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北欧最大テックサミットTechBBQに参加した

コペンハーゲンで開催されるTechBBQは、2012年に始まり、毎年9月に2日間かけて行われる今や北欧最大のテックサミットだ。テクノロジーのハブといえば、何と言っても米国シリコンバレーが有名だし、その規模も著名度も投資額もユニコーンや産業創出度も桁外れだろう。フェイスブックやグーグルなどをあげるまでもなくシリコンバレーは桁外れの影響を世界中にを与えている。

北欧のイノベーションのエコシステムは、次のイノベーションエリアの候補と言えるだろうか?北欧発のユニコーン企業として、すでにTradeshift, Skype, Spotify, Klarna, Zendesk Supercellなどすでにいくつも挙げることができる。でも、TechBBQに参加して感じたのは、誰も北欧のイノベーションシステムを「次世代のシリコンバレー」と呼ぶことはないということだ。シリコンバレーと同じぐらいの素晴らしいイノベーションを生み出している環境だと言う時には、誇らしげに「Nordic Way」という言葉を使う。

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北欧の社会システムは、日本ばかりか米国でも注目される独自システムといえる。シリコンバレーの「Move Fast, Fail Fast」を否定するわけではないけれども、それは単なる一つの形にすぎない。北欧は、どうやら北欧独自の価値を大切にしたイノベーションエコシステムを目指しているようなのだ。

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北欧式のイノベーションエコシステムは、北欧の社会システムに深く根付いている。例えば、起業(法人登記)のしやすさであったり、高スキルの人材が揃っていたり、起業に失敗してもどん底まで落ちることがないセーフティーネットであったり。社会の透明性は高く、人々は信頼しあっていて、しかも社会における電子化が進展している。政府と企業とスタートアップはお互いにデータ共有をしているし、市民がきちんと見張っているから、プライバシーも確保されている。さらに言うなれば、速度の速いスタートアップ周りでもワークライフバランスが整ってる。そう、育児休暇や休暇の重要性がきちんと認識されているのだ。北欧の人たちは、健全かつ意味のあるビジネスは、健全な労働環境や気分転換なく育たないことを理解しているんだろう。エネルギーチャージなく、継続的なイノベーションは生まれないし、周囲を不幸せにして何がイノベーションだ?!という声が北欧からは聞こえてくる。これからのイノベーションの源泉は、北欧にあり!なのだ。

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北欧のイノベーション周りの特徴としてもう一つ上げておきたいのが、世界平和、環境保護的...ともすれば青臭いと言われがちな世界を良くしたいと考える純粋な視点だ。今のミレニアルのマインドセットの特徴として、平和、環境配慮、社会的起業などと言われるが、まさにそれを特徴づけるかのようなスタートアップが目立った。北欧デンマークで強い産業周り(海運、環境テクノロジ)ばかりでなく、高福祉国家として国が社会保障の一環としてカバーする社会的なエリア(医療・ヘルスケア・スマートシティ)のスタートアップが多い。バイオ、ヘルスケアや、スマートシティ(大気汚染対策、センサー、汚物処理、IoTの活用、エネルギー管理、環境変動にまつわる動き)、環境技術系である。「自分たちは、新しいビジネスの方法を世界に示したい。」と述べていたTechBBQ運営メンバーのPia Elmegaardは、術策ばかりのビジネスの世界のやり方をしなくても、社会に価値を生み出していけると言っているみたいだ。

TechBBQの周りには、コミュニティ的な相互扶助の仕組みが根付いている点も北欧らしい。コミュニティの発展のために、成功した起業家はアドバイスを提供したり、起業環境を充実させるためにファンドを構築したり、時には政治的なロビーイングを行ったりする。そこにあるのは、透明性、オープン、信頼、そしてウェルカムな雰囲気だ。一つのビジネスを立ち上げるのに、マニュアルなんかはないし、評価だって色々だ。美しい起業ストーリの背景には、多くの苦労や汗があるし、黒白つけられることばかりじゃないし。だから、ダイアローグが重視される。話し合われる内容は、起業の事やハードワークの実際ばかりでなくて、メンタルヘルスやパートナーや家族との関係もある。なぜって、それがスタートアップを成功させることにおいても重要なことだからだ。登壇者は、包み隠さず話す。「そりゃー、えへ...テスラ乗ってます」とか、「家族生活に失敗して離婚してね...」とか。

昨年は6,000人集まったと言われるTechBBQの今年の参加者数は、まだ公表されてない。詳しい統計やレポートは年末まで待つ必要があるらしいが、少なくとも多様性が確保され、多くのパラレルイベントが実施され、起業家ばかりでなく、大手企業や投資家や学生もたくさん参加していたように見受けられる。

いくつも興味深いブースが出ていたが、一つLego Ventureを紹介したい。

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lego venture: 2018年に設立。未来の遊び(Play)を模索するために作られた。”We are exploring the world of creativity, learning and play”。レゴは、今年で87歳。同じ目的を持つスタートアップを発掘し、支援することがミッションだ。現在、投資先としてリストされる分野は、教育(エドゥ)テック、21世紀型能力開発、新しい遊びの場、そして創造的なモノづくり(Creative making)だ。デジタルでもフィジカルでも構わない。

レゴほどの著名な企業がサポートしているということになれば投資家へのアクセスもより容易になるし、何よりもLego ventureはベンチャーと一緒に価値創造の可能性を模索していくわけだ。支援を受けた企業は、子供達の遊びに関する知見からサプライチェーンなどのロジスティックスまであらゆる情報にアクセスできるようになる。Lego ventureからの支援を受けている企業として、Klangというベルリンに拠点を構える企業があるが、ここから新しいレゴのゲームが生まれようとしている。TechBBQでは、約25のスタートアップとスピードデートを実施、ここから新しいパートナーシップが生まれるかもしれないという。

Innovation Lab Asiaは、TechBBQとAsia Houseが立ち上げ、The Danish Industry Foundationが2年間のプロジェクトとして資金を提供し立ち上げられたプロジェクトだ。グローバル化の世界といっても、まだまだ北欧はアジアに手を伸ばせておらず、良くてドイツか米国。現在の経済の動きを見てみるとアジアへのアクセスやアジアからの資金調達も非常に重要であるというのが、Innovation Lab Asiaの立場だ。数ヶ月の調査を通してアジアのスタートアップ周りの調査を実施し、TechBBQの実施に合わせて、資料が公開された。プロジェクトリーダのPeter Johansen氏によると、実際に調査を通して自分たちの仮説が検証され裏付けられたという。デンマークの企業家よ、アジアに活路を見出してみないか?といったところだろうか。(写真: Innovation Lab Asiaの担当官リサさん)


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