見出し画像

【要約&実践】The Art of Marketing マーケティングの技法

どうもー、消費財メーカーのマーケターとして働くmotuです。
マーケティングに関する書籍の"理解"から"実践"への架け橋となる記事を投稿していきたいと考え、活動しています。

書籍の内容を"実務"で活かすことができるよう、要約・体系化していくので、ぜひご覧ください。
それではやっていきましょう!

書評

【再現性】   ★★★★★
【面白さ】   ★★★
【おすすめ度】 ★★★★★

私の記事では、上記3項目を5点満点で評価しています。
再現性は、筆者が自身の成功(失敗)を体系化して、私たちでも実践できるような形のノウハウとして提供しているかで評価しています。
面白さは、純粋に書籍としての面白さで、読みやすさなども考慮して評価しています。

今回紹介するのは、P&Gマフィアの一人である音部大輔氏の書籍です。
この書籍からは、パーセプションフローモデルについて詳しく学ぶことができます。N1分析やマーケティング活動全体(4P)の設計や各活動を立案する際に役立つ手法です。同じくP&G出身、西口一希氏著書の「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」にて、マーケティングの全体像を把握したうえで、この本を読むと理解が深まるのでおすすめです。それではやっていきましょう!

パーセプションフローモデルの概要

パーセプションフローモデルとは、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化したもの。カスタマージャーニーとは、未来の消費行動を促す消費者の"認識の変化"に着目する点が異なる。N1分析やマーケティング活動全体(4P)の設計や各活動を立案するときなどに使う。

「購入を意識し始めるタイミング」から購入後に満足を感じて、「使用が習慣化する」までが期間の目安。通常半年から1年程度であることが多い。

時系列で並べると、①ブランドホロタイプモデルでブランドを定義し、②そのブランドを実現するためにブランド戦略を策定し、③そこに示された資源利用の指針に従って「パーセプションフローモデル」でマーケティング活動全体を設計していく。

パーセプションフローモデルの構造

①枠外
全体を管理、評価、修正するための目的や戦略が、ブランド名やキャンペーン名とともにまとめて示す。

②本体
行動、パーセプション、知覚刺激、KPI、メディアを示す

③8段階の各要素
現状、認知、興味、購入、試用、満足、再購入、発信、からなる。

パーセプションフローモデルの材料

パーセプションフローモデルの開発を取り掛かる時点で、①ブランドホロタイプモデルなどのブランド定義書、②ブランド戦略が完成している必要がある。ブランド戦略に示された資源利用の指針に従って「パーセプションフローモデル」でマーケティング活動全体を設計していく。

ブランドホロタイプモデル
①大義
・Purpose (すべてをまとめた一文。大義、存在理由)
・Vision (理念、実現したい世界)
・Mission (使命)
・Value (使命を達成する際に尊重すべき行動様式や価値観)
・Role (役割)
②市場/競合
・製品カテゴリー市場
・ベネフィット市場
③ターゲット消費者
・ブランドターゲット (中長期)
・プロモーションターゲット (短期)
④ベネフィット
消費者が欲しいと思い、ブランドを使用する理由。主語が消費者。
⑤エクイティ
長期的にブランドが意味として独占的に保有したい内容。主語がブランド。
⑥パーソナリティ
ブランドの擬人化。Valueの体現。
⑦アイコン
ブランドが長期的に強い連想として有している、記号や色、デザイン。
⑧機能・特徴
エクイティを体現し、ベネフィットを提供するために必要な性能要件。

ブランド戦略については、同著の「なぜ戦略で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる」を読むことをおすすめする。

パーセプションフローモデルの作成

1. 枠外

・ブランド名
・ブランド戦略
・IDやバージョン番号
・キャンペーン名、期間
・目的
売り上げやシェア、成長率、利益額、利益率といった財務上の指標が示されることが多い。あるいはブランドの回復や新商品の成功といった課題もある。
・エリア
・ターゲット人口
目的達成に必要な人数の3~10倍程度が一つの相場
・ラーニング目的
このプロジェクトを通して、プロジェクトチームが獲得するべき知見やスキル

目的やブランド戦略については、上記で紹介した「なぜ戦略で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる」を参照。

2. 枠内の本体(現状、興味、購入、再購入)

最初にパーセプションの変化を描き、完成後に行動を示す。次いで、知覚刺激、メディア、KPIと書き進めていく。慣れると、パーセプションと行動を交互に書き進めるのも可。一般的な指針として、行動は外から観察できることを書く。

①現状
ターゲット消費者の現時点での行動やパーセプションを理解しつつ、どのような問題を認識し、どのように解決しているか考える。
新規ユーザーの獲得では、消費者が競合ブランドを使っている様子を描く。現状の記述に手間取る時には、ターゲット消費者を絞る。
競合ユーザーの獲得を目指すとき、ロイヤルティの低い層をターゲットに設定するのは定石。

・自ブランドや競合ブランドを使っているターゲット消費者のパーセプションや行動は明確か?
・競合ユーザーが、競合ブランドを使っている理由は何?

②興味
次に、ゴールを確認する。最終的には再購入だが、ひとまず購入意向の確立を目指す。

ブランド選好に影響を与える要素
・ターゲット消費者が誰との関係を重視しているか
・製品カテゴリーを使用する頻度
・解決すべき問題の重要度や発生頻度
・ベネフィットや製品機能
・価格や価値

多くの消費者に共通しているものが特に重要。

③購入
購入する瞬間のパーセプションを描く。きっかけの提供が重要。

購入のきっかけ
1. 時限性のお値打ち感
2. 経済性の強化
3. 必要性の強化(変え時)
4. 他者を巻き込む(家族で、みんなで)
5. 社会正義などの規範(環境、健康)
6. 準拠集団などの規範(みんな、SNS)
7. 動機付けやご褒美
8. 記念日やお祝いなど

即時的な売り上げをつくったとしても、ブランドの長期的な成長とは必ずしも一致していないことに注意する。

④再購入
2回目の購入というよりも、使用の継続や習慣化を意味しており、パーセプションフローモデルが目指すゴール。リピートユーザーが継続購入している理由を探る。使用の継続によるベネフィットを明示できると有効。また、愛着による再購入は、ブランドマネジメントにおいて目指すべき普遍的なゴール。

ブランドへの愛着を高める取り組み
・ブランドの活動やブランド体験への参加
・ブランドのロゴやステッカー
・日常生活でのルーチン使用の仕組みの用意(置き場所など)
・投資対象

3. 枠内の本体(満足、発信、試用、認知)

①満足
再購入の直接的な動機となる重要な段階。ロイヤルユーザーが感じている感動や満足、状況について理解するとよい。満足が重要でありながら購入を先に記述するのは書きやすさを優先してのこと。多くの場合、購入意向や購入理由を調査していて、行動もわかりやすいので、購入や興味の段階はスムーズ。

②発信
SNS上の評価や写真、動画の共有だけでなく、ユーザーが親しい人とブランド体験を共有してくれることも含む。満足しているだけでは不十分であり、動機付けが必要。発信の動機を理解するには、「消費者自身の自我や理想の自己像」「ブランド体験を共有したい相手やコミュニティ」の2要素を意識することが重要。誰に、何を、いつ、どの経路を通して話されているのか理解する。

③試用
ブランドを使用する直前の第一印象を作り、満足の前提となる期待値が設定される。五感を通して、どのような順番で何をどう知覚し、どう感じ、どう解釈するのか、そして、どのような驚きや感想が出てくるのか、理解する。

発想のきっかけ
・手軽に使用できる製品カテゴリーの場合、消費者インタビューなどで実際に使ってもらいながら感想を聞き、その場で反応を観察する
・自宅での使用シーンを動画などで記録してもらう

④認知
ターゲット消費者には問題や課題解決の手段として、なるべく自発的にブランドを探しておらえることを目指す。既存の問題を解決する新しい課題の認知は、重要属性の順位の逆転をもたらす。理想的にはブランドへの関心の低さを広告で補うのではなく、消費者が積極的にメッセージを受け取りやすい仕組みを作ること。課題の認知と代替手段の認知に分割すると有意義な場合もある。

・ターゲット消費者はどのような問題を解決したいと考えていて、何を課題と理解しているか?
・ロイヤルユーザーの場合は?

4. 知覚刺激とメディア

各パーセプションに作用し、次の段階への変化を促す知覚刺激を記述しつつ、それぞれに適合性の高いメディアを示す。消費者から考える。

①現状から(課題の)認知
【知覚刺激】
解決すべき問題が新しい課題と解釈されたり、いままでにない解決方法が提示されたりする。現状を否定するのではなく、さらに良くなることを示すのは一つの有効な方法。また、解決すべき問題が起こる仕組みを、客観的に説明して、課題を明らかにするアプローチも有益。
【メディア】
ブランド発である必要がなく、KOL(Key Opinion Leader)などの専門家やインフルエンサー、ニュース性の高いメディアによる発信が有効。戦略PRといった手法の使いどころ。新しい課題の認知を早急に確立しなくてはならない場合は、大量の広告出稿することもある。

②認知から興味
【知覚刺激】
ベネフィットのすばらしさや、それをもたらす機能、性能などをブランドから直接的に伝える。消費者にどのような良いことがあるかというベネフィットの話が有効。主語は消費者。
【メディア】
Paidの広告が中心。ウェブサイトやメール、SNSなどのOwnedのメディアも併用。タイミングをうまく管理できれば、アンバサダーやファンなどのEarnedも有効。

③興味から購入
【知覚刺激】
前段階で購入意向は確立できているので、購入を正当化するきっかけの提供。
【メディア】
店頭の販売施策や販売員との会話、ECの購入のページなど購入する場所に存在できるメディアが有効。

④購入から試用
【知覚刺激】
ベネフィットの示唆を提供。触覚、嗅覚などを活用。
【メディア】
パッケージの内外装、製品そのものの質感、店舗の雰囲気など、触覚、嗅覚、味覚を伝達するメディアを意識。

⑤試用から満足
【知覚刺激】
使い方が悪くて満足のいくブランド体験にならなかったという事態は回避しなくてはならない。製品自体が正しい使い方を導く知覚刺激を提供していると効果的。
【メディア】
ブランドの製品やサービスの使用体験そのもの。

⑥満足から再購入
【知覚刺激】
再購入を促す3つのアプローチがある。

・習慣化を促す
・ブランドへの関与度を高める
・ブランドスイッチにかかるスイッチコストを理解してもらう
スイッチを阻害するのではなく、ブランドの居心地をよくするアプローチが健全。

【メディア】
上記で紹介した3つのアプローチそれぞれに対して、以下のメディアが典型的である。

・消費者向け販促キャンペーン、製品パッケージの最適化、定期購買の仕組み
・共創の仕組み、参加型の施策、ユーザーによる使い方や感想の投稿
・製品そのものの使い方、製品を入手する仕組み

⑦再購入から発信
【知覚刺激】
発信者の意図や動機、ブランドの言及の仕方などを理解する。ファンやアンバサダーとウィンウィンの関係性を実現する動機付けを心掛ける。

ゴシップの法則
-誰もが知っている話題について
-まだ多くの人が知らず、聞く価値のある話を
-自分が投影したい自分像と一貫性のある形で
-話し上手でなくとも話せるよう、起承転結のあるお話になっている

【メディア】
実際の会話に加えて、会員向けコミュニティサイトなどユーザー向けのメディアやユーザーコメントの転載などが一般的な方法。SNSをメディアとして使うことができれば有効。

5. KPIと全体最適

PDCAを上手く回して継続的なラーニングを蓄積するためにも、実行前に設定しておく。目的を達成する指標になっているか確認。

①現状から(課題の)認知
解決すべき問題への関心の度合いや新しい課題の認知率、カテゴリーのエントリーであればカテゴリーの認知率。

②(課題の)認知から興味
購入意向率、ブランドやベネフィットの認知率、ベネフィットへの関心の度合い

③興味から購入
購入率。その構成要素として、配荷率や山積み率、販売経路認知率なども重要。実売価格や競合との価格差、消費者の価格認識も重要。

④購入から試用
試用後の期待値。購入から試用までにかかる時間も確認。

⑤試用から満足
使用後満足の割合。正しい使い方ができている割合、使い方の説明の分かりやすさ、再使用の意向なども関連する指標。

⑥満足から再購入
再購入意向、使用頻度や使用量、SOR(ユーザーの自ブランド使用割合を示したシェア)が代表的。スイッチコストの理解の度合いも。

⑦再購入から発信
推奨意向の度合い、SNSへの投稿量や頻度、その露出量、ファンイベントやブランドコミュニティへの参加度合い。

6. ブリーフ

ブリーフィングで重要なことは、アウトプットへの期待を明確にして、マイクロマネジメントを避け、専門家が能力を発揮しやすい自由度を確保すること。

・目的、役割
目指すべきパーセプションや行動の変化、パーセプションフロー・モデル内での役割を示す
・事前のパーセプション
クリエイティブに接触する前の消費者の認識と行動を示す
・事後のパーセプション
クリエイティブに接触した後の消費者の認識と行動を示す
・インサイト
現在の行動を促す、支配的な動機を言い表しているもの。強力なインサイトが表現されると、消費者は強く同意し、メッセージや活動を自分ごと化しやすくなる。その結果、ベネフィット(便益)への共感性やメッセージの受容性が高まる。
・訴求内容
知覚刺激を示す。TVCMなどの場合は、ベネフィットが多い。役割によってはRTB(Reason to Believe:信じる理由)だけ、製品バリエーションの提示だけ、といったことも考えられる。
・トーン&マナー
ブランド・パーソナリティを示す。各ブランド接点間の表現上の一貫性を保ち、伝達効率を維持しやすくなる。
・考慮点
クリエイティブ・アイデアに関わらず、必ず実行してもらいたい点を示す
・アクション・スタンダード/KPI
基準点と行動予定を示す。
・スケジュール
テレビのオンエアや最終承認日など、重要なマイルストーンについては、タイミングを示しておく

7. 成功につながる検証

【事前の検証】
ロイヤルユーザーの典型的なブランド経験を把握する。背後にある考え方やパーセプションの変化のパターンは一貫していることが多い。表層の観察を通して、行動を動機づけるパーセプションやインサイトの共通部分を理解する。
知覚刺激の質を計測しておくことも重要。クリエイティブ表現を見てもらい、反応を評価する。内容の理解度、前後の購入意向の差、ストーリーや映像の説得力の有無、消費者の興味などを計測。同時に感想などの質的な反応の分析も有効。
クリエイティブ表現以前に、提供するブランド体験が上手く受け入れてもらえるものか、確認することもある。コンセプトボードの評価。ここでも購入意向や、新しさを感じるか、好感が持てるか、値段がちょうど良いかなどを確認。4P要素も検証。

【活動中の検証】
新商品などの導入初期に、イノベーターやアーリーアダプターが経験したパーセプションや行動の変化をよく観察して、プロジェクト中盤以降に向けた改良のヒントを探す。

【事後の検証】
次回よりうまくやるために、どこを改善し、修正すべきかを学ぶ。

①結果を段階ごとに冷静に理解する
最終的な売り上げや利益といった財務目標に加えて、各段階のKPIの達成度合いなどをたどる。
②現象をつなげるだけでなく、消費者を通して仕組みを理解する
どの知覚刺激がどのようにパーセプションに影響し、行動が変化したのか仕組みを理解。バットがどのようにボールに当たればいいかを知ること。
③スキルセットを意識しつつ働きかけ方を理解する
個体差や状況に依存しない、普遍的なコツを学ぶ。強化すべきスキルを意識する。バットを握る時は利き手が上。

以上です。長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
本日紹介した書籍は以下のリンクにまとめてあるのでぜひチェックしてみてください。また次回!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?