50.英語嫌いになった訳

 中学校の入学式の前に、母が美容院へ連れて行ってくれた。

お…
裁ち鋏じゃない〜!

私は前髪を切ってもらった。
それまでずーっと狭いおでこを出すスタイルだった。
小学校高学年の時は、前も後ろも同じ長さにしてもらって、横分けにしていた。

母は、髪が目に入るとよくないと言って、前髪は短くしてくれなかった。
だから、とても新鮮な気分。

どんな中学校生活になるんだろう

ワクワクした。

私は…

いつかピアニストになりたい
高校までこの学校に通って、そのあとは音大に行って勉強したい。
英語をたくさん勉強して、海外にも行きたい。

そんな、大きすぎる夢を持っていた。

入学式の後、次の日に “花まつり” という行事があった。
花まつりは、お釈迦さまの生誕のお祝いで、中学生、高校生の全校生徒が講堂に集まり、校長先生やPTA会長などのお話を聞いて、全員で仏歌を歌う。

キリスト教の小学校から、仏教の中学校。
讃美歌から仏歌…慣れるんだろうか。

花まつりのあと、学校の玄関フロアにお釈迦さまの小さな銅像が置かれ、小さな柄杓で甘茶をかけられるようになっている。

最初に仲良くなった友達と一緒に、お釈迦様に甘茶をかけに行った。
「お釈迦さまはお茶が好きなのかしらね。」
彼女が言った。

一説には、お釈迦さまがお生まれになった時の生湯が、甘茶だったと言われているが、それがなぜ甘茶だったのかは⁇⁇

少しづつ友達もできてきた。
私が入学したS学園は、すでに創立80年を超えて古い歴史を持つ女子校であった。
前の年に、PTAと学校の間に起こったトラブルが新聞にも載り、入学した生徒は例年の半分しかいなかった。

入学して最初に決める部活。
3年間は辞めてはいけない、同じ部活で頑張るように言われていた。

私は、本当は見てくれのいいテニス部に入りたかったが、一人ではどうしても行かれず、誘われるがままに体操部へ入った。

運動は嫌いだけど、マット運動なら大丈夫!!

そう思って入った。

その頃は、叔母(母は10人兄弟なので3番目の妹)の次女(簡単に言えば従姉妹)が我が家に下宿をしていた。

下宿していたいとこは、彼女が3人目。
東京の大学へ通うのには、寮へ入るよりもお手軽。
地方に住んでいるいとこたちにとっては、大学に通うのに便利であったと思う。
この頃、我が家に下宿していたいとこの お姉ちゃんは、英語が得意で、大学も英文科。

私は学校から帰ると、お姉ちゃんに今日の学校の出来事を話し、大きすぎる夢を話し、時々、英語を教えてもらっていた。
いとこたちの中で、私が一番信頼していたお姉ちゃんだった。

M学園で受験勉強の時は、
「解らないことはどんどん先生たちに聞きなさい。
しつこいくらいに、食らいつきなさい。」
と、毎日言われていたから、“人に聞く” 癖が身につき過ぎていて、中学生になっても同じだった。

それは、M学園卒業生にはあるあるらしい。

特に英語。
英語の先生は、担任でもあるM先生。
小柄な、おそらく今の私くらいの年齢の女の先生。
私は、英語の授業の後も、そして職員室にも聞きに行った。
英語の授業が好きだった。
どうしても英語を得意科目にしたかった。

全体的な成績は、上の下くらい…
ひょろっとした背の高いKちゃんに
「そめってバカに見えるけど、意外と勉強できるんだね。」
と言われた。

は…⁇
バカに見えるってどういう事⁇

と思ったけど、言い返すこともできず、笑ってその場をやり過ごした。

部活も平均台以外は楽しく、その頃は体もとても柔らかかったので、マット運動ばかりでも楽しかった。
家では、テレビで見る “中国雑技団” の子どもたちの真似をしていたくらいだから、相当柔らかかったと思う。
平均台は、高いとこが苦手なので、無理。

1学期の終わりの頃、私にとって衝撃的なことが起こる。

いつものようにM先生に英語のわからないところを聞きに行った。
怖い顔でM先生は私に言った。
「あんたしつこいのよ。」

え…
今なんて……?

「もう2度と来ないでちょうだい!!」

私は動揺して、泣きそうになった。
何も言い返せなかった。
この時のM先生が私を睨んだ目は忘れられない。

M先生は、クルッと背中を向けると、肩越しにまた言った。

「2度と来ないで!!
アンタの顔なんて見たくない!」

私の顔も見ずに大きな声で怒鳴ったその先生に、私は何も言えず職員室を出た。

余程くだらない質問をし続けたのか…
私自身が嫌いだったのか…
質問されることが嫌だったのか…
全く理由がわからない。

他の先生もそう思っているのだろうか…
不安になった。り

“先生” という人達に不信感を持ち、私はどの先生にも何も言わない、質問をしにいくことをやめた。

そしてこの出来事が、トラウマとなった。

…続く……🔒


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