノートには、一体どんな人が何を書き込んでいるのだろう」

一度でもそう思ったことがある方へ、おすすめの一冊です。とはいえパラパラと読むだけでは面白さは分からず入り込めない難しさもあり、それでも70年代と80年代を編者注釈も含めて読み進んでいくと、何やら遠赤外線効果のように、じわじわと押し寄せるものがあります。根気よくちゃんと読み進めると本当に面白くてジンと来て最高なのです。内容はどれも一見ブツ切れで散漫でもあるため、少し馴染むまで読みづらいかもしれませんが、私が覚えた感動の追体験をしてほしい。そう思って作りました。

ただ人様の書いたものをまとめただけで一冊にするのは失礼なので、というのと読み物として成立させるため、私自身の個人史も書いているので、万人に(とくに知り合いにはあまり)すすめることも出来ないのですが、自分でも他人事のように書いたので、他人の方はさらに他人事だと思って気軽に読んで欲しいです。

本書の解説からの言葉を拝借します。

つぶやきの数々の多くは日々の出来事だ。しかし、下町の路地の小さな喫茶店を目指してやってきた若者たちのつぶやきの集積を、30年、40年後の目で読むと不思議な感慨がこみ上げてくる。(解説より一部抜粋/朝山実=ルポライター)

ちなみに1400円に設定したのは、以下のような原価計算をしたことによります。

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尚、展示会では、ZINEで取り扱った喫茶店を訪れた600人分ほどのお客さんのポートレイト(1974〜2017頃?)も展示します。一枚ずつだとそうでもないのだけれど、何十年分、何百人分と同じ場所で撮られた写真を見ていくと圧倒されて、心を鷲掴みにされるのです。ZINEはともかく写真に興味ある方に見ていただきたいです。

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2.「マッチくじ」。いつもは200円で柄を選べすに「引く」スタイルですが、最後なので柄を選べるけど250円とします(中におみくじ入り)。数に限りがあるのでタイミングによって47種全ての中から好きなものを選べるとは限りませんがお許しを。

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3.「お散歩ガイドブック」は残り数十冊。地味に配り続けて来ましたが、これで最後です。お店に置いてくださる場合でも個人様でも自由にお持ちください。また売り切るのになんと10年以上かかっている(笑)「4コマはにほさん」冊子も残り少なくなりました。売り切るまで一生かかるかと思ったけど、「母に貸したら戻ってこないのでもう一冊買いに来ました」という奇特なお客様や、会社で回し読みしましたというコメントをくださる方もいて救われました。

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4.福島県相馬市の「工房もくもく」さんとのコラボシリーズ。最初の缶バッジに始まり、いろいろご縁がつながって、またお客さんからも「さをり織」についてお話を伺ったりして会話が繋がったりしてありがたかったです。ぜひ相馬のことを(南相馬とよく混同されるのですが、相馬市です)身近に感じてみてください。手ぬぐいは、私自身もたくさん買っていて、展示作品や商品の埃除けに使ったり、新居でもカーテンを買うまでの間に使う予定。

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5.木工のFQDESIGNさんとのコラボ、ISSHOシリーズ。木目が美しいので、まぁ見て下さい。キツネペンダントとイナリ(お稲荷さん)ピアスがお気に入りです。葉っぱ(キツネが化ける時の)とのセットでも。

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6.ブックカバー は5〜6種類あったんじゃないかと思いますが、今回その中で、あいうえお絵のこのタイプで間違えて「しおり紐」を上下逆につけてしまったものが数個あり、それをボツにするのはもったいないので「挟みたいページの下から上に紐を渡す」方式で使ってくださる方にお売りしたいと思います。紐の先にチャーム的なものをつけました。とくに失敗作だからといってお値引きはありません(笑)ので、普通が良い場合は普通のしおり紐の方をお選びください。

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6.今回のヘッダーは最新の「ハニホ堂つうしん」の表紙でした。特集は「手荷物が重い!」…じゃなかった、「苦手なものは何ですか」です。50円しますが200円程度買っていただいたらおつけします。何の役にも立ちません。

後はおみくじ2種(はにほみくじ&凶も出る「宝寿みくじ」)もございます。

そんなわけで、11月も1日ずつ大事に生きたいと思います。次に書くときにはもう一坪店主ではなくなっていることでしょう。

追伸:ZINEやハニホ堂つうしん、マッチくじやブックカバー の一部は2022年5月ごろの文学フリマ東京に出店&展示販売予定です。開催されれば、そして参加できる状況だといいのですけどね。