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重く、軽く


ジャズ界隈でアドリブのことを考えて、もう30年近く経つ。
はっきりいってアマチュアのアドリブなんて聞けたものではないのが大半。
そんな惨憺たる状況のなか、出来るだけきちんとしたソロを吹きたい。
できればぐっとくるソロを吹きたい、なんて思ってはいるのだ。

僕のソロは軽い

私はトロンボーンを吹く。
トロンボーンは取り回しの難しい楽器なのである。バップのフレーズを吹くのは一苦労。
それがスタート地点であったこともあり、なんとか他の楽器のソロに比べても見劣りしないように、という思いが強かった。故に速いフレージングを吹けるように努力をしてきた。

30年くらいも続けていると、それなりに速いフレーズは吹けるようにはなったのである(その辺のことはまた今度)。

ただ、ふと我にかえってみると、別に速いフレーズが吹けたところで、感動するソロになるわけじゃないんだよね。
技巧と感動は、全く同じではない。
30年くらいの研鑽の結果ある程度ピロピロ吹けるようになったけど、大事なことを見落としていたんじゃないか、と最近愕然とした。

重さと軽さ

アドリブソロにしてもテーマメロディにしても、うまく言語化できないが、「重さ」と「軽さ」がある。
速いフレーズはある種の「軽さ」の代表。脱力しないと速いフレーズは吹けないし、速いフレーズは思考の速さも伴う。
例えばチャーリーパーカーの高速バップフレーズは軽さそのもの。だからこそ Bird=鳥という異名がついた。
Flyingつまり飛んでいるから鳥なわけで、軽くないと飛べない。
バップというのは、本質的に軽さを必要とする。

しかし、軽いフレーズばかりがかっこいいわけではない。
音の一つ一つの発音や音をしまうところまで入念に気を払って軽挙妄動せずに音を置く。よけいなことをしない。空白を恐れない。
こういう吹き方は最高にクールだと思う。

「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉もあるが、ピロピロよりも説得力のある一音は何にも勝るんじゃないか。
マイルス・デイビスは、そういうことをよくわかっていたのだと思う。

軽さの類例

軽さ。
軽さに特化した登場人物が重い攻撃に破られるというのは、物語でもよくある。

ボクシング漫画「はじめの一歩」。
速水龍一冴木卓麻というスピード系ボクサー。

高校チャンピオン、速水龍一
スピードスター冴木卓麻

いずれも一歩の重めのパンチで自慢の足を止められてマットに沈むわけです。
スピードを突き詰めた格闘家はたいてい同じ対応でボコボコにされがち。

あるいは。
将棋でいえば、「三月のライオン」に出てくるスミス(三角龍雪)。

スミス

第三巻で、重量級後藤九段と対戦した時の話。


将棋の攻撃の重い軽いを味わうほど僕は将棋のことはわかりませんが、しかし一般論としての「重さ」と「軽さ」についてのヒントではあるように思います。

しかしやはり「重さ」にも「軽さ」にも対応できないと、その次のレベルにはいけないのだろうな。と、スミスさんを見て思ったりする。

「軽い」と称されるのは「重くない」ということ。
長所は短所の裏返し。チャンスはピンチ、ピンチはチャンス。
重さ、というのは一見ネガティブな要素に見えるが、重さが必要とされることはあるのだろう。
だから軽さの人は重さが必要な、不利な局面に引き摺り込まれると弱い。

岡田斗司夫のこの「思考のギア」という概念も、また「重さ」と「軽さ」というのをわかりやすく示していると思う。

この考え方はジャズのフレージングにも言える。
軽くて速いフレーズにくらべて重いフレーズはスピードがない反面、トルクがある。このトルク、というのが、パワー(力)ということなんだろう。

軽い練習ばかりしても重い音はうまくならない

私はアマチュアで、別に吹奏楽の強豪校にいたわけでもないし、先生についてトロンボーンを習ったこともない。
白状するが、私は楽器が下手だ。
ジャズに関してはリスナー歴も長いしよく聴いている。
だからジャズの高速フレーズは案外吹ける。
けど、器楽演奏能力としては基本がおろそかなダメなスタイル。
なおかつ軽さを求める練習ばっかりしているんだよな。

重さのためには、やはり音色。
それから発音(複数のニュアンスの使い分け)やビブラートなど、一つの音をいかに芳醇にニュアンスを出すか。音色の吹き分け方。
そういう練習。いわゆる楽器の練習が必須なんだろう。
アドリブという名の「自由」に逃げずに、決められた音を覚悟をもって吹く練習。やっぱこの辺が必要なんだろうな。

まとめ

  • ジャズを演奏しようとすると、高速ジャズフレーズの派手さに目を奪われがちだが、それだけでは片手落ちである。

  • 車のギアと同じで速い回転とトルクはトレードオフの関係にある。

  • 速いフレーズは回転数はあるが、トルク=パワーがない。

  • フレーズを「軽く」するには修練と練習は必要である。しかし「重さ」を追求するためにはそのためにきちんと練習しないと重さを身につけることはできない。

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