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選歌 令和5年12月号

訳ありの棚に並べる傷リンゴ色も形もやはり訳あり
木下 順造
 
風情ある老女Kさん痩せた身の奥に鳴りいる生命の鈴
高田 好
 
よれよれの心に流すそうめんに捻れたことば少しほぐれる
髙間 照子
 
ぽつねんとひとり佇む停車場に冬を銜へた鵯の舞ふ
常川 緑
 
七年後の中秋の月に会ふ会はぬ夫婦語りの稚なめくまで
橋本 俊明 
 
常夜燈のひかりかすかに射す部屋に影さへ持たず眠らむとする
広瀬 美智子
 
幼児はいつも何かを抱きてをり今朝はほろほろあしかが笑ふ
渡辺 茂子
 
冷房の部屋には寄らず板の間に寝そべる猫は暑さに痩せて
今野 恵美子
 
ゲレンデのロープウエイは最終日ゆりの香残し季節は動く
才藤 榮子
 
曇れるが気温は高し救い神のタクシー探し歌会をめざす
清水 素子
 
どうやってフェイクニュースを見分けるの超人類の時代が来たり
高橋 美香子
 
病室に夫の遺しし日記帳  吾に見せざる弱音ののぞく
田中 昭子
 
いつまでも吾には子だと思ひつつ昼寝の吾娘に風を向けやる
谷脇 恵子
 
バラ咲かぬ炎天の庭我が身さえ心も体も壊されていく
松下 睦子
 
仕舞い置く金銀などの有る無くてからから笑う口のさびしさ
渡辺 ちとせ
 
明日あるを当然として一人食むゴーヤのピクルスいそいそ作る
青山 良子
 
愛読の歌集久々めくりゆけば先の先までライン引きゐる
井手 彩朕子 
 
「喜代ちやん」と呼ばれてはいと目をさます母の声だあの世からか
岩井 喜代子
 
自らの命の終わり近きこと夫は知らずには知らせずに
玉尾 サツ子
 
いらないねと言えばいらなくないよとう幼の言も話題となれり
藤峰 タケ子
 
朴の葉の散り初めるころ確かめに回り道する今日は秋分
田村 ふみ子
 
機上での一期一会にスマホでのおかしな翻訳笑うしかない
関根 綾子 
 
この道にセンターラインは無いけれどひかれたように導かれて行く
藤田 直樹
 
夕食の片付け早く終らせて又見上げようを待つ月を
三上 眞知子
 
誕生日まずは洗濯物を干し遺影に向いて戻って来いよ
森本 啓一
 
カップルとカップルの間に座るカウンター熱燗飲みて夏を逝かしむ
山北 悦子
 
口中に頬張る氷齧ればかきかき夏が  かきかき弾ける
山口 美加代
 
ピピピッと終わりを告げる体温計私が義父の耳になる時
渡邊 富紀子 
 
手洗ひも灯りも全てセンサーにその時吾はロボットのごと
伊関 正太郎
 
ご主人のネクタイつなげ作りしとふ丸きサイフは形見となりぬ
岩本 ちずる



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