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カフェイン過敏人間

 多分、僕は人並み以上にはコーヒーが好きだと自負している。特に丁寧にドリップされたブレンドだったり、シングルオリジンだったりが好きで、出先でちょっとしたコーヒースタンドなんかを見掛けるとついつい立ち寄ってしまう。元々は、そこまでコーヒーにこだわりがあったわけでもなくて、数年ほど前いわゆるサードウェーブ系のコーヒーをはじめて飲んだ時に、新鮮な豆で抽出されたコーヒーがこんなにも美味しいことに驚きを覚えた。家でも時々、豆を挽いて自分でドリップをしてみるが、最終的にはコスパやら何やら加味しても店で飲む方が断然美味い。

 しかしながら、困ったことに僕はカフェインにめちゃくちゃ弱い。一般的なトールサイズのコーヒーを飲んだだけでも何だか頭がふわふわとしてきて、いわゆるカフェイン酔いのような症状が出る。最近は少しマシになったけど、以前はそれに加えて寝付きが酷く悪くなった。コーヒーを一定量(自分の中では1杯以上のコーヒーは危険であると判断している)飲んだ日の夜は動悸がするし、目が冴えて朝方まで眠れない。まったく、小学生のような身体構造に我ながら情けなくなる。

 昔はさほどカフェインの存在について考えることは少なかったように思う。学生の頃は、一般的な(また極めて堕落した)学生がそうであるように、毎日のようにエナジードリンクを飲んでいたし、試験前には眠眠打破やら何やら眠気覚ましを常飲していた。それで日常生活に何か影響があったかと言えば、そこまででもなく、元から夜型のうえ、時間だけは有り余っていたからかもしれないけれど、眠りについて悩まされることもあまりなかった。

 しかし、バイトなどでスケジュールが逼迫するにつれ、いよいよカフェイン剤に頼るようになった頃から、カフェインが切れると動悸や頭痛に悩まされるようになり、おまけに夜は眠れない。日中もひたすら身体が重いというような事態となり、軽度のカフェインジャンキーのような有様となってしまった。流石にこの頃になると、カフェインが自分に合っていないことに気が付いて、自主的にカフェインを控えるようになった。大学五回生の頃の僕は、コーヒーも緑茶も摂らず、完全にカフェインと距離を取った。

 今でも、カフェインの摂取、取り立ててコーヒーを飲む量は控えめにするように心掛けている。しかしながら、人間というのはなかなか学ばないもので、ついつい忙しくなるとコーヒーをまた常飲するようになる。そして、寝付きが悪くなり、朝も這うように布団を出るようになり、そんな日々が続くと、「ああ、またカフェイン断とう……」と心に決める。まるで薬物中毒者の断薬のような繰り返しなのであった。

 カフェインを断つとはじめの3、4日ほどが、かなり辛い。初日は割と平気なのだが、2日目くらいから尋常でない眠気に日中襲われるようになる。仕事中、デスクに向かっていても、生欠伸がいくつも出る。家に帰ると、あまりの眠さについうたた寝をしてしまう。次の日からは、今度は頭痛がはじまる。この頭痛もカフェインの常飲期間が長ければ長いほど酷く、恐らくこの段階でカフェイン断ちを諦める人も多いのではないかと思う。

 しかし、この少しだけ辛い離脱症状を乗り越えれば、精神的にも安定し、常にリラックスしたような心持ちになれるし、夜も寝付きが良く、朝もすっきりとした快眠感と共に目覚めることができるようになる。個人的には、やっぱりこの状態の方が大変生きやすく感じるので、プチカフェイン断ちを度々繰り返しているような形である。もし、何となく体に不調を感じている人がいれば、是非ともまずはカフェイン断ちを試してみて欲しい。

 それでも、またしばらくするとどうしても美味しいコーヒーに心惹かれ、常飲を再開してしまうので、なかなか僕にとってカフェイン断ちは悩ましい。適度な距離感がわからない。妻などは、いくらカフェインを摂取しても平気な体質なようで、寝る前でもガブガブとコーヒーを飲む。羨ましい限りである。いつかもしも夢が叶うならば、そんな風にコーヒーを楽しんでみたいものだなと思いながら、今日も僕は恐る恐るコーヒーを啜っている。