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四万十町で出会った古本屋の店主

四万十町に来て数日たったある日の朝、自分がSNSに依存しすぎていることに嫌気がさした。
実は、四万十町に来て早々、高熱を出して2日間寝込んでいた。その間、ほぼ一日中、youtubeやinstagramを見て過ごしてしまっていた。
そんなこともあって、病み上がりのその日の朝は、今日一日スクリーンを一切見ないことを決意してスタートした。



ノースクリーンデイ

いざノースクリーンデイを始めてみると、自分が普段いかに必要以上に携帯を使い、自分で考えれるところも携帯で調べ、、、と依存しているかに気づいた。そうやってつい携帯を使ってなんでもしてしまいそうになる自分を振り切りながら午前中を過ごした。

お昼は、朝に作ったお弁当を旦那さんが仕事をしているコーワーキングスペースに持参し、一緒に近くの川辺で食べた。
その後、旦那さんは再び仕事に戻り、私は一人で町散策をすることにした。
その日は朝からずっと無性に本が読みたかったので、本屋を求めて気の向くままにぶらぶらと歩き始めた。
そうこうして歩くこと約10分。
「しまんと古書街道」と書いた木製立て看板が見えた。

突然目の前に探していた本屋、しかも古本屋が現れ、心が躍った。
本屋のドアは2重構造で、人見知りの私は、一瞬、少し奥にある店内に入って行くことを躊躇ったのだが、気付けば、本屋の優しく温かい雰囲気に吸い込まれるかのように中に入っていた。

店に入ってすぐに、店主だと思われるすらっと背の高いおじいさんがいらっしゃいと出迎えてくださった。

四万十町の古本屋


店内には四方にずらっと本が並び、かなり古い本から最近の本、児童書と幅広いジャンルの本が揃っていた。
そして、不思議とこの本屋には、私が以前からまたいつか読みたいと思いつつ読めていなかった本が何冊もあり、これは私的にはいい前兆だった。
本屋が見つかった上に私と相性がいい本屋ときた。
私はわくわくしながら本棚を隅から隅まで見渡した。
しばらくして、三浦綾子さんの氷点が目についた。三浦綾子さんは好きな作家の一人で、彼女の本は何冊か読んだことがあったのだが、肝心の氷点は読んだことがなかった。
旦那さんと北海道の旭川にある彼女の記念資料館に行った際に、氷点を読んだことがなかったことを後悔したことが思いだされ、この際に読んでみることにした。
しかし、上巻は見つけたものの、下巻が見当たらない。
私は思い切って店のおじいさんに声をかけてみることにした。

そしたら彼は
「読みたい本が読めないのが、一番嫌だからね〜」
と言って、隅から隅まで指で本をなぞりながら下巻を探して下さった。また彼は、本棚にある本だけではなく、本棚の下にある無数の段ボールや収納ケースの中までも確認するほどに熱心に探して下さった。

私は、たった1冊の本をここまで熱心に探してくださる彼の優しさと本への愛に感動した。
最終的には私も一緒になって彼と一緒に下巻を探してみたのだが、結局は見つからなかった。でも、そんなことはどうでもよくて、この本探しも古本屋の醍醐味というか面白いところなのかもしれない。


こうして本探しを一緒にしたことから、私はすっかり彼に心を開き、彼もまた私にこの本屋や彼自身の人生について語り始めて下さった。

He made my day!

よくよく彼の話を聞けば、この古本屋はしまんと街おこし応援団という完全ボランティアによって運営されている本屋なのだそう。
そのため、店内にずらっと並んだ本たちは全て寄贈によるもので、文庫本は1冊100円、単行本は本によりけり要相談(と言ってもかなり良心的な値段)で購入することができる。そしてその売上金を街おこし応援団の活動費やイベントに回しているそうなのだ。
彼に至っては、全くの無給で街のために古本屋の店主として働いている。
さらに驚いたことは、私はてっきりここまで情熱を持って四万十町のために活動されている彼なのだから、きっと地元の方なのだろうと思っていたのだが、実は退職を機に遠く離れた大都会からわざわざ四万十を選んでやってこられたとのことだった。

彼の夢は、大好きな本を通して四万十町の街おこしをすることだそうで、イギリスのウェールズにある「ヘイ・オン・ワイ」という古書で街おこしを実現した町を目標にしているのだそう。そんな素敵な夢を語る彼の表情は希望に満ち、私は彼と出会えたことを心から幸せに感じた。
正直に言うと、彼に出会うしばらく前までカナダにいた私は、カナダと比較して日本のネガティブな面ばかりを見てしまっていた。しかし、こうして情熱を持って、ひたむきに他人や地域のために奮闘している日本人がいることを知り、今まで知りもせずに日本を否定ばかりしてしまっていたことを申し訳なく思った。
それ以来、日本のネガティブな面ではなくて、日本の美しさや人の優しさ、細やかさに目がいくようになった。


その日は結局、以前から気になっていた「きけ、わだつみのこえ」と「氷点・上」、「日本史」の3点を300円で購入して家に帰った。

よく英語では誰かにいいことをしてもらった時、何かいいことがあった時にあなたのおかげで今日はいい一日になったよという意味を持って
〇〇(第一人称) made my day ! と喜びを表現をするけど、まさしくこの日は家に帰る道中、心の中で He made my day ! と叫んでいた。

古本屋の店主と出会ったその後

その後も、なんだか考え込みすぎて落ち込んでしまった時、誰かと話したくなった時、ふらっと本屋に寄っては店主と話をするのが私の楽しみとなった。
彼は、いつでも快く私の話し相手になって下さったし、時には私と旦那さんを連れて街案内や、彼の車で、有名な温泉、海にまでも連れて行って下さった。
更には、しまんと街おこし応援団の集まりにも招いてくださり、私たちがより親密に街の人々と交流するきっかけにもなって、四万十町での滞在が想像していた何倍以上にも充実したものとなった。

私にとっては、この古本屋の店主との出会いはノースクリーンデイがもたらしてくれた奇跡で、今でも、もしあの時彼と出会っていなかったら、出会うのがもう少し遅ければ、、、と考える。きっと少しでも違えば、私たちの四万十町での滞在はきっと全く違ったものになっていただろう。


次回は、古本屋の店主を通して繋がった四万十の素晴らしい町の人々について書きたい。

今日もここまで読んでいただきありがとうございます。



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