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むてっぽうな人生

台風一過だと、油断していた。

2023年8月16日(火)午後19時半ごろ、
吹き荒れる強風と、車体に吹き付ける強い雨、そして車のすぐ横を流れる小川の普段とは様変わりした濁流を見ながら、私は「甘かった……」と、ひしひしと自分の甘さを痛感していたのである。
これは、先日日本列島に打撃を与えた台風7号と、それに翻弄される無鉄砲な私の体験記である。

中央は生き残った蜘蛛の巣

その日の朝、私の地元である岡山県の自宅から見える空は台風一過で光り輝いていた。
強風にも負けず生き残った蜘蛛の巣が、朝の日の光にキラキラと輝き、空は晴れ渡るような青空だった。
その日山を1つ越えた近隣の街に用事があり出かける予定があった私は、その空を見て、もうすっかり台風は過ぎたと思い込み、意気揚々と出かけたのであった。

その近隣の街には、普段だと山道を越えて行く。安心しきっている私はいつもの山道に向かって車を走らせた。
すると軒並み、山越えをするどの道も全面通行止めのバリケードが貼ってあったのである。

若干出鼻を挫かれた感のある私は、めげずに作戦会議で長年この地域に住んでいる父に助言をあおった。すると父は、
「林道なら通行止めにはなってないのではないか」
と言った。
つまり本線の山越えの道は人も交通量も多いので通行止めにしているが、人がほぼ通らない林道なら道とみなされず通行止めになってはいないのではないかと予測したのである。
ただこのプランには問題がある。通行止めになっていない分、その道には何があるか分からないのである。大木が倒れているかもしれないし、土砂崩れの危険もある。
選択を迫られた私は、ワンチャンス、パトロール兼ねて山道を行くことにした。
もし土砂崩れが起きていたら、その場で引き返そうと思ったのである。

そして、いざ山道に入ると山は想定以上の荒れようであった。
道には大きな枝が落ち、まだ落ちる時でない若い葉が強制的に飛び散り、岩が落下していた。
私は無謀にもそれらを越えて行き、1時間ほど山道を走らせた時、壮絶な光景を目にしたのである。

閉ざされた道

カーブを抜けるとそこには道がなかった。
最初、自分が何を見ているのか判断できなかった。
道が見事に土砂崩れで埋まっていたのである。
それも軽い土砂崩れではなく、推定50メートル先までは埋まっているような大規模な土砂崩れだったのである。
大木が、いとも簡単に根もろとも流れ、植物も一緒くたになって流されていた。
その時までいわばアドベンチャー気分でいた私はその光景を見たときに、全身の血の気が下がり、高揚感は跡形もなく消え去った。
冒険気分でのこのこと山に入った自分がガキ臭くて恥ずかしくなった。

そしてすごすごと引き返した私は、用事までの時間も押していたためスタンダードに高速道路を使って目的地までたどり着いたのである。
『有事の際は大きな道を使え』
これを肌に染みて感じた体験だった。

と こ ろ が、
本日の出来事はこれで終わりかと思ったが、まだ終わりではなかった。
ここからが大きなハイライトだったのである。
隣町で用事を済ませた私は、行きと同じように高速道路を使用したらいいところを、雨も上がり交通規制も解除されたと言う情報を聞き、帰りはいつもと同じショートカットの山道を通ることを決めたのである。
その背景には、その日友人が家に来ておりみんなでバーベキューをするという楽しみな予定があったため、早く帰ってその予定に間に合いたいと言う気持ちがあった。

さて、いざ帰り道、私はバーベキューを思い浮かべながら、意気揚々と山道のドライブを楽しんでいた。
すべては順調だと思っていた。
しかし徐々に雨雲が厚くなってきて、ゴロゴロと雷が鳴り始めたのである。
するとあれよあれよと言う間に大粒の雨が降り始め、たちまち目の前が見えなくなるほどの大雨になったのである。
瞬く間に川は水量が増え、道路には水が溢れ出した。
自然を舐めていた。
自分の運に傲慢になっていた。

様変わりした川

豪雨、荒れ狂う河川。
貫く雷光。
鳴り響く雷鳴。
川は氾濫し、車のタイヤの高さまで水が上がってきた。

怖かった。漠然と、私はまだ死なないと思っていた。
なんなら、危ない時は羽でも生えて飛んでいけると思っていた。
羽は生えなかった。
車は大量の水に流された。
アクセルを踏んでも、ハンドルを回しても車は自分の思いとは別の方向に流される。
死ぬのかなと思った。
いざ死ぬとなると、いかに自分が非力か思い知った。

どうなるかと思った川の氾濫だったが、流されていると水が浅い場所に着き、ここだと思いアクセルを踏み込んだ。
車は再び道路に乗り上げ、車はまた私の意思に従って動き始めた。
こうして、私はほうほうの体で帰宅し、生きている実感とともに冷めきったバーベキューの肉をしみじみと食べたのである。
午前中に家を出て、悠に11時間が経っていた。

その夜は明け方近くまで寝られなかった。
危機を抜けても、自分が生きているのか死んでいるのか分からなかった。
実は死んでいて夢なのではないかなども思った。
脳裏には土砂で埋もれた道と、荒れ狂う川が浮かび、消えなかった。
自然の猛威の前に、人間は無力だ。
体感を持って改めて感じた。
家を持ち、空間に守られ安全に生きているように見えるが、自然の脅威の前にはそれも絶対ではない。
それをまざまざと感じさせられた。
私と同じ無鉄砲組は、くれぐれも気を付けてほしい。

そしてこれは余談ではあるが、今回はなんとか生き残ったが本当に1人では危なっかしいので、早く相談できるパートナーを得ようと改めて心に誓ったのであった。

              【終わり】

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