おかしなおかしな合格発表

  最長五年の任期付き…という仕事を得る為の、就職試験を受けてみた。筆記試験があって、それをクリアすれば面接試験に進める。ちんぷんかんぷんだったのに、何故か私は筆記試験に合格した。
 受験中は問題が難し過ぎて、途中で気が狂いそうになった。択一式だったのですべて回答したが、わからなさすぎて時間が余り、見直してもやっぱりわからない。全部回答したからなのか、何故か現在、自分でも不思議なくらい前向きに生きているせいなのか、勝手に合格した気でいたが、実際に合格通知が届いてみると、本気で吃驚した。
 募集人数一人に対し、受験者は五人であった。
 以前同じ組織の別の試験を受けた時、筆記試験の成績順で上位二人か三人が面接に進め、その中の一人が選ばれる…という類のものだったことから、今回もそのように想定していた。自分はその中でも成績は最下位だったのだろうな…と。
 面接会場の控室に行くと、既に二人の受験者が席に着いていた。
 大きなホワイトボードに、返信用封筒への記載事項が記されている。見つめていると、座っていた一人の受験者が、机上に置かれていた封筒と一枚の書類を差し出してくれた。礼を言って彼女の隣に座り、書類を参考に黄緑色の封筒に必要事項を書き記す。書類には合格発表の方法についても記載されていた。
 間もなく、案内係の男性がやって来て、面接の手順を説明をする。
「面接会場は二階になりますので、1時55分になったら上に上がって、三人一緒に入ってください。」
 男性が去った後、私は時計を見ていた。あと一分で55分…というところ、他の二人は動かない。間もなく、その一分は過ぎたが、二人とも動こうとしない。
「あの…55分になったので、行きませんか?」
 声を掛けて二人は、ようやくバタバタと席を立った。
「三人一緒に…」と言っていたが、入る順番などはどうでも良いのだろうか…。普通は受験番号順である。何も言わない二人に向かって訊ねると、女性が四番で、若い男性が六番だと言った。私は五番だったので、順に倣う。
 梅雨の只中だが、割と涼しい日だった。迷った挙句、フォーマルカジュアルな七分袖のチェックブラウスに白いパンツを選んだ私に対し、左右の二人はばっちりリクルートスーツ。一人浮いている気がしたが、リクルートスーツは暑い。それに、現在どういうわけか変に前向きなので、極力気にしないことにした。
 面接中、左右の二人があまりにも緊張していたので、間に挟まれた私は反ってリラックスしていた。女性はしどろもどろで、男性は頓珍漢。私はいつも緊張して、その両方を担うくらいなのに、変に余裕をぶっこいてへらへら笑っていた気がする。
 笑顔は大事…。しかし面接官がまるで笑っていなかったので、空回りだったと言えるかも知れない。
 面接中、誰かの携帯電話が鳴った。とても静かな音だったが、荷物は三人とも同じ机上に置いていたので、犯人はわからない。誰も明らかな反応は示さなかったが、面接官は音に気付いた筈だった。
 筆記試験の案内書には【合格者は18日の午後1時半から面接を予定しています】と書かれていた。
 私達の面接予定時刻は、午後二時からであった。
 受験番号が並んでいることといい、一時半からは別のグループが面接試験に臨んでいた可能性がある。筆記試験の受験者は五名だったので、一番から三番の受験者の内、二名の面接が行われたのだろう。
 面接終了後、同胞と「お疲れ様でした」と言い合う。男性が私に呟いた。
「いや~、筆記受かった時点で『なんでや?』って思ったんですけどねー」
 彼は筆記の後でも、エレベーターに乗り込むなり、もう一人の男性受験者にぺらぺらと話しかけていた。
 団栗の背ぃ比べで、落とす人に宛てが無かったのだろうか…。筆記に合格して一時有頂天になったが、結局全員クリアして、競争率は五倍のままだったに違いない。
 合格発表について書かれていた書類の記載を思い出す。
《結果は全員に発送します。26日までに届かない場合は、ご連絡ください。合格者には24日に電話でお知らせする予定です。》
 沸々と謎が浮き上がる。
〔面接どうやった?〕
 友人から入ったメールに返信するために文章を作成していて、改めて気付く。24日に電話が無かった時点で、それは不合格ということではないのだろうか…。
 友人からメールに返信が入る。
〔ほんまや…その電話っているん?よぉわからんなぁ?その電話で辞退する人がおったら、次の人に…って順番に電話していくんかなぁ?そっから発送するんかなぁ…よぉわからんけど…。手間かけるなぁ…。郵送だけでええやん!〕
 以前、似た様な受験をした時、私には【補欠一位合格】という記載の通知が届いたことがあった。採用辞退者が発生した場合、合格が繰り上がる…という添え書きがされていたが、辞退者が居ない場合は、不合格と同等の扱いである…という趣旨のものだ。それでは何故いけないのかは謎である。組織は同じなのに、方法が別ということもあるのか…。
 ほんま「よぉわからん」が、友人の予想が当たっているような気もする。受験者は、組織によって都合の良いように振り回されるということの、典型であるようにも思えた。

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