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プラセボ探偵 光永理香 7

7 神戸児童連続殺傷事件

かっちゃんの披露宴が盛大に盛り上がった。
新婦側の出席者がいない為、殆どY口組の懇親会の様相だった。カツマタ家の親族はわかっていたけれど改めてビビらずにはいられなかった。
私こと光永理香はかっちゃんと新婦の幸せそうな顔を見られて心から祝福をしていた。
ここ神戸まで来た甲斐があったと言うもんだ。
折角だから明日は一日神戸の街を巡ろうと考えていた。

だかそんな気分をブッ飛ばすくらい胸くその悪い事件が起きた。

「神戸児童連続殺傷事件」である。

1997年5月27日早朝
小学校の正門に男児の頭部が置かれ、口に犯行声明文が差し込んであった。
「酒鬼薔薇聖斗」
犯人が声明文に残した漢字5文字の見慣れない言葉。
マスコミは色々な解釈をしていたが、私には子供が考えた「名前」にしか見えなかった。
そう思ったのは、あて字にはしているがペンを使って直筆で書いている点だ。犯人像を撹乱させる為ならワープロか活字の切り貼りを使うべきだ。またこの犯人は調子に乗ってわざわざ学校と言うヒントまで残した。学校に恨みを持った人間がわざわざ学校を選ぶはずが無い。そこを逆手に取って現場に学校を選んだのだろうが自分の作品かのように正門の中央に頭部を設置したのが犯行の責任を学校に押し付けているように感じた。まるで「学校が◯◯君を殺したのであって、自分が殺したのでは無い」と思いたかったという幼稚な責任転嫁のように感じてしまう。

この思い込みを警察に話そうと電話をした。
一応取り合ってくれて話しは聞いてくれたが捜査の参考にするとは言われなかった。
マスコミにも電話をした。
新聞とTV局に話したがあきらかに面倒くさそうに対応された。
ホテルのテレビで緊急報道番組を見ているとジャーナリストのK田清という人が「酒鬼薔薇聖斗」は「サカキバラセイト」と言う名前だと解説していた。
この人なら私と同じ考えを理解してくれる思い番組を放送したテレビ局に連絡した。番組スタッフに伝言と私の推理、私の連絡先を託し折り返しの電話を待った。

その夜になっても事件の報道は加熱する一方だった。私は次の日早くには神戸をたたなければならなかった。

そんな夜、K田氏から電話が来た。

「あなたの意見を聞きたい」と言われたがもう明日の朝には神戸を出るので今この電話でかいつまんで聞きたい事を聞いて欲しいとお願いした。
K田氏は私の推理とその根拠、今後の犯人の行動を聞いてきた。それに対して私は自分の考えを伝え今後どうすれば犯人を追込むことが出来るのかアドバイスした。K田氏は真摯に私の話しを受け止めてくれた。私の推理をもとに明日の緊急報道番組で犯人に語りかけるといってくれた。「健闘を祈ります」と電話で励まし話しは終わった。

次の日、私は新幹線に乗る為、朝早くホテルを出た。お昼過ぎの情報番組は報道特番に代わっていた。東京駅に着いて電気屋のテレビで番組を見た。

番組では司会者がこれまでの経緯を説明した。
その後各コメンテーターに質問を投げかけていった。K田氏には犯人の人物像に関する質問が振られた。K田氏はこの犯人は「非常に幼い精神で異常な性癖のある30代から40代の男」と言い放った。
「未熟な知能で犯行声明文なんて書いて意味不明だし誤字脱字が多い」と罵った。
当然視聴者や当局から「犯人を刺激するな」「第二、第三の被害が出たらどうするのか」と言う抗議が殺到した。
CM中にK田氏は厳重な注意を受けたがまたコメントを求められると注意は無かったかのように続けた。

「サカキバラセイト、これはお前の名前なんかじゃ無い」「ただの偽名だ!偽物だ!弱い者しか狙えない臆病な変態野郎だ!人殺しでしか射精出来ないコンプレックスの化け物だ」

番組はこの発言の直後、CMに切り替わった。
CM明け、K田氏の姿はスタジオから消えていた。

その後、K田氏がどうなったか私は知らない。
ただ言えるのは彼は幼い精神状態の犯人に間違った犯人像を伝え自尊心を傷つけ、なにかミスを起こさせようとしたと感じた。K田氏の一斉一代の大芝居だったと思った。

6月4日
犯人は神戸新聞社に抗議文とも取れる手紙を出した。「先日見たテレビ番組でボクのことを臆病な変態野郎って言った奴がいたけど、ボクを馬鹿にするならもっと大人を殺したっていいんだ」「ボクに失礼な事を言うと第二第三の犠牲者を出します」「警察はもっと必死にボクを探せ」など他にもクドクドと長文で直筆の手紙を送り付けて来た。

6月28日
結局あの手紙が中学の作文と筆跡が一致し犯人は任意同行される事になる。
犯人は犯行現場近くの中学校に通う中学三年生だった。
警察に「この犯行声明文や抗議文と君の筆跡が一致したんだ」と突きつけられると大声で泣き出し犯行を自供し始めた。
ただこの時点では筆跡鑑定の結果はまだ証拠として認められていなかった。警察のプライドをおちょくった罰が下ったのだろう。

その後、私は犯人の少年が刑期を終えて世の中に戻ったと聞いた。
刑期が終わっても被害者の悲しみは変わらない。
むしろ少年が普通に暮らしているのは苦しみに変わらない。母親の虐待があったとか言われいるがそんな事は被害者には言い訳にもならない。

ただ思い込むのは、当たり前の事だが親は子供に愛情を込めて育て欲しいと言える事だ。

つづく(7/52毎週日曜日20:00更新)


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