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アドリブ研 : "How High the Moon" (4)

 1: 曲について    
 2: Tさん(b)作例
 3: Iさん(flute)作例
 4: Kさん(ts)作例   ←Now

Index

さて、今回曲の発案となったKさん(旧姓Hさん)です。
発案に敬意を表し、ラストに持ってきました。


Kさん作例

Fig.1a "How High" by K take1

めっちゃちゃんとしてる……
Kさんは10年前くらいからの地元の知り合いなんですが、昔はこんなソロ書く人ではなかった。コード進行をコースアウトせずドライブするタイプではなく、道なき道を猪突猛進し、ソロが終わるころには木の枝や擦り傷だらけ…みたいなソロが印象に残っています。
ここ数年「つかんだ」という発言は誇張ではないようですね。

Aパート

Fig.2a "How High" A by K take 1

まずピックアップに問題なく、いい滑り出しです。
その次のAパート2〜4小節。……ん?うーん?
これ、しっくりこないのは僕だけ?
2小節目はGΔ7のコードにはまるはずのフレーズです。3小節目はGm7。フレーズの構成音がGm7のドリアン(Fのドレミ)で構成されており、おかしくない。4小節目のCもC7ですから、おかしくはない。
それぞれのフレーズがコードの構成音で構成されてるんだから、間違いじゃないはずなのに、違和感がある。……不思議ですね。

これ、全体を1小節遅らせ5小節目をC(Fからするとソ)とすると、違和感なくはまります。(あつらえたように、ちょうど5小節目も空いてるし、その場合、普通に良くできたフレージングです)。

違和感は説明しなきゃですね。違和感は3-4小節だと思う。
「バップは解決点が大事」と何度も言っていますが、3小節目にはEとBbのTritoneが含まれている。これが強烈にC7を示唆します。となると次の小節で展開?とみせかけてC7。「階段だと思ったら平らだった」。電気つけずに階段を歩くとよくこうなったりしますけど、これが違和感の正体でしょうか。
試しに、3小節目4表のBbをBに変えると少し違和感は取れます。B-FのTritoneでG7をイメージするので、G7-C7となるからでしょうね。Gm7の場所でG7でフレージングするのはバップ的にはOK(セカンダリードミナント)。
ただ、フレーズの整合性を考えて一小節遅らせるパターンを採用(これもG7-C7-Fとセカンダリードミナントにはなる)
5〜8小節目も全く同じ構造です。これも解決点処理として、今度は2拍遅らせまして8小節目のフレーズを適当に切り詰めて Bパートにつなげました。1段目と違って、Bパート1小節目は空いていないのでそうしました。
(7小節目1ウラのEはEbに変更しました。でもEでもそこまで違和感はないんだよなー。その場合前半2拍をC7と脳が処理するんだと思う)

Fig.2b "How High" A by K take 2


Bパート

Fig.3a "How High" B by K take 1

4小節目。Gハーモニックマイナーっぽい音使いに行くのかと思ったら、2表のEとか、4拍目もF-F#-Gとアプローチノートなんですが、表拍の音はF。これだと4小節目はFメジャースケールなんよ。
(Am7-Dm7としてModal InterchangeでKey in FのAフリジアン Dエオリアンと考えてもとのコードに沿わせるんでしょうか。せめてF#を強調して Gメロディックマイナーっぽくなると解説しやすいのだが…でも案外ええ感じにも聞こえる。)
6小節目の三連の頭拍Bbも本則からいえばちょっと乱暴ではあって、三連の場所を少し移動させてみました。
三連符は「頭拍コードトーン」の本則にそわないフレーズをずらす(ごまかす)ことができます。ただ、Kさん原案も、そこまで違和感はないです。
どこでブレスすんねん、とは思うけど(笑)。

Fig.3b "How High" B by K take 2

Cパート

Fig.4a "How High" C by K take 1

1小節目。C#を効かせています。G+11の音ですね。いわゆるU.S.T. A(onG)です。オシャレ!こんなおシャレなことKさん(感涙…)。
2小節目4小節目は GΔ7とGm7の対比。いいですね。
5-6小節も違和感なし。
8小節目。ここは……やや攻めた音使いです。一見してBb7でAはちょっと使いにくい(コードテンションでは全くNG。Be-bop Scaleはありうるけど、そういう経過音でもないし…)
音列を素直に読めば、ここは1小節まるまるCom.Dim.っぽい。ただしBb7から導出されるスケールではなくこのCom.Dim.を7thコードに読み替えるなら、B7です。要するに半音上のアウトサイドアプローチということになります。攻めてる感じはこれかあ。
これはかなりかっこいいんですが、一応シンプルな解決策を示してはおきます。Bb7にはまるCom.Dim.に修正してみました。

Fig.4b "How High" C by K take 2

Dパート

Fig.5a "How High" B by K take 1

特にここは言及するところはありません。いいと思いますね。

修正案:

Fig.1b "How High" by K take 2

まとめ

随分昔のKさんを知っているだけに、成長著しいという感想を抱きました。
ほぼ別人ですやん。しかもいい方に。すばらしい。
コード進行に沿ったフレージングが当たり前にできている。書いてあるコードには厳密ではないところも、おそらく自分の頭の中でフレーズがきちんと鳴っているためです。すごくいいと思います。
バップの価値基準って、やや特殊だと思っています。
「重力」「解決点」さえあってさえいれば(アドリブにおいて)コードフィギュアの細かい構成音は二の次でOK。ドミナント・モーションの推進力は、大抵のことには寛容である反面、推進力の淵源である解決点にはかなり厳格です(本例のAパートが好例)。

これは、例えていうならばヤンキーの価値基準みたいなものです。
「軽犯罪は犯してもいいが仲間は裏切ってはいけない」みたいに世間の常識と、すこしずれている。
現在のバークリーシステムの価値基準とフロント楽器におけるビバップの方法論は、少しずれていると思っています(もちろんバークリーシステムは多分にBopを内包しているのを知った上で敢えて申し上げてはいます。またコード楽器のサウンドについては、そこまでの寛容さはないと思います)。

ということで、バップ好きのKさんありがとうございました。
すばらしかったです。

ここからは中級者を超えたアドバイスを、敢えてさせていただきます。

そう、ソロの起承転結と盛り上がりについてです。

Kさんのソロはしっかり書けているしバップさも十分にあります。
が、残念ながら、一本調子です。いわゆるソロの起承転結というものはあまり感じられない。1小節単位ごとの近視眼的な視野でソロを紡いでいるんじゃないでしょうか?(ま、それもビバップの負のエッセンスといえばそれまでですが…)
もう少し視点を遠くにおいて、数小節単位〜コーラス単位でソロを眺めてみるとどうなりますでしょうか?

ソロの盛り上がりについて

そもそも、ソロの盛り上がりとはなんでしょうか?

音価?音高?音量?アウトサイドの程度?いろいろあるとは思いますが、それらを総合したものだと思います。これは以前に書いた別ブログで、もうちょっと詳しく述べました。

今回はあえて、数値化してみようかなと思います。
・フレーズのピロピロ具合
・音の高さ
について検討してみましょう。(あくまで簡易的な評価です)。

A:フレーズのピロピロ具合は「1小節に何個音が含まれるか」をカウント。(タイで繋がれたものは一つとする。小節を超えるとリセット。ターン、グリッサンド、装飾音符はカウントしない)
 スムージングのため、4小節の移動平均線でプロットしました。

B:音の高さ。「1小節の最高音」をプロッティング(本当は最高音-最低音をプロットする方がわかりやすいが、ちょっとめんどうだった)。

結果。
Aが青線、Bがオレンジの線です。

それぞれの譜例の音高(橙)と音密度(青)の変遷
左から順に(2)Tさん(3) Iさん(4)Kさん

(2)Tさんはさすがプロ。盛り上がりが一目瞭然です。じわじわっと後半にピークを作っていますね。どちらかというとフレージングよりはモチーフ展開を重視し、ソロを構成している利点が数値化できたと思います。
(3)Iさん。
 結構序盤から飛ばしている感じはありましたが、グラフをみると波状攻撃パターンをとっています。計三度、盛り上がりを経て最後のピークが一番大きい。またこの簡易計測ではわかりにくいですが、3連・16分などリズムのバリエーションも割と豊かではありました。
(4)Kさんの場合はBパートあたりにピークポイントがあります。そのあと、同じテンションを保ったまま、やや失速、という感じです。近視眼的にソロを書いたのでは?という風に、その辺から感じとりました。

中級になったら、どんな時でもコードインサイドの音は出せる。
ソロとしての自己表現はそこからだと思います。

起承転結、盛り上がり。
鉛筆の素描でデッサンをしてから、色塗りを始めるみたいに、ソロの大まかなフレージングを考えてる段階が素描です。
それをできた上で、さらに、起承転結を考えてみたら、きっとまた、すごくいいソロが作れると思います。
それをセッションとかで反映することには時間がかかりはしますが、リアルな演奏にも、そうした構成感覚が反映できると思います。

補足:

実は書き譜ものではよくあることなんですが、なんとなく書いてたら、一番最初に一番盛り上がる部分ができちゃうことが多いんですよね。
脳の一番出汁(だし)が、最初に筆に載るから。
ホーンセクションのアレンジとか書いてても、最初に一番ファットなところができちゃうことが多い(僕だけですかね?)
のでそれを中盤〜後半に持っていった方が、結果的に省エネになります。序盤はそれの引き算で作れちゃうから。
要するに3〜4コーラスのアレンジものを作るにしても、まず4コーラスの白紙の枠を作ってから最初から埋めてくと、あとで前半後半入れ替えたりで、すげー面倒です。最初1コーラス分作ったドラフトを、まず後半に持っていって前半は引き算とか単純化して作る方が時間の節約になる。
要するに、消費者として成果物の受けとり方と、クリエイターの作る順番は違ってしかるべき、ということです。

……というか、この話、合ってます?(笑)
私はアマチュアのホーンアレンジしかしたことないし、そこまで音楽業界には関わってはないんで。実際の所しらんよ。
ですけど、例えばこういう文章とか、学会のプレゼンとかも同じように後半のピークから作っていますものですから。
村上春樹さんは長編小説は頭から順番に書き上げるようですけれどもね。(ドラフトを書いてから相当な時間を費やしてリライトするようですが)
最近はソフトを使って作るからタイムロスも大したことないですが、
手書きの頃は、すげー後悔したものでした。

おまけ:音源

iPad Notionの生データ、機械音源です。
bpm170, ほんの少しだけスウィングというかバウンスさせています。

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