小学3年の時だったろうか、南が丘の公園にあった公民館でそろばん教室が開かれているのを知り、母に頼んで行かせてもらったことがある。週１回だったと思う。

行ってみると、既にたくさんの子供たちが座っていた。僕はなにせ初めてのそろばんなので10級からスタートしたのだが、その日のうちに8級になり、ひと月のうちに6級まで進んだ。母の財布の具合を気遣って二月程で止めることにしたが、パチパチ指を動かすのは楽しかったし、みんながそろばんを弾く音も好きだった。

そんな楽しい時間を過ごしたある日の帰り、玄関に行く間に、同じく参加していたKさんに声を掛けた。

「ねえねえ、僕、虫歯があるんだけど、Kさんもある？」
と、口を開けて虫歯を見せる仕草をした。

Kさんは素直に「あるよ」と言ったので、「どれ、見せて」と言った。

そして、不審そうな顔をしつつも彼女が口を開けた瞬間を狙って、用意しておいた大豆大に丸めた紙を、彼女の口の中にポイっと放り込んだ。

目を丸くして驚く彼女に、「引っかかった！」と笑ってからかうと、彼女は手を上げ、少しの間、僕を追いかけ回した。でも、「ごめん、ごめん」で済む程度にしか彼女は怒っていなかった。

次のそろばん教室でも、「僕、虫歯あるんだけどさ」と話しかけると、「やらないわよ」と軽くかわされた。そりゃそうだ（笑）。

しかし、考えてみると、悪戯は男同士いろいろやったけど、女の子にこの手のいたずらをしたことはない。いくら思い返しても、その子一人、その1回だけだった。

「あれ、それってことは、僕はKさんを気にしていたのか？」
今、突然そんなことを考えてしまった。

自問すると、もしかすると、彼女のちょっと淋し気な、でも凛とした感じに惹かれていた気もするが、良く分からない…。

「ちょっと待ったモーメント！」

ここで、自分の気持ちを確かめる方法を思いついた。

どういう訳か、僕が学校時代に好きになった人の名前のイニシャルは皆「M」だったという事実がある。そこで、僕がKさんを気にしていたかどうかをイニシャルで占ってみようと思ったのだ。

そこで、中学時代のアルバムを引っ張り出した。そして、3年A組から順に捜していくと、最後のH組に彼女の名前を見つけたのだが、なんと、イニシャルが「MK」だった！　そんなことってあるのだろうか！

もし、そろばん教室で一緒だったのがKさんという記憶が正しければ、それは「僕の中の冒険　女スーパーマン」のKさんと同じ人だ！

どこまで記憶が正しいか分からないが、とても驚いている。

（まこと）