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黒板けしのいたずら

日々、昔の出来事を思い出そうとしていると、それまで忘れていたことなども思い出してくるので、これは単に過去を振り返える無駄な作業ではなく、未来志向的な部分もある気がしてきた。



■物理で

以前、高校の寒かった思い出の中で副担任の話を書いていた時、古典的な「黒板けし」のいたずら ―― そう、入り口の戸の上に挟めておくやつ ―― を思い出していた。ある日、それをやったのだ。勿論、生徒たちは誰一人、それが成功するとは思っていなかったが、ただ先生の反応が見たくて、先生が入ってくる瞬間を静かに待った。

一応、廊下を歩いてくる先生を見ている絵です(笑)。

少しすると先生がやってきた。僕たちはシーンとしている。すると先生は入り口の前で立ち止まり、何食わぬ顔で黒板けしを取った。

戸を開けて入ってきた先生は、僕たちに黒板けしを示しながら、「その手には乗りませんよ」と言わんばかりの笑顔だ。仕掛けた男子生徒たちは「あ~!」と残念そうな声を上げ、楽しみに見ていた女子たちからも笑い声が上がった。ただそれだけの、何も起こらなかった瞬間が、楽しかった思い出に残っている。この副担任は物理担当だった。

■化学で

男子生徒たちは次の狙いを担任の丸山先生に定めた。丸山先生は化学を教えていた。黒板けしを戸に挟めるのは既に失敗しているので、今度は黒板けしを隠すことにした。

やがて化学の授業が始まった。ところが、先生が黒板けしを使う段になると、それが見当たらない。生徒たちはクスクス笑っている。先生も目を大きく開いてニマニマしながら辺りを捜すと、それは先生の頭の上、黒板の上にあるのを見つけた。そこは腕を伸ばしても届かない高さだ。

黒板けしは手の届かない高さでした。そんな風に描けなかったけど。


それを見上げてから振り向くと、先生は笑いながら叫んだ。

サル、取れ!!

この一声で教室中に笑いが起こった。

「サル」とは明らかに僕のことだ。しかも、はっきりこっちを向いている。(笑)

はい!!

僕は元気に返事をすると、後ろから「キャッキャッ!」と猿の声を出して走りだした。その勢いで教壇でジャンプし、黒板を駆け上がるようにして黒板けしを取ると、桃太郎に仕えた猿のような感じで先生に渡した。みんなはまた笑った。


それにしても、後にも先にも先生から「サル」と呼ばれたのはこの時だけで、このことから先生も楽しく遊んでいたことが窺えた。


因みにだが、物理と化学の時間のいたずらをしたのは、他の男子生徒で僕は加わっていなかった。それでも主犯に思われてしまうだから、平素の行いが知れちゃうね。(笑)


生徒の遊びに先生が乗ってくれた小さな思い出に、ほっこりしている自分がいる。

(まこと)





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