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違っている三人

 K子

 電話が鳴った。
「もしもし、K子だけど。明日は絶対に遅れないでよ」 
 非難がましい声が聞こえてきたが、間違え電話だ。K子なんて知り合いはいない。
 翌日もK子から電話。
「S駅に行くから」
 昨日より怒っている。興味本位で駅に行ってみると、改札から人があふれてくる。みんな同じ顔の女だ。大量のK子が近づいて来る。あれは間違え電話だよな?

 
 中野

 俺は中野に電話をかけた。電話がツーコールしてから、ぷつりと切れるときのような音をしてつながった。
「中野です」
「あれ…」
 俺は奇妙に思った。中野は詐欺未遂にあってから、絶対に自分からは名乗らないようにしていると話していたのを、聞いたからだ。それに、声がなんだか違う。中野の声にしては、低すぎる。俺は怖くなった。
「中野ですが、誰ですか?」
「俺は…」
 俺は、もう一度中野を騙そうとしている男だ。

 知らない人間

 さっき、間違え電話がかかってきた。
 たまたま知り合いと同じ名前でそうとは気づかないで話していた。
 お互い、少しずつ食い違いながらも話はまあまあ符合していたし、なによりも、すごく楽しいのだ。ついつい三時間も話してしまって、最後の最後で間違えだったと気がついた。そんなこともあるんだ、と笑って切ろうとした途端に、
「おまえ、さぼってんなよ」
 と、知り合いと同じ名前のやつに低い声で言われた。


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