【小説】 声 (後編)
マンションに戻ると、エレベーターに故障中の貼り紙がついていたのでスズキは五階までゆっくり足を交互に振り上げてきつさを考えないように歩いていたが、上りきった瞬間、春野さんがそこにいたような気がしたのは、酸素が不足していたせいかもしれない。だって、そんなわけはないから。スズキはずっと前に好きだったひこにゃんのキーホルダーがついた鍵を玄関の鍵穴にさしこんだ。マンションといっても、狭めの八畳に一口コンロしかないキッチンのついたおもちゃのような部屋だが、未だにそこに自分が日々存在する