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昼寝で見る夢と、夜ぐっすりと眠って見る夢は違うという。

長く眠って見る夢は、夢であって夢ではない。

たとえば一年前に、右に行く道を左に曲がっていたら変わっていたであろう人生を見ている。

たとえば子供のころに風邪をひいて休んでしまった一日の埋め合わせを見ている。

たとえばあのとき雨が降らなかったら決行された遠足の夢。

たとえばあのとき、カレーの変わりに肉じゃがを食べていたら変わってしまった人生の夢。 

昼寝して見る夢は、もう一人の自分が見る夢。

今の自分とはかけ離れたもう一人の自分が夢の中で生きている。

だからそれは夢であって夢ではない。

昼寝はときどき、気まぐれにしかしないから、もう一人の自分はいつ訪れるかわからない人生の続きを必死に生きている。ゆらゆらと真夏のしんきろうのようにあやういまぶたの裏で。

旅先で見る夢は違う夢。

見ているのはあなたでも、ほんとうはあなたの夢ではない。

一年前にこの町に旅した誰かが落とした夢。百年前にここに住んでいた町の人の日々の夢。

昼間、写真におさめた山の夢。湖の夢。
あなたが旅のことを忘れているつもりでも、夢を持ち帰ってときどき見ている。
水溜りに映った入道雲みたいにあなたの頭に残っている。

誰かと並んで眠っているときは、入り混じった夢。
昼間その人と食べたチャーハンの香りをそろって嗅いでいる。
昼間けんかしたことをそろって反省している。

夢の話はまったく違うのに、一枚のセーターをほどいてつむぎなおしたように、結局は同じところをたどっている私たち。


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