傍の下で(空の上の街からの便り)

拝啓、今人様

 光は過去を連れて遣って来る

 銀色の太陽が昼夜を訪れ輝き

 世界を薙ぎ払う

 その輝きは数ヵ月続き

 世界は混沌となりて

 やがて光は過去を連れて去って行く

 だが、世界の混沌は続き、内側から抱懐する

 世界の秩序は乱れ、新たな秩序が生まれる

 それは世界の救いなのか、世界の終わりなのか

 それでも、世界の不確かさは続く

 今も、なお続く

        ――― 世界の不確かさより

行き交う人々には、自分は認識されていない。自分が金色・藍色・桃色・白色・灰色・褐色・墨色と色を変えて生きて来たかの様に、そして、人々も・・・。
そんな急流を眺めて想いに耽る。

「自分は、こんな所で何をしているのだろう・・・」

苦痛の時の中で人々の急流を眺めているが人々に、自分は見えていない。
やがて、その苦痛から逃れる様に急ぎ、その場を離れた。
宛の無い・・・旅に・・
知らず知らずの内に劇場の特等席を探して、かつて自分が暮らしていた街を眺めて想う。
「自分は、こんなにも、小さな街で躍っていたのか」
眼下に観えるそこは、けして小さい街ではなく辺り一面、地平線まで埋め尽くされた霜柱が犇めき合う街であった。只、この時の自分には、やけに小さく観えたのである。そんな事を感じながら、ほそりほそりと歩き始めた・・・。

そして、静かな少し拓けた場所に特等席を見付け、そこに腰を下ろした。

久しぶりの特等席で観る光景に期待を抱き・・・開演を待った。

待ち望んだ自分だけの劇場の幕が徐々に・・
ゆっくり、ゆっくり・・・と上がる。

しかし、それは自分を満足させるものではなかった。

大きな街の明かりは磨り硝子越しで観るかの様に明かりに陰りが観える。

それは、自分の心が曇ったからなのか、人々の営みに陰りが出て来たからなのか・・・

それとも・・・と色々な事を感じながら自分はひとり呟いた。

「ほんの十数年前までは、活気のある街が見えていたのに・・・」

とボヤキ、昔の街を想起した。

かつて・・・その街は、河の道に沿って広大な街の明かりが灯っていたが、今の街灯りは陰りのある街灯りになっていた。それでも自分の眼前に、自分の存在を誇示するかの様に・・・
明かりを灯し始める。

まるで大きな硝子の天上越しに街が有るかの様に悠然と徐々に現れてくる。
その明かりは、人々の営みを知らせる灯火・・・

その明かりは、人々の命を知らせる灯火・・・

灯火は大小の光で、自分を誘うかの様に道標となって導いて行く。

時折、その街に前照灯(ヘッドライト)の光が軌跡をスゥーッと作る。

その光跡は、様々な速度、様々な方向から表れては自分の眼前を走り抜けて行く。

自分は、その光を探し求める。

「あっ、今のはかなり遅かったなぁー。たぶん鈍行だなぁ・・・うん。」

と勝手に想い、また別の光跡を探す。まるで自分の居場所を探すかの様に・・・

「今度は、どんな光跡が現われるかな・・・」

「自分の想い描く光跡を観る事が出来ると良いなぁ・・・」

と期待に胸躍る。こんな感情は久しぶりに訪れる。それに気付き薄笑いを浮かべた。

すると、光点が光の尾を作らずにゆっくりと動いている。

まるで、自分が進む速度の様に・・・ゆっくりと。

そんな事を感じた時、不思議な安らぎが自分を包んだ。

「ふふふぅ・・・面白い光跡を観れたなぁ」

手を伸ばすとその街を触れそうに想えるほど近くに観えるが・・・

街はとても遠く・・、遥かに遠くに有る街。

街はまるで人の希望の場所の存在を誇示している光を灯している。

「この空の上の街に行くには・・・、どうすれば行けるのかな・・」

「あの街に行ってみたいなぁ・・・」

「ふっ、無理か・・・、生存競争に負けた者には・・・、辿り着けない場所だ」

「あの街には、どんな世界が有るのだろう・・・」

「あそこには、自分の居るべき場所は有ったのだろうかぁ・・・」

「他の人達には、どんな街が観えているのかな・・・」

そして、暫く遥か遠くで輝く灯火を見詰めて、ふとある事を思い出して呟いた。

「あッ! そうか、この光は過去の光なんだな・・、って事は、時渡り機構(タイムマシン)を今、実体験している事になるのか・・・、ふふふぅ、何か、すっげーーーぇ、体験してたんだ」

その事に気付いた自分は、心の仕えが取れた感覚を得る。久しぶりの祝福の時の中に身を置く事が出来た事に感動していた。そして、想う。

「少しずつでも、前に進んでいるんだ・・・、俺も」

やがて徐々に碧い幕が天上を蔽い始めた。

最後まで自分の存在を誇示していた灯台の明かりも、碧い幕の中に消えた。

幕が上がるよりも早く・・・

そう・・・、自分の幕が下りる様に・・・、スルスルーーーッと劇場の幕が下りる。

力尽きた自分の眼前に有る天上に、今は虚構の街は観えない・・・。

そこには温かい光風だけが心に溢れていた。新たな劇場を求めて力なき身体を振り絞り歩き出す。

あなたの空の上の街は、どんな灯火が観えていますか?

安らぎの灯火は、強い心を作る為に、あなたの傍で見守っています。
                                 著書/心業豊治








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