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癌の治療はお金がかかる話

今日から肺癌の治療が始まりました。今回は今日の診察の記録を兼ねて、これからどんな治療をするのか、それにどのくらいお金がかかるかについて書きます。


診察室に入るやいなや、医師は「良い結果でしたよ」と言いました。癌の遺伝子検査の話です。癌に遺伝子変異があれば、その変異に特化して作られた「分子標的薬」という薬が使われます。つまり、一般的な抗がん剤に加えて使える薬の選択肢が増えるのです。

採取した癌組織を遺伝子検査にかけた結果、私の癌にはEGFR遺伝子変異がみられたということでした。私も完全には理解していないのですが、肺がんには複数の遺伝子タイプがあって、EGFR遺伝子変異陽性というのはそのうちのひとつ。最もよくみられる遺伝子タイプだそうです。

癌の遺伝子タイプが分かるとそれに特化した薬を使える

EGFR遺伝子変異陽性の癌には「タグリッソ」という比較的新しい分子標的薬が使われます。どれだけ効果があるかは使ってみないと分からないけれど、効く人にはとても効く薬なのだそうです。「3年くらい効く人もいます」という医師の言葉に、少し引っ掛かりを覚えて、私は「長く効いても3年なのですか?効かなくなったらどうなるんですか?」と尋ねました。「そうしたら、別の薬に変えるんです。途中に休みを入れたり、どんどん薬を変えたりするんですよ」と医師は言いました。

「薬が効くって、つまりどういうことなんですか?」と私は訊きました。医師によると、薬が効くと癌が小さくなるのだそうです。「癌が小さくなったり、転移した癌が消えたりしたらステージは戻るんですか?」という質問については、そうではない、ステージは診断時のまま変わらない、とのことでした。「でも、癌が小さくなったら手術して取ってしまうことはできるのですか?」と、私はさらに尋ねました。質問が多いタイプなのです。「それはできません、というか、一般的ではありません」と医師は答えました。

話題はタグリッソに移りました。タグリッソは一日一回服用する錠剤です。比較的副作用が少ないと言われているものの、医師がくれた情報冊子にはたくさんの恐ろしそうな副作用が並んでいました。余談ですが、癌にはたくさん情報冊子があるように見受けられます。診察に来るたびに新しい冊子をもらっています。癌の検査や症状や緩和ケアや種類や薬なんかのそれぞれに、よく練られたインフォグラフィックが挿入された冊子があります。至れり尽くせりです。癌はそれくらい患者が不安を覚える病気だということでもあるのでしょう。

数々の副作用の中に食欲減退だけが見当たらなかったので、「最近食べ過ぎちゃうから食欲がなくなれば都合がよかったのに」と軽口をたたくと、医師と看護師と事務員が笑いました。薬の効果を判断するためには今日時点の状態との比較が必要なので、帰る前に血液検査と心電図と胸部レントゲンを済ませました。

さて、本日のお会計です。支払い窓口で、「今日は4,210円です」と言われて、「検査もあったからこんなもんだろう」と財布を開くと、事務員さんが、「あ、ちょっと待ってください。45,600円が未払いになっていますね」と言いました。私は軽くパニックになりました。先週の肺癌診断確定までの時点で、既に173,270円かかっています。これは何のお金!?と思ったら、遺伝子検査の費用でした。そうだよね。ラボでの検査だってお金かかるよね……。

悲しみはこれだけでは終わりませんでした。薬局に行くと、薬剤師が開口一番「限度額適用認定証はお持ちですか」と訊くのです。なんと、タグリッソの薬価は一錠18540.2円。超高級なお薬だったのです。今日処方されたタグリッソと喀血を防ぐ薬2週間分は、3割負担でも優に7万円を超えるとのことでした。限度額適用でも今日支払ったお薬代は57,030円。泣き言を言う私に薬剤師が追い討ちをかけます。「これから何ヶ月も飲まなきゃいけないお薬ですからね」絶望です。かわいそうに思ったのか、薬剤師はポケットティッシュをくれました。ありがとう。

色んな方に応援していただいて、治療への意欲はもりもりだったのに、一日で10万円を超える医療費を支払うと、さすがに何だかしょんぼりしてしまいました。これから何度検査をして、何ヶ月この薬代を払い続けるのでしょうか。私のささやかな貯金は、いつまで続くのでしょうか。私の同年代やもっと若い世代では月の手取りが20万円を切る人なんてざらにいるでしょう。そんな人たちはそもそも貯金なんてできているのでしょうか。

薬が効いてほしいと願う一方、これを何年も続けるのは難しいかもしれません。今日医師がくれた診察の「補助説明書」という書類には、「いずれは緩和治療に移行する時期が来ることが多いが、それは治療効果による」と書いてあります。あ、やっぱり私は長くても数年内には死ぬ可能性が高いんだな、と改めて思いました。抑うつ状態ではあるものの、まだほとんど症状がなくて元気は元気なのに、数年内に死ぬ前提で話が進んでいくのも、どんどん医療費が出ていくのも不思議な気持ちがします。

今一番の心配事はお金です。貯金がいつまで続くか、十分なお金が稼げるか、稼ぐ意味はあるのか(使うことに専念した方がいいんじゃないか)。ちょっと鬱由来の貧困妄想も入っているかもしれません。結局、これらの心配事は余命の長さにかかっていて、でも今は余命がどのくらいなのかなんて全く分からないので、悩んでもしょうがないのです。末期には生活保護のお世話になるのもいいかも。どうせ苦痛が強くて楽しいことなんてあまりできなさそうだし、私はホスピスで過ごすつもりなので。

ものは考えようです。同年代の人だって、余命は長くてもたかだか50年ほどです。明日事故で死ぬかもしれないし。人生って何なんでしょうね。私には今、お金と哲学が必要です。(主にお金)


肺癌診断までの経過を書いた有料ノートです。読みものとして面白いという感想もいただいております。長いですが、たくさんの方に読んでいただけると助かります。拡散も大歓迎です。

お仕事ください。


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