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「うつになり損なった女」

年末の話だが、人生で初めて心療内科を受診した。
この文章でも折に触れて書いているが、昨年1年は私にとって失恋があり、失業があり、所属するコミュニティから村八分にされるという、地獄のような1年だった。
過去を後悔し、今を否定し、人を恨み、自分を責め、生きている意味はないと日々泣いて暮らしていた。
そこで、いよいよ気が滅入るなと思って地元の総合病院の心療内科を受診することにしたのである。

正直、当日まで受診する勇気が湧かなかった。
なので予約の電話はせず直接窓口に行き、当日受診なので診察を受けられなかったらそのまま帰ろう……と思い病院に向かった。
半分受けられないことを期待しながら赴いたのだが、いざ受付をすると、たまたま空きがあり受診できることになってしまった。
心療内科のある棟に向かう間も気持ちがうつっぽくなって、ナース服を見ても
「私はもう看護師にはなれないんだな……」
などと根拠もなく思い涙したりして、どんよりとした気持ちで心療内科の扉を開けた。

飾り気のない殺風景な待合室の中で問診票を書く。
「気分の落ち込みがある」「死にたいと思う」等々……
問診票を書き、診察に呼ばれるのを待つ間にドクターに伝えたいことをメモにまとめる。(及ぶこと数百文字)

そしてとうとうその時は来た。
初老の看護師さんに名前を呼ばれ、
「はい!」
と元気に返事をして診察室に入る。

さあ、たんと胸の内を聞いてもらうぞ!と息まいて話そうとしたところ……
診察したドクターは推定70代半ば~後半くらいの白髪のおじいちゃん先生だった。
おじいちゃん先生が口を開く。
「気分の落ち込みがあるとのことだけど、何があったのかな?」
と言われ、息まいて話し始める。
「あのですね、今年の春に彼氏と別れて、それで戻りたいと言ったけどそうならなくて……」
と言ったところで、おじいちゃん先生に
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。一つずつ聞こう。さて、出身高校はどこかな?」
と、止められる。
え?そこから?と思いつつ、
「えと……岡山県の○○高校で……」
「ほうほう。出身は岡山なんだね。それから?」
「えっと、大阪の大学の看護学部で資格を取って……」
「ほうほう。看護師さんなんだね。資格持ちだねえ。」
ここは病院。これって面接だったっけ?と思い始める。

肝心の話したい辛いんだという気持ちには到達せず、ひたすらヒアリングが続く。
さらにこのおじいちゃん先生、パソコンのキーボードを打つのが恐ろしく遅い。
次々話すと追いつけないので、おじいちゃんが打ち終わってから次の話をする。
遅々として本題に進まない。
キーボードを打つのを代わりたくなる。
話そうと用意していた内容の1/3も話さない内に30分が経過する。
おじいちゃん先生を気遣いながら診察を進め、最終的に先生の
「スタッフが少なくてね。大変なんだよ……」
という愚痴を傾聴する。
患者として受診しに来て、気遣って、傾聴する。
そうこうしている内に、笑えて来た。
「こりゃだめだ。診察を受けに来て働いてしまう。私早く働きたいんだな」

結局診療は1時間近くして、結果は「うつではない」。
「次回の診察予約をしますか?」と先生に聞かれ、「しません」と答える私。
「安定剤は飲みますか」と聞かれ、「飲みません」と断る。
「あなた早く働いた方がいいですよ」「そうですよね!」そこだけ意見が合致する。
診察のお陰なのか、結局自分は働きたい人間なんだと気付いたことが功を奏したのか、診察が終わるころには気分も明るく、元気になっている。
診察代は2,000円。
2,000円の気つけ薬だった。
帰り道はナース服を見ても涙も出ず、未来に向かってズンズンと廊下を進み、病院を後にしたのである。

そこから気分も回復し、2024年は意気揚々と生きている。
早速春先に地元で有志を集めて「夢を乗せた大凧上げ大会」を企画している。
これは何メートルもある大きな凧に参加者がそれぞれ夢を描いてそれを全員で上げるというイベントである。
このイベントを通じて、みんなが自分を承認し、未来に向かって自信を持って進めるきっかけになったら良いと思っている。

今年は辰年。
今年の目標は「飛躍」である。
登り龍のように今年もぶち上げるぞ!
 

              【終わり】

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