昔、流行っていた歌のメロディーで「三角と月と私」を勝手に歌いながら、来週の京都旅行の計画を立てる。
 上賀茂神社に行って、京都に泊まる。翌日、三本鳥居のある神社に行く。いつもなら、ついでに、あそこも行け、ここも行け、とか、言われるのに、今回はシンプルな旅だ。普通はそうなのかもしれない。そういうゆっくり楽しむ旅なんて思い出せない。そもそもしてないかも知れない。
「私は何をこんなに焦っているのかな?」
と自問自答する。
 新幹線に乗るまでに、かなり時間があったので、会社の人に勧められた、安井金毘羅宮に行く。悪縁を切ってくれるらしい。縁切り縁結び碑というドーナツを半分にしたみたいな、岩の穴をくぐると悪縁を切ってくれるらしい。予想をはるかに超える禍々しさ。いっそ、清々しくもある。飾ってある絵馬がすごい。普通は、合格や良縁を祈願する絵馬が多いと思う。ここは違う。○○さんが奥さんと離婚しますように、とか、○○さんが××さんと別れますようにとか、書いてある。これを神様に頼んじゃっていいのかなとか、どういう立場で書いているのかな、とか思いながら、ついつい読んでしまう。一つ一つにドラマがありすぎて、面白すぎる。
「こんなこと頼まれても神様、困りますよね?」
とつい姫神様たちに話しかけてしまう。
「こうやって、吐き出すと、生霊にならなくてすむ。」
とのこと。生きている人間Aというのがいたとして、それが人間Bを妬んだとする。例えば、毎日
「Bばかり上手く行きやがって、羨ましいし、妬ましい。Bなんか死んでしまえばいいのに。」
と言い続けたとする。そうすると、その思いがAの生霊となって、Bに飛んでいく。Bの心の状態にもよるが、きちんと努力して、その状態にあったら、どんなにAに妬まれてもBに変化はない。そのうち、Aが飛ばした生霊は、Aに戻り、Aを苦しめる。ということなのだそうだ。だから、妬みを吐き続けるよりは、神様に受け止めて頂き、そういう思いを捨ててしまえれば、Aは楽になる。ということらしい。
そういうことか、と納得した。せっかく来たので、アトラクションとして、大きな石の穴をくぐってみる。中肉中背の私でギリギリのサイズ。途中で、はまって出られなくなったらどうしようとドキドキする。
 
 京都に来ると、必ずデパートで洋服を買う。東京にも同じデパートがあるはずなのに、品ぞろえが違う。京都はセンスがいい。私の好みだ。今回もごっそりお買い物をして帰った。

 一週間なんて、あっという間に過ぎてしまう。
 これだけ、しょっちゅう来ていると、殆ど考えなくてもスイスイと京都まで来れるようになった。
 京都駅からバスで上賀茂神社へ。京都駅を観光の始点にするとバスで大抵のところには行けてしまう。駅前のホテルを予約しておけば、そこに荷物を置いて身軽にして、バス乗り場で行きたいところへの行き方、回り方を相談すると、ものの見事に教えてくれる。駅の中の観光案内も親切だが、バス乗り場のプロフェッショナル恐るべし。AIでは思いつかないようなルートや、豆知識を教えてくれる。
 終点の上賀茂神社へ行く。バス停で降りてから、社殿まで、結構歩く。ちょっとした100メートル競走なら出来そうな長さだ。
 賀茂別雷大神が祀られている。葵祭でも有名な神社だ。本殿の奥は手続きを踏めば入れるようだったので、せっかくなので、見学した。目を皿のようにしても書いてないのだが、ニニギ様の匂いがする。本殿の奥は特にぷんぷんする。明日の「三角と月と私」プロジェクトに向けて、お力添えをお願いする。

 一日に一つしか行かなくていいなんてめったにない。駅前の温泉がついている宿にしたので、温泉を満喫する。体調万全。夜鳴きそばまで食べちゃったりなんかして、ご機嫌な気持ちで寝る。

 翌日は、今にも雨が降りそうな寒い曇り。なんか胸騒ぎがするなと思いながらも、指示通り、動く。
 本殿の左隣に三本鳥居がある。昔は水が張って池のようになっていたところに鳥居が立っていたらしい。場所的にみても、その鳥居をくぐることを考えて立てているとは思えない。今は、周りにフェンスを張られて近づけない。早朝で誰も居なかったので各地の神社でもらった麻紐をフェンスの中に放り込む。その瞬間、稲妻のようなものが光り、そこに無数の霊体の蛇がいることが分かる。麻紐に反応し、蛇が一斉にこちらを向く。
「走れ!」
と言われて、急いで出口に向かって走る。麻紐を首に巻いていたので、顔や頭は免れたが、全身に毒を浴びる。みるみる全身が帯状疱疹のようにぼつぼつだらけになる。めちゃめちゃ痒い。蛇が追いかけてくる。なんとか鳥居を抜けて、逃げ切る。全身に出来たぼつぼつで皮膚呼吸が出来ない。あまりの辛さに泣けてくる。
「隣の広隆寺へ行き、弥勒菩薩に会いなさい。」
と言われ、這うようにして弥勒菩薩に会いに行く。前に座り、泣きながら見上げる。他の客は遠巻きにしてくれる。しばらく見ていると痒みが止まり、急いで東京に帰る。それから1週間は痒みと高熱に苦しんだ。死ぬかと思った。蛇毒恐るべし。

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