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選歌 令和6年3月号


山茶花の白と紅葉の交差して庭しづかなりひなたのかをる(西尾 繁子)

車窓より遠く紅富士の瞬時見え「うおっ」と心の雄叫びを聞く(三上 眞知子)

いてふ並木の黄金なれる道をゆく前世わたしはインカの女王(山北 悦子)

わたくしの原点として拾ひたり産土の杜に無患子ひとつ(渡辺 茂子)

人影を透かして見ゆる冬の海剝離してゆく思ひ出ばかり(臼井 良夫)

葉を落とすごとく蔵書を手放すは遠き昔の乱読少女(高田 香澄)

三日月の鋭き光揺るるときわが影薄く剥ぎとられいる(高田 好)

ブロッコリ刻んで茹でて食しつつ今年の私の思い「凛」です(田口 耕生)

涙声になりゆく吾にさりげなく友は話題をそっとずらせり(田中 昭子)

ラジオから“ムーンリバー”が流れきて年末掃除しばし中断(南條 和子)

うなだれて雨に濡れいる白鷺がひこばえの田にぽつんと映える(藤田 直樹)

鋭角のビルの谷間の紀尾井町オープンカフェで風と味わう(宮本 照男)

そびえ立つマンション群はパタパタと折りたたまれて夕日に沈む(森崎 理加)

砂時許の砂はさらさら幾たびも過去も未来も汚れを知らぬ(伊関 正太郎)

手袋の両手をしっかり繋ぐ紐首から下げて掛けてた戦中(奥井 満由美)

霜月の浮雲抜けてまっしぐら線描すすむ機影見えぬも(永田 賢之助)

フレイルと言はれれば新種の病かと日本語で言へこれは老化と(成田 ヱツ子)

幾尾ものドンコを獲りて驚かす俗人となりて母も喜ぶ(橋本 俊明)

安静という名のもとに貪りぬ無為の時間よそろそろ起きよ(松下 睦子)

バイタルを記録してゐる左手に見とれてゐます今朝もきのふも(毛呂 幸)

亡き友の思ひ出話限り無し御子息に書く便箋七枚(井手 彩朕子)

兵隊の水筒眠る蔵静か起こすな平和の夢から起こすな(山内 可奈子)

入院の母に置き去りの父ひとりオロオロオロと賀状も書けず(建部 智美)

日だまりの特等席に犬と座し煙草くゆらす祖父のいた冬(髙橋 律子)

霊園の紹介電話断りの切っ掛けとなる大きな嚔(田村 ふみ子)

歩みつつかつて「山窩さんか」と呼ばれいし流浪の民に思いを馳せる(鎌田 国寿)

金沢と小松におわす我が友の無事が分かるは日が落ちてから(菊池 啓子)

逆光に紅葉の彩のてらてらとわが血流に混じり来る赤(財前 順士)

強風にしらしらと波ひるがえり百羽の千鳥飛び立つごとく(清水 素子)

私ならアッと仕留めるゴキブリを「一晩格闘!」と娘は伝え来る(高橋 美香子)



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