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――番外編 オンチ卿の来襲!?(後編)

 ハピバ島へ入るには、まず真っ赤な壁のエントランスを通らなければならない。そこに今、エピトとハチピがいた。

「ねぇ、本当にオンチがあると思う?」
「すみません、オレが友達がいないなんて言っちゃったから……。と、取り合えず見てみましょう! もしかしたらないかもしれないし!」
「わああああ!! ってか警報って書いてある~~~!!」

 ハピバ島に入るための扉に"警報"という文字が浮かび上がっていた。
 嫌な予感がしつつも扉に手を伸ばし、中に入る。

「え……。ちょ……」

 二人の言葉が一瞬詰まった。

「ちょっとみんなぁ~~~~!!!!」

 二人の目の前には、オンチオンチオンチオンチオンチ……。
 いたるところにオンチがたくさん落ちていた!!

「僕たちのハピバ島がぁ、大変なことになってる~~~!!」
「ちょっとぉ!!! ナニコレェ!?」

 オンチが落ちているだけではない。
 青かった海や空は緑色に染まり、コンテナの奥にはブラックホールのようなものが渦巻いている。これはめぐちゃんの住む世界とエピトハチピの住む世界が交わったことに出来た空間の歪みなのだ。そんなことなど知らないエピトとハチピは、ハピバ島の変わりようにただただショックを受けていた。

 リスナーさんからは汚いという言葉も出るくらい、ハピバ島は汚染されている。

「オンチ卿……ヤバイ奴に目をつけられてしまいましたね……」
「うううっ……。もう絶対に勝とう!」

 エピトとハチピは痛めた心を決意に変えて、オンチ卿を倒すことに決めた。


 ◇

 決戦日当日。
 めぐちゃんのゲーム配信にエピトとハチピも一緒に加わる。

「本当、ハピバ島凄かったよね。私、怖くて行けなかったもん。オンチ卿の力、凄いね~。元に戻すために、三人で力を合わせてやっつけないと~。勝てばきっと元に戻るんじゃないかな……」

 少し自信なさそうなめぐちゃん。エピトは不安が隠せなかった。

「本当、悲しかったですからね。元に戻してくれるかな……」

『WA~HAHAHAHAHA! どうだ、ハピバ島のオンチは気に入ってくれたか?』
「いや、気に入ってって……中には可愛いのもいましたけど」
『そうか、気に入ったか』

 エピトの答えにオンチ卿は嬉しそうだ。

「あ、オンチ卿。配信しているからもう少し声を張ってくれる?」
『声を張る? どういうことだ?』

 めぐちゃんがお願いすると、分からないふりをしながらも音量調節をしてくれる。

「ありがとうございます。上がっております」
『上げてない! 大きくなってない!』

 ハチピがお礼を言うと、オンチ卿は全否定する。素直じゃないオンチ卿にリスナーさんたちが笑い、和やかなムードだ。本当に敵なのか分からないくらい人気者である。

「朗らかな会話ですオン」
「トオンくん!!」

 久しぶりに会えたトオン君にめぐちゃんが喜んだ。

「僕は今、オンチ卿に操られているオン……」
『HUHUHUHUHUHU。さぁ、対決だ!!』

 感動の再会などどうでもいいオンチ卿はとにかくゲームがしたいらしい。

「じゃあオンチ卿、ゲームのルールとか説明して」
『ルール? そんなものはない!』
「いやいやいやいや!」

 一斉に突っ込みが入る。
 なかなか話が進まない進行にハチピがトオンくんにこっそり耳打ちをする。

「トオンくん、ちょっと仕切ってください……」
「じゃあ、操られている僕がルールを決めるオン。今日はブロストというゲームで対決しますオン。ちなみにエピトとハチピのトロフィー数はどれくらいですかオン?」

 トロフィーが多いほどランクが高いことを意味する。

「僕は今、295です」
「えっ!? 合計!?」

 エピトの答えにめぐちゃんが驚く。

「はい。えーっと、そうですね」
「あの、めぐちゃん。リアルに煽るのやめてあげてほしいですオン」
「えっ、もしかして僕、今マウント取られました?」
「違うよぉ~」

 ちなみにめぐちゃんは4500を超えている。驚くのも無理はないのかもしれない。

「ハチピはいくつですオン?」
「オレは~右から1、4、3ですね」
「……えっと、二人とも始めたばかりですオン」
「わ、笑ってるね~」

 トオン君も4000を超えており、思わず笑いが漏れる。差がありすぎる。

「えっと、僕は今、オンチ卿に操られているから敵ですオン。だから敵が初心者で安心したですオン。ということで、五回対戦で先に三回買った方が勝ちですオン」
『五回? 五回しかしないのか? 無限にやるぞ、無限に!』

 めちゃくちゃ不満そうなオンチ卿。

「えっ、じゃあどうやって勝負を決めるの?」
『勝負なんて関係ない!』
「関係ないんだ! ただ遊びたいだけ!?」
『……』

 反応がないところを見ると図星らしい。

「えっと……とりあえず五回対戦するオン」
「勝負だからね、罰ゲーム決めよう」
『罰ゲーム? 笑わせるんじゃない!』

 めぐちゃんの提案にオンチ卿が否定する。

「え? 面白かった?」
『面白くない! なんだ罰ゲームとは!』
「勝ったら負けた方に何かしてもらうとか」
『そんなのやらなくていい!』

 オンチ卿、完全に遊びたいだけだ。

「じゃあ、こちらで勝手に決めちゃいましょう」
『勝手に決めろ!』

 エピトの提案にオンチ卿が許可をしてくれたので、めぐちゃんが決めた。

 めぐちゃんチームが勝ったらオンチ卿とゲームのフレンドになることと、ハピバ島のオンチをお掃除してもらうこと。

「オンチ卿が勝ったらどうしたい? それも決めていいの?」
『よし、じゃあ私が勝ったらお前の日曜配信にオンチを…………置く。オンチを付けながら配信するんだ!』

 やっとまとまったところで、オンチ卿待望のゲーム対戦が始まった。ちなみにオンチ卿チームの三上さんは静かに参戦している。


 ◇

 一回戦は、容赦ないトオン君の攻撃にめぐちゃんチームは惨敗した。しかし、二回戦、三回戦は初心者二人がいたにも関わらず、めぐちゃんチームが勝利を収めることが出来た。

「これでリーチだ!」
「負けてますオン。どうします、オンチ卿」
『本気を出せ、本気を! 突っ込んでいけ!』

 そして本気を出したオンチ卿の活躍で、四回戦目はオンチ卿チームが勝った。

『スクショタイムだ! スクショしろスクショを!!』

 一番活躍した人にMVPが贈られるのだが、オンチ卿はそれが嬉しかったらしい。リスナーさんたちにスクショを求めた。

「あはは、ごめーん。私、すぐ画面切り替えちゃったから~」
「欲しがりだねぇ~」

 めぐちゃんが操作している画面がリスナーさんたちが見ている画面になるため、スクショをしろと言ったタイミングではすでに待機中の画面に変わっていたのだ。

「……とりあえず次行きますオン。最後の戦いですオン」

 ワイワイしている中でも、ちゃんと起動に乗せしっかり進行してくれる高性能AIのトオン君。

「最終決戦はトロッコが通る面にしますオン。ハピバトの二人はやったことがありますかオン?」
「えーなにこれ?」
「やったことありません」
「ここ、トロッコが走ってきて当たると1000ダメージ受けるですオン。なのでトロッコにやられることが多々ありますオン」
「え~、やばー!」
『私は死なない!』

 自信満々のオンチ卿であったが、実際試合では突っ込んではトロッコに轢かれて死に、突っ込んでは轢かれて死んだ。
 そうした結果、めぐちゃんチームが勝った!

「やったー!! 嬉しい~!! これでトオンくんも三上さんもオンチから解放されるね!」

 トオンくんとひっそり活躍していた三上さんも頭に乗っていたオンチが取り除かれた。

「なんだか頭がスッキリした気がしますですオン」
「よかったぁ~!! じゃあ、フレンド登録するね!」

 こうして罰ゲームであるオンチ卿とのフレンド登録も無事に終えた。

「ちなみにフレンドゲームはソロバトルロイヤルで遊ぶことも出来るオン」
『それだ!』

 何がそれなのかは分からないが、オンチ卿のテンションが上がる。

「こういうので遊んでみるのも面白いですオン。これは全員が敵ですオン」
「やってみる?」
「そうですね~、オンチ卿はまだやりたそうですし」

 エピトが同意し、やってみることになった。

『これで勝ったら……私の勝利でいいな?』
「え?」
「むちゃくちゃなこと言ってくる」
「それはめぐちゃん先輩が決めたらいいんじゃないですか?」
『そんなの関係ない! 百回勝ったことになる!』

 オンチ卿の小学生みたいな発言にみんなが笑い、よくテレビとかであるよね~なんて言いながら話が流れた。

 自分以外は敵。
 ゲームが始まると容赦なく打ち合いが始まった。

 エピトとハチピはめぐちゃんを守ると言っていたが、エピトはコンピューターにやられ、ハチピはトオンくんにやられた。ハチピにやられた傷があるうちに、めぐちゃんがトオンくんを追いかけ倒す! しかし、そこへオンチ卿がジャンプしてめぐちゃんに体当たりをした! 一発だった……。

『スクショしたか? 百回勝ったぞ!』

 なんとオンチ卿が優勝してしまった!!

「オンチ卿が優勝した場合はどうなるですかオン?」
『日曜日だ! 配信に……オンチを贈る……』
「うえ~~~~~ん」
『そして、ハピバ島もまだまだオンチを置くぞ!』
「ええ~~~~~!! さっきの勝ちはなんだったんだ~~~!! あ、じゃあ一歩……百歩譲ってもらって期間だけ決めてもらえないでしょうか? あのままだとちょっと……」

 めぐちゃんは一応フレンド登録をするという目的は果たしたが、ハピバトとしてこのまま引き下がれない。エピトが交渉する。

『わかった。50年後ならどうだ?』
「長いよ!!」
「オンチ卿は僕たちと違って月日が進む概念が違うんですオン」
「僕たち、50年はちょっと長いんですよ……」
『なら、日曜の配信が終わるまででどうだ?』

 一気に縮めてくれる、意外と優しいオンチ卿。

「ありがとうございます。それでおねがいします」
「そもそもオンチ卿が原因なのにお礼を言うのもなんですオン」
「確かに」
『私は百回勝ったからな! では、さらばだ!』

 やるだけやって満足したオンチ卿は嬉しそうに去っていった。

「嵐のようなやつですオン……」

 オンチ卿がただ遊びたいがために集められたエピトとハチピ。色々ととばっちりは受けたものの、楽しかったようだ。それに月曜日にはハピバ島も綺麗になり、平穏な日常が戻った。

 日曜配信にオンチを乗せられためぐちゃんはというと、ファッションオンチになっていた。とても可愛いとは言いにくい姿ではあったが、優しいリスナーさんたちは暖かい目で笑ってくれていた。めぐちゃんも楽しそうだから良しとしよう。

 こうしてオンチ卿の来襲は、嵐のように過ぎ去っていった――。



番外編の動画はこちら

オンチ卿の脅威!ハピバ島大ピンチ!


※実際の配信はSHOWROOMでご覧いただけます。
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