8.新しいピアノの先生

 次に通うことになったピアノ教室の先生は、A先生。

A先生は、岩崎宏美似の若くて可愛くて、通る声が素敵!
な、先生。

…でも、怒ると怖いんだろうか…
私はとても心配になった。

『何か曲を弾いてみて』
と言われ…何を弾いたのか思い出せないが、緊張してちょっと間違えちゃったけど、とても褒めてくれたのが嬉しかった。

やった!!全然怖くない先生だ~!

私の中でそこが一番重要ポイント。
先生のお母様もとっても優しい、なんでも包み込んでくれそうな人。
お家の玄関の入り方、ご挨拶の仕方など、いわゆる常識的なことをきちんと教えてくださった。

この先生に教えてもらえるなんて!!
めちゃくちゃ嬉しかった。
私は土曜日の夕方5時からのレッスンに通うことになった。

A先生のレッスンはとても楽しい。
私の音が好きだと言ってくれた。
一番嬉しい言葉。
生きてきた中で、一番嬉しい瞬間。

先生のお家に上がってすぐ左側がレッスン室だったけど、しばらく経ってからお2階がレッスン室になった。
いつもレッスンは夕方なのでわからなかったが、発表会前に他の生徒さんと一緒に練習した時、初めて陽の出ている時間にお部屋に入って驚いた。
とても広々してピアノが2台置いてある。確か…グランドピアノもあったような…
赤い絨毯、窓が大きくて明るい素敵な部屋。

A先生のレッスンは、私に自信を持たせてくれる、ますますピアノが好きになるような教え方。
厳しい部分ももちろんあるけれど、褒め上手なので私のいい部分を引き出してくれる。
否定する言葉は言わない先生。

先生は色鉛筆で楽譜に書き込んでいく。
一曲が終わる頃には色とりどりの華やかな楽譜になっていく。
終了すると楽譜の番号に赤丸と、終わった日の日付を書いてくれる。
それがとても嬉しい瞬間。

私はショパンの曲が好きだった。
弾きやすい曲が多かったのもあるが、リズムや曲の流れがとても好き。
私はフラットの多い、少し憂いのあるような曲が好き。
ショパンはたくさんの恋をしてきたからなのか、失恋を思わせるような曲も多い。
そんな中、  “仔犬のワルツ” はダントツ好きで、本当は1分ほどの曲だが、そこまで早く弾くことができず、
どれだけこの仔犬はヤンチャなんだろう
といつも思っていた。

連弾の楽しさも、A先生が教えてくれた。
後々、中学生になった時、友達とよく連弾を楽しんでいた。

友達の家や学校の音楽室、ピアノがあればいつも弾いていた。
大人になって、ある友人から
『いつもウチのピアノを弾いていて、全然遊んでくれなかった。』
と言われたことがあった。
残念ながら…私は全く覚えていない。

小学校4年生なる時だったと思うが、母が音大付属の小学校への編入の話をし始めた。
音大なんて~今じゃなくてもいいじゃない?
私は全く乗り気じゃなかった。
母はA先生に相談相談をした。
『まさえちゃん、音大受けるなら、今の成績を上げないと受からないよ。』

乗り気ではない私は、さほど勉強を頑張る気にもなれず…
先生はきっと呆れていたと思う。

母と国立音大の付属小学校の編入試験を受けに行った。
私を含め3人。そのうち一人しか受からない。
一人の女の子が、どれだけここの小学校に入りたいかを語った。
私は
是非是非あなたに譲ります
と思っていた。

国語や算数の試験、先生が弾く和音の音符を答えたり、歌があったり、ピアノを弾いたり…
そんなことやってきたことがなかったから、ぶっつけ本番と同じ状態。
自信があるのは、自分で弾いた曲だけ。

帰りに、バスを待つ間、バス停の前にあった駄菓子屋さんでガムを買ってもらって、ご機嫌な私。
母は珍しく何も言わない。
きっと、この子にはムリだったと悟ったのだと思う。

案の定、不合格だった。
でも、悲しくも嬉しくもない。
ホントに何も感情が湧いてこない。
ただ母に言われて試験を受けに行っただけ、
そんなふうに思っていた。


…続く……✏️


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