今年のR-1ぐらんぷり

 粗品おめでとう!

 今年のR-1ぐらんぷりはいつもとまったく違う雰囲気だった。
 客席の空気が軽いのだ。いい意味で。
 いつもR-1ぐらんぷりの客席は重くて、笑いづらい雰囲気が流れていた。

 なんでだろう?

 漫才やコントを二人の会話とすると、R-1はずっと独り言だ。だから話される観客は耳をすまさなければならない。話しかけられているから。
 そもそも「R」は落語の略だけれど、落語もまた会話を演じる。

 たとえば飲みの席を想像してみる。さし飲み、三人で飲むとき、集中力に差がないだろうか。なんとなく、三人の方が盛り上がる気がする。人数の問題かと言われるとそういうわけでもない。四人よりも三人の方が会話が弾むような気がする。
 相手の話を聞かなきゃという集中力と、何かを答えなきゃという責任感が、会話の根底には流れているように思うのだけれど、四人だと誰かが答えてくれるだろうという安心感が、責任感を薄らがせる。二人だと責任感がもろにかかってくるから、集中力も自ずと高まる。双方のバランスがちょうどいいのが三人だ。責任が一身にかからない分、集中と安心が適度に同居する。
 なんか難しい言い方になってしまったけど、ようはボーっとして話が入ってこなかったときも、もう一人の相槌で話がわかる時がままあるということだ。でも自分の相槌でもう一人を助けなければいけない。
 もちろん、飲みの席でそんなことは考えていない。

 無意識の話だ。でもその安心の割合は、笑いの量に直結するような気がする。笑いどころがわからなければ笑えないのだから、集中力とも。集中と安心が適度に同居するところに笑いは起こりやすいのではないか。
 だから落語はその辺のバランスについて、一人の話芸で表現し笑いを起こすことについて、よく考えられていると思う。寄席の歴史が作った語り口なのだろう。

 だから、R-1ぐらんぷりには笑い辛い雰囲気が流れていたのかもしれない。話しかけられているから聞かなければいけないという過度の集中力。或いは話しかけられてすらいない、一人芝居。それは異質な世界だ。たとえばツッコミがいれば異質な世界を異質と言ってくれる。だが一人でそれが行われていると、世界の中に案内してくれる人はいないのだ。自分で飛び込まなければいけない。
 そこに賞レースであるという事が大きくのしかかる。笑うということが、誰かの人生を左右してしまう場なのだ。だから集中と責任は、さし飲みとは比べ物にならないくらいに大きくなるだろう。

 だからこそ、わかりやすく下らない芸はウケるんだろう。(最高)
 (M-1でもキングオブコントでもそれは変わらないか。)(最高)

 でも今年のR-1ぐらんぷりは違った。客席全体が安心しているのだ。
前説がよかったからだろうか。記憶が間違っていなければ、BGMも明るい曲が選曲されているような気がしたのだが気のせいだろうか。
 わからないけど、とにかく笑いやすい雰囲気が演出されていたように思う。

 去年の粗品のネタと今年の粗品のネタの変化を見るとわかりやすいことがある。去年の粗品のネタはエンタの神様的なパッケージを、フリップ芸に投入した形だった。おそらく以前よりもわかりやすくなってた。でもその分面白さはグンと下がっていた。しかし今年は元からある、ABCグランプリで優勝したときの形だった。M-1優勝の勢いもあったから、前と同じ形で勝負したのかもしれない。
 でも私は運営側の変化な気がする。以前では決勝に上がれなかったような気がする。エンタの神様のように、R-1仕様に変化させたネタでなければ。

 今年は視聴者票がなかった。それも関係があるかもしれない。完全に審査員が決めるものと、わかりやすく責任がプロに委託されたことで、素人である安心感が笑いやすさをさらに高めているような。

 観客の悲鳴というのが槍玉に上がっているが、まったく気にならなかった。むしろ素直に反応できる環境づくりを賞賛したい。M-1グランプリやキングオブコントと違って、R-1ぐらんぷりは悲鳴やへえという声を上げるくらいの環境の方が安心して笑えると思う。いつもの笑い声が少ない重いR-1ぐらんぷりを思い出すと、今年のR-1は本当によかったと思う。

 独り言。(ド定番のフリップ芸が優勝という記事を見かけたのだけど、どこがド定番なんだよって思うし、フリップ芸やってる芸人全員に謝れって感じの表現だなあ。)
 独り言。(岡野陽一のネタめちゃくちゃ面白かったなあ。)
 独り言。(マツモトクラブ着の身着のままネタやっててカッコよかったなあ。)
 独り言。(ヒロミいなくてよかった。)
 独り言。(批判より先に祝福するべきだよな。)
 独り言。(何回も書いて改めて思ったけど、ぐらんぷりって平仮名で表記するのめっちゃダサいな。)
 独り言。(M-1とかって芸人をドラマチックに描きすぎというか、さっき「人生を左右する」とか書いたけど、そんな大層なことを観客に思わせちゃお笑いじゃないと思うんだよな。なんかスポーツみたいになってきて、嫌だ。スポーツ嫌いだから。笑えるからまだ救いがあるけど。)
 独り言。(R-1の一番の希望って、松本人志が審査員席にいないことだ。確かに松本の審査は素晴らしいし、あの人はテレビモンスターだからちゃんと笑いも交えられる。でもR-1にまで松本人志が登場したら、松本人志が面白いと思うものが面白いっていう価値観が、どうしたって根付いてしまうだろう。それは笑いの終了だ。)
 独り言。(松本人志については改めてまた書きたい。)
 独り言。(やっぱり粗品は面白いなあ。おめでとう。)
 独り言。(飲み行きたいなあ。)

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