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女の姿

これからしばらく、仕事が続く。
貴重な休みを控えた週末、
運悪く風邪をひいた。

最近年に1度はやってくる40度の熱。
今年はこのタイミングだと思わなかった。
真っ赤に腫れた扁桃腺で
ふらふらと病院へ行き、
点滴でなんとか熱を下げた。

そんな病み上がりの月曜日。
朝起きると顔は真っ赤で
パンパンに腫れていた。
ただでさえ敏感肌なのに、
少しでも不調があると全部顔にでる。

よく見ると肌は最近見ないほど
ひどく荒れていて、
おでこにもあごにも吹出物、
いつの間に噛んだのか、
下唇の内側には口内炎、
寝ている間に当たったのか、
入れっぱなしの軟骨ピアスの
キャッチがぶつかって、
耳の後ろには傷ができていた。

コンタクトを入れるまで
そんな自分の状態にも気づかなくて、
家を出るまであと10分、
鏡に映る姿を見て、あわててマスクを持った。

休みなしの1ヶ月の始まりに、
こんなにひどい顔で、暑い中マスクをして、
背中にはいつも通りの大きなリュック、
暑さに敵わず
髪をしばりたくてたまらないのに、
私の腕からはいつのまにか
2本のヘアゴムもいなくなっていた。
もう一度鏡を見るにはあまりに惨めだった。

打ち合わせ終わり、会社に戻ろうと
いつもの上りエスカレーターへ行く。
4段ほど先に立つ女性の
すらっとした脚が目に入る。

首まわりの開いた濃いピンクのトップスに
ちょうど足首が出る丈の
デニムパンツの組み合わせは、
もう目の前に夏が来ていることを知るには
十分だった。

ふと目線を下に落とすと、
デニムの裾から覗くかかとが少し赤くなって、
ヒールのサンダルの上に乗っている。

あぁ、痛みはこうやって、
秘かな場所に抑え込むものなのだと。
間違ったって、
顔になんか出してちゃならない、
それが、美しさのための
少しの犠牲の掟なのだと、
そんな女の強さをありありと
見せつけられたような気がして、
なかなかに目眩がした。
私も早く女になりたい。

#エッセイ
#女
#cakesコンテスト

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