最上級生になりました

 こんにちは。部屋のベランダにカーテンを敷きました。緑のカーテンは面倒なので、普通のカーテン。直射日光が遮られて部屋が温まらなくていいですが、暴風のたびに「ガシャン!!! バリバリバリ!!!」みたいな音が鳴るのはちょっとだけ困っています。

 はのとです。初めまして。


 最上級生になりました。物理的になったのは4月ですが、最上級生を自覚するのってこの場に上級生がいないことを認識してからじゃないですか。私の場合は、1年生の頃から一生懸命頑張っていた部活が、まさにそれを感じる環境として該当します。軽音楽部です。

 ですが、私は大学4年生。教員志望なので就活はありませんが、実習や採用試験に向けて勉強があるので、しばらく部活に顔を出していません。私の部活は、4年生の3月まで活動します。卒業式の数日前にある卒コン的なやつなので、まだまだ現役です。でも今は、だいたいみんな4年生の春は、お休み期間。進路をばっちり決めた人から戻ってきます。

 ということで、後輩だけで回っている部活を外からこっそり眺めているわけです。だからさ、先輩がいないっていう実感はあまりないわけ。部活に参加していないから。


 部活に参加はしていないけど、部員がたむろしている大学のあるスペースがあって、そこには週に1回顔を出します。後輩が好きすぎて会いたいからです。

 後輩たちはいい子なので、「はのとさん来てくれたんですか!」って歓迎してくれます。「いつ戻ってくるんですか? まだですか?」なんて嬉しい言葉をかけてくれるわけです。幸せだ。「お前ら私のこと大好きだな」なんて悪態をつくと、さらに生意気な返答が返ってきます。最高だ。

 その場には当然ですが後輩しかいません。でも私は昔はあまりそこに顔を出すタイプではなかったので、その場に先輩もいる、という空間をあまり知りません。だから、後輩しかいないな、と実感することはないんです。

 むしろ、先輩より後輩と仲良くしてきた身としては、後輩しかいない空間なんて天国です。最高です。みんなの笑顔が可愛くて、ちょっと憎たらしいところもあるけど、それもまた可愛くて。


 話は変わりますが、今年度、ようやく合宿の許可が下りました。一定の条件のもとでですが。ゼミ合宿と部活やサークルの合宿、どちらも解禁されたんです。ちょっとずつ普通が戻ってきているのが嬉しい。

 うちの部活も、今年は合宿をいよいよやりますとなり、それに向かって動き出しています。今の幹部は3年生ですが、彼らは合宿を経験していません。今部活に生存している人間の中で、唯一私たちの代だけが、コロナ前の合宿を経験しているんです。

 だから、元副部長で唯一の現存の元幹部である私に、現幹部の後輩たちがいろいろと聞いてきます。

 とは言え、私だって参加したのは3年前。右も左も分からない1年生の頃です。先輩たちが一生懸命用意してくれた舞台でただただ楽しく思い出を作っただけの1年生。運営になんて一切かかわっていないし、そこに関しては全く分かりません。

 だけどまあ、一応参加はしたので、いつ頃集金してましたか、とか、そういうのは分かります。分からないことは、当時幹部だった2つ上の先輩に連絡すれば解決できます。迷惑かけてしまうけど、面倒見のいい先輩なので、きっと詳細に答えてくれるでしょう。


 合宿が行われるに伴って、昨年から行っていた合宿の変わりとなる夏のライブがなくなりました。9月に予定されていたそれに、私は同期で1番仲のいい子と弾き語りで出る予定でした。弾き語りならメンバー集める必要もないし、当初の予定では夏のライブは8月だったので、教採等で練習期間があまり取れなくても大丈夫だろうと。

 そんなことをしているうちに夏のライブが9月にずれ、私は確実にそのライブに出られることになりました。一応8月までは教採で忙しいけど、それでも余裕が生まれるので、バンド組めるな~なんて思っていました。

 ちょうどその頃、2人の後輩からバンドに誘われました。「はのとさん、〇〇一緒にやってくれませんか?」嬉しいですね。舞い上がりました。たくさん入ってきた新入生に居場所は奪われてしまうのではないかとひやひやしていたので、まだ私という古の存在を覚えていてくれた後輩がいることにひどく安心しました。

 夏のライブへのモチベと教採へのモチベが上がる中、突然予定は変更。夏のライブは中止となり、それがそのまま合宿になることが発表されました。


 3年前の合宿。私にとってそれは、素敵な思い出だけではありません。詳しく書くと記事一本分になるので省略しますが、人間関係の大きな問題を抱えることになります。そのせいで泣いたし、そのせいで大好きな同期が1人部活を辞めました。今は戻ってきてくれたけど、当時の怒りや悲しみは忘れられません。

 もちろんいい思い出もたくさんあります。だけど、どうしても悪い記憶が蘇ってしまう。


 その悪い思い出のせいで一度部活を去った同期と、当時の話をしました。大好きな後輩たちと作れる最後の思い出だから、合宿は行きたい。でも、ちょっと怖いよね。なんて。それを共有できるのは私とその同期の2人だけなので、誰にも言えずに孤独に少しだけ悩んでいました。

 結局は行くことにしましたが、それでもまだモヤモヤはあります。それでも行く決意をしたのは、とっても悪い思い出を相殺してくれるくらいのとってもいい思い出、そして後輩の存在です。

 長かった学生という身分の中で、私は様々な先輩という立場の人たちと出会いました。中学から考えたら数えきれないよね。でも、私はそのほとんどと仲良くできなかった。何かしらのいざこざを撒いてしまったり、そもそもコミュニケーションが取れなかったり。

 そんな私にとって、唯一の大好きな先輩と出会った、というか、そういう存在となるきっかけが合宿でした。それ以来、私はその先輩みたいになりたくて部活を頑張った。担当のキーボードを頑張るのは当然として、今はギターも練習しています。その先輩と一緒にやったバンドを、今度は私がギターでやりたい。その先輩がかっこいいギタリストだったんです。

 その先輩のギターと似ているピンクの可愛いストラトを購入しました。その先輩が部室に放置しているエフェクターをパクって、家で練習しています。「〇〇さん、エフェクターください」「あげないけど貸してあげる」そんな風にして、所有権は私のもとにあります。なんつって。


 3年前、その先輩と一緒にやったバンドは銀杏BOYSです。知ってますか? 熱苦しくて、エモくて、泣いてしまいたくなるほど真っすぐでかっこ悪い、そんなバンド。私が普段聴く音楽とは系統が違い過ぎるし、好みじゃないはずなのに、忘れられない、特別なバンド。

 今年合宿に行くってなって、久しぶりに当時の動画を見ました。嘘、初めてです。合宿で、銀杏はトリを貰いました。合宿という大きなイベントのトリ。5日間の練習と濃い時間の集大成を飾るトリ。みんな感傷的になっていて、特に前列で見ていた女子の先輩たちは涙を流していました。それだけ、ギターの先輩が慕われていたという証拠です。

 そうして演奏が終わって、私はあまりにも感傷的になりすぎて打ち上げに参加できませんでした。1人で外に出て星を眺めてた。ほんとかよって感じだけど、ほんとだから。夏の終わり、汗の滲んだTシャツでは少し肌寒い空気の中、私は1人満天の星空を眺めて、何をするでもなく、泣くでもなく、ぼーっと、その場に座っていました。

 あの気持ちはなんだったんだ。今でも分かりません。寂しいような、悲しいような、でも全部が全部後ろ向きではなくて、言葉には表せないような複雑な感情。あまりにも濃い5日間だったから、辛いこともあったから、そういう思い出が全部、最後の銀杏に昇華できたのかも。

 まあ1番近いのはセンチメンタルって感じ。センチメンタルに刺された。だから、銀杏以外の自分が出たバンドの動画は見られたけど、銀杏だけは見られなかった。見られないまま、3年の月日が流れていました。


 昨年の冬。ギターの先輩はとっくに卒業してしまっていたけど、残りのメンバーはまだ現役でした。ギターは後輩に任せて、同じメンバーで銀杏をやりました。その演奏を最前列で見ていた同期は、涙を流していました。その同期は、あの合宿の後に一度部活を去った同期でした。

 その子にとっても、銀杏は特別なバンドになっていたんです。私たちの演奏をフロアで見ていた彼女にとっても。


 話は逸れたけど、そんな風なことを思い出しながら、昨日夜、寝る前、初めて3年前の合宿の銀杏の動画を見ました。そこには、現役でギターをかっこよくかき鳴らす大好きで憧れた先輩と、その横でなんとか演奏に食らいつく小さな私がいました。

 演奏中のことなんて覚えていません。何も思い出せません。だけど、最後の深夜練の後にバンドメンバーだけで見た、嘘みたいに綺麗な星空は思い出せます。それを見て思わず涙を流してしまった同期の笑顔も。それも全部含めて、素敵な思い出。


 だけど私は、気づいてしまいました。


 あのときの思い出を一緒に語れる人が、もう同期しかいない。あの素敵な時間を共にした大好きな仲間たちは、既に大学を飛び出して、新たなステージで戦っている。この場に執着しているのは私だけみたい。

 そう気づいて私は、ようやく最上級生になりました。

 なんてね。


 冬に銀杏をやったときは、まだ1つ上の先輩が残っていました。その先輩たちと同期と、あれはやばかったね、と。銀杏は俺たちにとって特別なバンドだと。懐古していました。

 後輩はすべからく大好き。30人以上の新入生はまだ1人しか覚えられていないけど、1年間一緒に頑張ってきた2年生と3年生みんな大好き。思い出はたくさんある。でも、彼らはあの時の熱量を、あの時の星空を知らない。

 彼らはこれからを見ている。私だけが、過去を見ている。その現実がすんげー重くのしかかってきます。私だけ、取り残されている。というか、置き去りにされている。というか、執着している。過去に。


 そうしてようやく、私は最上級生だという自覚が芽生えました。私は4年生なんだ。もう先輩は誰もいなくて、後輩だけなんだ。下だけなんだ。後は、ここから巣立つのを待つのみなんだ。ようやく、実感しました。


 まだ夏だけど、寂しいな。嫌だな。まだまだずっとここにいたい。でも、そんなことできなくて。できないから、ずっとここにはいられないから、だからこそ、この時間が儚いんだ。期限があるから、人はこの限られた時間を大切にできるんだって、そう思います。

 きっと、どれだけ色んなことをしても、もっとやっとけばよかったって後悔することになると思う。だけど、それでも、少しでもその後悔を減らすために、教採とか全部終わったら色んなことをしよう。後輩と遊んで、飲んで、話して、泣いて。そんな何気ない日常を謳歌する。それが、私の今の気持ちです。


 そして私が卒業するときに、少しでも多くの後輩が泣いてくれたらいいな。私の袖を掴んでくれたらいいな。卒業しないでって、どうしようもない駄々をこねてくれたらいいな。そうしたら私は、心をここに残して去っていける。そう思います。


 はいそこに君、御託ばっかり並べていないで、卒業するために勉強しなさい。

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