舞台「パラダイス」 感想と考察

パラダイス

〘名〙 (paradise)

① (the Paradise) エデンの園。

② キリスト教で、救われた人が、この世を去ってから行く幸福なところ。天国。天堂。〔引照新約全書(1880)〕

③ 一般に、悩みや苦労のない、楽しい世界のたとえ。楽園。

※輿地誌略(1826)二「土壌豊腴、最多く美果を産す、世人之を地上の把剌題斯(パラテイス)〈天堂と飜す〉と云ふ」


どこがパラダイスなんだよ。
むしろヘルだわ。ヘル通り越して無限地獄だわ。この世は。
もちろん、この舞台も。

と、叫びたくなる。

森ノ宮ピロティホールにてコロナ禍を乗り越え、ようやく、ようやく上演に至った舞台 パラダイス。
9/30公演と10/1公演を観劇した。
プラスして10/19夜公演も気づいたら増やしてた(?)
たまたま、アフタートークも見れた女が感想文9.5割の考察をしてみたいと思う。

一言言うなら、リアルすぎて舞台と言うより、ある種のノンフィクションドキュメンタリーを見ている気持ちになる。
あたしも望月道子と変わらない、犯罪に手は染めていないものの、同じような生き方をしてきた。ギリギリ犯罪に手を染めなかっただけで「終わってる側のニンゲン」だからこそわかる。救いがない世界への不満とか。
そういう感情も咀嚼して考察と、感想を吐露していきたいと思う。

念頭に置いて頂きたいことがあるが、
それは、9/30の終演後アフタートークで、赤堀さんが仰っていた「マルちゃんね、11場で(小川家ラストシーン)袖で見ながら「俺は、ここに戻れんかったんや。」って言いながら泣いてましたよ。」という言葉だ。
解釈は人それぞれだし、戻れない=死でもないわけだが、きっとあの子が、梶浩一こと小川浩一が、もう二度と実家に帰ることは無いのだろう。ということを念頭に私の考察を一読いただければと思う。

あと、感情そのまま剥き出しで書かせていただいたので、非常に口が汚く、言葉が悪い。
不快な方もいらっしゃると思われますが、ご容赦の程よろしくお願い致します。

それだけ、1人の人間の心を揺さぶり、動かす内容ということと思って頂けますと幸いです。

1場 掛け子部屋

荒い呼吸とひきつる声が暗闇から聞こえてきて、明転と共にステージ中央で一人の男を、顔の形が無くなるくらいボッコボコに殴ってるチンピラ(服でわかる。品がない、のにかっこいい意味わからん)丸山隆平がいる。
チック症気味なのかと思うほど、しきりに瞬きというかギュッと顔をしかめるその姿と、下品な(褒めてる)風体を見ると「あぁ。よくいる。イメクラもどきのソープとかデリヘルの店長みたい。」と思った。
意外と毎日スーツとか着て、たけぇ腕時計して、ちゃんとしてるのよね。一般の企業より、あそこら辺の人達って。

止まらない暴力。
さすがに見兼ねたのか部下?だろうか、両手にゴリゴリの日本彫りの入った長身の男が「梶さん!そろそろ!」というが、丸山隆平こと梶は「もうちょい!」「このままじゃただの暴力じゃん!」「お祓いみたいな?バンバン背中とか叩いて悪霊追い出すー!みたいな!!!」と手を辞めない。蹂躙するのが楽しいというか、衝動の表し方を暴力しか知らないのか、本当にそう思っているのか。あたしとしては、前者だと思う。見せしめ。
その後もボッコボッコ殴って、女の子の掛け子のスカートに血飛沫が跳ねてしまう。
「あぁ、ごめん。血ぃついちゃった?」「クリーニング出しておいて。領収書貰ってくれたら経費で落としとくから。」と。掛け子が申し出を断わっても「いいから!俺そういうことはちゃんとしておきたい人間だから!」と。
いや、んなこた知らんがな、変なとこ偽善的と言うか恩着せがましいなてめぇ。と思ってしまった。
その後ボコられ男から、掛け子たち全員に謝罪をさせるが、その絵面を見るに「逃げる気配を少しでも出したら、これと同じ顛末だぞ」とある種の脅しである。
その中でも「学校じゃねぇからなァ!!!」と何度も叫ぶ腹心がジワる。秀逸な間とテンポ。小劇場みを感じて好きだった。
謝罪終わりに空気の読めないチャラそうなアホ男が、「俺、こいつの謝罪受け入れる気ぃないんで!」と宣う。

な め て ん の か ?
空気読めよ〇ね。

普通に観劇しながら吐息混じりで呟いてしまった。隣の人にはギリ聞こえてしまったかもしれない。でもそれくらい腹立った、申し訳ない。
明らかに口ばかりが立つ、中身ペラペラ代表の若者。こういうやつ嫌い(個人的主観)
しかもこういうやつ死ぬほど使えねぇのに、改心しねぇし、開き直んのよな。いるいる。
だからここ(掛け子)にいるんか。キャバか?ホストか?売り上げでもくすねたんか?と思ったが、ブチギレてるあたしを他所に、梶はやはりそれでも大人。若者の言葉を肯定し、するりと話題を変える。
政治犯の獄中の本を読み、自分は生まれながらに「罰」を受けて生きてる気分だと、そんな世界に復讐をするのだと声高に宣誓する。

あーーーーーーー、わかるううううう。と思ってしまったし、それに同調する掛け子(女)にも、親近感が湧いた。
私たちは、生まれた時代から恵まれていない。それが「罰」ではなくてなんなんだろうと。
生まれた家柄、親の資産、環境、見た目、それがひとつでも伴わなければ、将来性は0。熟れきった果実であるこの国は腐るしか道がない。若い頃から資産運用をしろ、老後は2000万必須。必死こいてもしかしたらと言う政党に投票しても結局は私利私欲。下々まで変わることは無い。
昼職着いても手取りは、風俗で最低3、4日間フルタイム出勤したら、稼げてる額。毎日9時間拘束されて最低20日間出勤してもそれだけしか入らない。ボーナスなんかも雀の涙。生きるだけでぎりぎりだ。
にも関わらず食品は値上がりし、給与は上がらず、税も増える。

惨憺たる始まりに、爆発音のような遠巻きのヘリの音、遠い音色はまるで心音のように木霊する。

この後出てく某精神科の放火事件を模したシーン。
その事件についてを語る、精神科医は言う。

誰にでも自分が認められたいという承認欲求はあります。
それが満たされていると怒りや不満を抱かず、復讐願望を抱かずに済むんですけど、今の世の中をみると承認欲求を満たされていない人がものすごく多いんですよ。そういう人が社会に対する復讐みたいな形、復讐をしようとして犯罪をおかしたりとか、誰かを攻撃したりとかものすごく増えている印象ですね

あたしたちが満たされない、復讐したいのは承認欲求なの?
それとも、孤独なの?と。
当然に湧いてしまう感情でないのかと歯噛みした。

にしても、紫のシャツ?に微妙な長さの金のネックレス、剃りきれてない髭、無駄にとんがった靴に素足。
バカエロくないここの梶浩一くん?
あといい雄っぱいと、いいケツです(?)

でも、純粋にこのアングラver丸山隆平を楽しめたのも、こことこの後のシーンだけなので、アングラ摂取したい皆々様は、ここで思う存分摂取するといいと思う(?)

2場 ボーリング場

八 嶋 さ ん の お で ま し だ

内心小躍りしていた。
昔からカムカムミニキーナの作品が大好きだから余計に。

緑ジャージにウエストポーチのヒョロい変なやつ。と、見るからに「成金代表です」と言わんばかりの風体の八嶋さんが、2人でボーリングをしている様はなんともシュールである。
接待にも似た空間なのに、手加減しない緑ジャージ青木、それを窘めることなく、変な気合いいれにキレる辺見。
何だこの空間。異質すぎんだろ。
ゴロゴロと転がるボーリングの玉の音。
有りそうなのに有り得ない空間がある種、私たちとは交わらない世界なのだと見せつけてくれる。
あと、ボーリングの玉投げる前に、1回肩回すのやめて辺見さん、じわじわくる。

そこへクラッチバッグ片手に梶くんと真鍋さん登場。
「辺見さんぼろ負けじゃないっすかァ!」ってけたけた笑う梶くんと、それに何も言い返さない辺見。
「こーいち♪」「名前で呼ぶのやめてくださいよ笑」ってしょーもない会話して。
ふざけた応援と、ゴロゴロと転がる玉の先をみんなで見るこの瞬間まではよくある「仲のいい上司と部下」だった。

直後、梶が独立しようとしていることをそれとなく窘める辺見。
危うく指詰められそうになったと。やめとけ、上の人達は僻みっぽいから。一見さんお断り、京都の老舗より融通が効かない。俺も若い時考えたことあんのよ。と。至極真っ当な諭し方をする。当たり前のご意見だと思うあたしは。
裏の中にある道は、当たり前にそのスジの本業さんが担ってるもので、想像でしかないが、きっと政治、宗教、企業、資産家、ありとあらゆるものが複雑に絡み合ってできているはず。
それを端っこの端っこ「組の子飼いの下々」であるヤクザの辺見や、それの更に子飼いのギリギリ一般人との瀬戸際の梶が好きに動けるわけが無い。
シマがあるだろうし、面子もあるだろうし、上の人達の承認やらなんやら大変なんだろう。
あほらしいほど裏側ってそういうとこ体育系だから。そうじゃないと規律取れねぇからね。
ましてや《一般家庭出身》の梶ではもってのほかだ。
ある種表世界でいう《強い親、金持ちの家柄》じゃないから。まぁ、それがこの後梶を余計に追い込むのが皮肉である。

言い返そうとした梶を怒鳴りつける姿に、やはり仲良く見えても、そのスジの、上辺だけであり、不可侵の上下関係があるのだと少しゾッとした。

それに付け加えるように、梶の実家の現状を話す辺見。
おそらく中盤で出てくる14歳の甥っ子を1度も見ていないという発言から、同等の年月縁を切っていた梶の家庭を、昔からの馴染みのように話す辺見。
口振り的には、表社会の会社の上司が本人から、または他の社員から聞き及んだことを「親御さんこうなんだってねぇ」という感じだが、ここは「裏社会」。
「え?なに?調べたんすか?」と憤る梶に、「いやほら俺、臆病だからさ!」「信用してねぇから、いや、お前だけじゃなくて《ニンゲン》のこと。そういう生き物だから、自分のことしか考えてない。そういうものだから。」と。
その時の、怒りと失望と、焦りとなんか色々綯い交ぜになった梶くんの顔は、とてもリアリティがあって非常に良かった。それと対比するニコニコと笑う辺見さんも。
最後の最後、空気の読めねぇ青木がゲームに勝ったことで、「みんなで精算して、肉でも食い行こーぜ?」という辺見。
この《精算》という言葉には、色々含まれているんだろうなと感じた。
お前の戯けたお話も俺は知らないし、俺がそのせいで蒙ったお上からのお叱りの憤りも、お前へのちょっとした揺さぶりと脅しかけで精算な?と。
憮然とした梶、それを困った顔で見る真鍋。
辺見の持ち物(ボーリング玉)に少しでも触れればブチギレてる程度には梶と真鍋を見下してるけど、離す気もないという浅ましさとか。
それを取り繕うとする小狡い感じとか"この世の中"そのものだなと。

よりこのシーンで、好感的にグッと引き込まれたのは、辺見がメンタルブロックという手法をひどく乱用すること。
だからこそ、彼は本当に臆病で、小心者で、傷つきたくないし、損したくない、人間らしい人間なんだなと思えた。

自分は臆病だ
自分達には無理である、不可能である
世界が違う
だからこそ無駄

と予防線をつけまくる。現状を受け入れるために。
逆に、梶は臆病じゃなく無謀だから、心が強いから、辺見が理解できない。

そこで暗転する。

転調曲が心地いい。知ってるのに理解できない、ピッタリだ。
こういう曲あるよね。知ってるし、分かるけど、理解はできない。

第3場 小川家

えっ、ウチの切り取り?
と言いたくなるくらい、家庭関係が良好でない人は見たことある光景だろう。
一緒に観劇した友人とも話したが、まさに現代家庭の具現化。いちばん辛かった。この船橋の実家の姿が。

家の中のものの場所も知らねぇくせに威張る親父
なんかわかんないけど不機嫌な母
振り回される娘

バカ、バカ叫ばれると自分に言われてる気分になるよね。
嫌んなっちゃうよね。
と、テレビを見る父親見て吐きそうだった毒親育ち。

あと何よりもリアルなのが、

実家には実家のテンポがあり
自分が異質に思えること

普通に会話をしようと試みる梶くん、でも小川家の人々にはそれが通用しない。
家族だからこそ己のルーティン、テンポを譲らず、会話は噛み合っているようで噛み合っていない。

はい、あたしの普段の光景。
と死にたくなったので、毒親育ちは覚悟した方がいいかもしれない。

その後、だーれもいなくなったリビングを、虚無?なのか、なんとも言えない顔で見回す梶浩一。
なにを思っているのか、なんも考えていないのか。
なんとも言えない空気の後、お姉さんが戻ってくる。

お姉さんならと会話を試みるが

「誰もいない」

との言葉通り、浩一くんの話には一切反応しない。
それなのに自分の考えていることを浩一くんに問うて、暗転する。

今思えば、この"噛み合わない"こそ、まだ小川家が、浩一を受け入れていた証拠だったのかと今なら思う。
が、しかし、実際にこれ食らうとしんどいものである。(経験談)
「誰も居ない」という状況下に「俺はいるけどね」と返す浩一くんの侘しさよ。
目的の人がいないだけで、誰もいないんじゃない。
でも、目的の人がいないし、普段は「居ない」人間だからカウントする必要が無いのか。と独り言ちた。
日常にはない「部外者」のくくりなのに「家族」のくくりには入るのって厄介だな〜。

でもお姉さん、このご時世にコロッケ70円は厳しいので、90円でいいと思うよ。

第4場 BBQと掛け子部屋

うるっせぇな。と思った。ヘリの羽音が。
よくこんなとこでBBQ出来んな。
おめぇそれどこのビルだよ。梶くん渋谷住まいっつってたから渋谷区なんか?平気なんか?
と思いながらも、キャッキャとBBQに興じるメンツ。
ってか、掛け子の腹立つガキがいることが1番不愉快だった。
この後の展開を知らなかった初回観劇の時のあたしは、「こういう運だけいい、中身のないやついるよな。」と思ったと同時に、これで梶が辺見に推薦しているのであれば見損なったと思った。違ったけど。

そして個人的主観を挟むが、どちらかと言えばあたしは政治的には、ハリネズミにならなければ守れる物も守れないと思う人間なので、自衛隊の皆様を揶揄する辺見、青木、クソ野郎(名前も呼ぶのも不快なクソガキ若林)に殺したろうかと思った。

そして、ここで出てきた「パラダイス」という言葉。
皮肉にも、あんたらにゃあその通りだね。としか感想がない。
あたしもおつむがいい訳じゃない、むしろド底辺。
でも、政治討論番組、各政党のかかげる公約、誰がどこと繋がってるのか、メディアでしか見れない上辺でも必死に追っかけてる、イタい「意識高い系」のあたし的にはその言葉に同調しか無かった。
だって、必死に働いてる人達をからかって「あざーーーーーーっす」なんて言える?無理でしょ。バカ代表隣にいますよ?辺見さん。(個人的感想のオンパレード)
とりあえず氏ね若林。

と思ってたら変なおっちゃん来た誰アンタ。
その後こちらが赤堀大先生と知り戦慄したが。
上手すぎるでしょ。

やべぇやつなのはわかる。
心療内科の話とか、辺見さんの話とか聞く気がない。
破滅願望だけ伝わるし、富士山の爆発という他力本願なこの世の終わりを望んでる姿とか。
この世に言い訳だけして、自分を棚上げしてる感じとか。
あと、このおっちゃんに、ごちゃごちゃ威嚇する若林を怒鳴りつけてくれてありがとう辺見さん。少しスッキリした。

でもおっちゃんタバコ吸わせてもろてんやから、せめて吸った吸殻は踏み消さんと持って帰り?

というとこで場転

掛け子部屋。
必死に架電する女の子。
その必死な声がダメなんじゃね?嘘くせぇもん。
と思ってしまったが、昼飯も食わず必死に、必死に架電する姿とか「人の失敗がそんなに楽しいですか!?」とブチギレてる姿とか、追い詰められてんな。ここでしかもう起死回生の機会がねぇんだな。と一気に道子に寄り添ってしまった。
あと掛け子仲間?のメガネ、きめぇ。道子のこと好きなんだろうね?でも、あんたみたいなクズの寄せ集めの掛け子の1人が、ワンチャンあると思ってること自体がクソ。怒鳴られて当然。

その後もクズ野郎がなんか言うしうるせぇし、イライラしすぎてあんまり覚えていないが、その中でも道子の正論に「じゃあ風俗でもやればいいじゃん」と言ったあの男、絶対許さない。

まともな人間だったら金欲しけりゃ風俗で働けなんて面と向かって言えないだろ。終わってんのか。人として。まぁだからこんなとこにいるのか。

「これでも元風俗嬢ですぅ。それでもダメだったからここにいますぅ。」
「こう見えて結構終わってる人間です!」

と、笑って言い切る道子。
辛かった。

本当はこんなこと言いたくねぇよ。
自分で自分のこと終わってるとか。
でも、にっちもさっちも行かなくて終わってるから、言わざるを得ねぇんよな。

と、道子に自分を重ねていたらまた架電し始める面々。

場転

ごめーーーーーんと早々に梶に心の中で謝罪した。
梶くん登場と同時に若林に怒鳴りつけてたから。見損なったとか思ってごめん。
若林のこと「ヤクザの若頭のせがれ」と知らんかったんねぇ。
ここも腹立ち過ぎてあんまり覚えてない。
ただつらつら若林がなんか言ってた。悪いけどホストをコツコツ働いてとか言うなクソが。おめぇにとったら表なんか?そこは、ホントの表からしたらそこも裏だ。
でも、だからこそ裏の中でだけで生きてきた人間と、裏に足を突っ込んだ"表"の人間との圧倒的な差が浮き彫りなんだろうな。
この言葉を受けて、あとチャラついた舐めた姿勢を見て、梶は若林を殺しかける。
今まで饒舌で梶に「わかるだろ?汲んでくれよ?」と優待しろよこの使えねぇクズでも。と暗に言っていた辺見は、止めることもしない。

は?お前、梶のことほんとにどうでもいいの?信じてねぇの?
普通、真鍋みたいに止めんだろ。
ヤクザの若頭のせがれだろ?それをこんなにしたら、どうなるかてめぇのが分かってんだろ。

真鍋が必死に止めて、顔面血まみれのクソガキ。
その状況になってようよう「なにしてくれてんだ」と叱りつける辺見。青臭すぎるよお前。と。
わかる、その言葉は痛いほどわかるけど。
いや、え、待ってくれよ。どうしてぇのよあんたは。
と、すごく困惑した。
辺見がどういう人間なのか分からなくなった。
小狡いヤクザでもあったけど、少なくとも梶のことは可愛がってんだろうなって。
どうでもいいやつなら、若林のことをネタバラシしないだろうし。
潰れて欲しいの?生きて欲しいのこの世界で梶に。
それとも、こういう場面もこの家業なら乗り越えなきゃ行けないよくある場面だからそういう態度なの?

「おれ、もうへんみさんと、えんきります。」
「こいつと一緒に1からやってみようと思います。」

そう言い残して消える梶と真鍋。
ヘリの羽音にキレる辺見。
えぐえぐ泣く情けねぇクソガキ。
何考えてるかわかんねぇ青木。

辺見さんのヘリへのキレ方と、絶縁を言われた瞬間の怒りと失望のなんとも言えない顔のあとの「好きにしたらいいんじゃない。」を聞いて、この人もやり場のない怒りを抱えてんだと思った。
クソガキを庇護しなきゃいけないこと、信じてた部下に絶縁を言い渡されること。

ままならねぇなぁ。世の中って。
きっと、梶は優しすぎた本当に。
それとも、実家に帰ったせいで"本当の、梶じゃない、小川浩一"が帰ってきちゃったせいなの?
一般の掛け子立ちに異常なほど肩入れして。自分を重ねてるのか。なんなのか。

場転

声をはりあげ「何かわからないことがあったらなんでも聞けよ」「危ないと思ったら無理に引っ張るな」と掛け子に発破をかける。
異様な光景。1場と同じ人物と思えない。梶の姿。
貴方そんなに掛け子に肩入れしてなかったじゃない。
2場でも「いつもと同じ」クズしかいないと同調してたはずなのに、まるでダメな子をどうにか引き上げてあげたい熱血教師みたい。
そこに対し、真鍋は「(もうこのグループ、ないし、この場所は)潮時じゃないですか?」と。
そうだね。辺見の傘下のビルだし、成果をあげる気のない野郎ども。ひとり必死で浮いてしまう道子。
潮時だろうね。ここも、浩一も。
そう思った瞬間に、道子が120万の成果をあげる。
泣きながら電話を置く道子に「よくやった。」と、酷く優しく、誰よりも寄り添った声で、激励する梶。
部活動とか、そういうので真摯に向き合ってくれる顧問ってたまにいるじゃない?そんな感じ。
いい人なんだけど、教員の中で浮いちゃうかわいそうな人。

その瞬間の優しい顔と、満ち足りた声。
子供みたいだった。
あぁ、梶浩一、あんたは、純粋すぎるよ。優しすぎるよ本当に。

「俺たちはまだ終わっちゃいない!」

と、掛け子のことも含めてなのか、真鍋にキラキラと宣言する梶が酷く、滑稽だった。

傍観として、上に楯突いて、終わらないわけが無いもん。
独りよがり、逆に終わりの始まりだと思うよと。

この思いが確信に至るんだけれども。

あとからだけど、ここでもし、成果なく終わってたら、梶は辺見に謝って、指詰めるなりなんなりして、元に戻って妥協したのかなと、意味もない希望観測を思わずに居られなかった。
歯車がかけ違えた瞬間だった。間違いなく。

関係ないけど、このシーンの梶くんの服が1番好きです(?)

5場 猫探し

え?あの本当に我が家?
ウチも猫がね逃げてね、親父は来なかったけど、母と毎日探し歩いてたことある。つらい。

飲酒疑惑を吹っ掛けられたけど、そっとコンビニの袋からちゅーるを取り出したお父さん。
この瞬間、噛み合ってなかった母と娘と父親の、少なからず怨恨が薄まった気がした。
あとちゅーる持つ浩一くん可愛いね(?)

また捜索に散り散りになるも、1人ベンチでやっぱりビールを飲み始めるお父さん。
末期の全身に転移したガン、それでも強がって、酒もタバコも辞めないどうしようもない人。
浩一くんが何かを言おうとしても、くだらない話をして言葉を紡がせない。
その時の姿が痛々しい。

「俺さ!!」

その後に何を言おうと思ったの?
懺悔?今までの?
それをさえぎったお父さんは懸命だと思う。
知らずに終わった方がいい事実も、世の中には沢山あるからね。
女どもがうるせぇからな。とふらふら歩いて消えるお父さん。
男親と、息子のなんとも言えない距離感だなって。
もどかしかった。

少しぼーっとしたあと、おもむろにスーツのポケットからスマホを取り出す梶。
いやクラッチバッグなんの意味と思ってしまった。
その後スーツの上着のポケットから、電子タバコデバイスとヒートスティックを取り出す。いやだからクラッチバッグ何入ってんのそれもはや。

ガードレールに腰掛けて、煙草をふかす姿の妖艶なこと。
とても重い話をしているのにそれどころじゃない。

喫煙姿が性癖の人のため(主に自分)に少し備忘録

・使ってるデバイスはiQOSでは無い。横に加熱ボタンがある黒いデバイス。長方形?ヒートスティック抜く時、そのままスっと取り出していたので、旧式のiQOSとかイルマの互換ではなさそう?
・ヒートスティックの外箱はオレンジ色でした。9/30公演の時多分残り15本くらいだった。

話を戻そう(?)

開店準備させてごめんねと。何をやろうとしてるのか、ぼったくりのキャバか、風俗か、それともまた詐欺集団の店かなんかの開店準備でバタついてるような会話。もうすぐ戻るから。と言いつつ「お前もうこの世界から足洗え」と真鍋だろう電話の相手に伝える梶。
夕方家に帰ったら、猫が玄関前で殺されてたと。
多分実家の猫で、やったのは辺見さんだと。
ついさっきまで必死に、探してた、茶色い猫のマロンちゃん。
苦しくて泣いた。

このままじゃお前も危ないから、俺だけでいいのに被害を食らうのは。と暗に伝えているのだろう。
俺のせいで家族も悲しませている「ごめん、(猫が居なくなったのは)俺のせい。」と、それとなく伝えたのに対して「(猫が居なくなったのは)あんたのせいじゃないから」と言ってくれたお姉さんの言葉が突き刺さる。

きっと1場の梶が同じ環境にいたら「やべぇよな?どうしたら辺見さん許してくれっかな?」ってへらへらしてた気がする。
でも、今ここにいる梶浩一は、もう裏にも、実家にも、どこにも居場所が無くなった、1人の男だった。
仲間のために、仲間を切り捨てて、己1人終焉を迎えようという、静かながら、刻一刻と迫る破滅が、ひたりと浩一の首に刃物を突き付けたのが見えた気がした。

ニンゲンに戻らず、辺見の丁度いい可愛い飼い犬で居たら、こんな事にはならなかったのにね。
どこで間違ったの?独立しようかと思った事?でも実行してないじゃない。
辺見さんが実家のことを話したから?
表の普通に戻りたいとどこかで思ってしまったのかな?

電話越しで泣く真鍋さんのごとくあたしも静かに泣いた。
「え?なに?笑 泣いてんの?笑」「え?なんでお前泣いてんの?笑」と貼り付けて笑う姿は痛々しくて。
突然真鍋さんから電話を切られる浩一。
そりゃあもう、居てもたってもいられないよね。
死ぬまで着いてくと決めた相手が1人死のうとしてんだもん。

キョトンとしたあと、「なんだよ…」と言いたげな顔でスマホを見る浩一の元へお姉さんがやってくる。
取り留めもない話をして、どこ住んでんの?タワマン?と今の浩一の話をキラキラと聞くお姉さん。
ベランダにテーブル置いて、そこでワインとか飲んでみたい〜!ってささやかなしょーもない夢を、無邪気に話すお姉さんと、それに笑う浩一。

なんで、こんな素敵な空間を、自分は切り捨てたのかと自責に駆られたんじゃないかって思わずに居られなかった。
それくらい普遍的な家族の一会話だった。

終わりが待ってる。

6場 屋上

え、まって。包丁…?
しかも普通の。
え?殺りにきた?浩一くん。にしても、得物選べよ!!!!
普通の包丁じゃ無理だって!!!
助かっちゃうって!!!!

と今書いてて思った。なんか変な感想。
こういうとこも間抜けだなって思う。赤堀さんがブラックジョークと言っていたのがよく分かる。
こんな切羽詰まったシーンなのに。

普通の 家庭用の 調理包丁を ヤクザに 突きつけてる チンピラ

文字にすると余計にシュールだね。
観劇中は引き込まれてるから「ダメだよ浩一、やめよう、まだ引き返せるから、生きよう?」ってボロボロ泣いていたけど。
アフタートークで赤堀さんが「必死な姿ってその外からしたら、酷く滑稽だったりする(ニュアンス)」って言ってて、まさしくその通りの場面だった。

寂れた屋上で、テーブル出して、上等な寿司屋の出前取って、寿司食ってるヤクザと、そのおこぼれに預かるボディガード(になるとは思えねぇヒョロさ)。
そこに対し、家庭包丁持って乗り込んでるチンピラ。
その後ろにはブルーシートとコンクリ材料。何となく察するが。
シュールでしかない。

この時あたしは必死に浩一に心の中で「やめて、やめて。」と呼びかけていたので、1回目の観劇のとき、この後の伏線?になるブルーシートに気づかなかった。
2回目の時は「いや、オーソドックスすぎんだろ。」って、少し面白くなってしまった。

俺小動物だから、派手なことは出来なくても、小さな楽しみとして、今日打ち上がる花火見るために屋上で隠した木の実(寿司)を食ってんの。1人寂しく。俺友達いないから?お前のこと、俺は友達だって思ってたけど。と笑いかけたあと、「で?その包丁で何しようと思ってんの?刺身切り分けに来たわけじゃねぇよなぁ。」という辺見の声の冷たさにゾッとした。
もう終わらせたいと募る梶に、辺見は寿司を見ながら梶浩一が、まだ辺見が一介の付き人だった時代のことを青木に語る。

犬の散歩してもらったり、洗車してもらったり、セックスレスの愛人の世話してもらったり?と。
少し愛人とイチャイチャする浩一くん想像して興奮したのはここだけの話(やめろ)

銀座の寿司屋に連れてったら、カウンターで寿司食いながら「おれ、カウンターで寿司食ったの初めてです。」ってボロボロ泣いたという若い梶と、それに釣られて泣き始めた愛人と、くすくす笑い合う店内の客と、酷く恥ずかしかった、もう行けなくなっちゃった。あんま好きな店じゃなかったからまぁ、今となっては、

どうでもいいけど。

と、無の声音で呟いた辺見。

裏返しだろうか。どうでもいい訳ない。
一介のただの付き人の男との記憶を、こんなにつぶさに覚えているものだろうか。
店のことまで。その店内の状況まで。
羞恥心で覚えているというのか?
でも、恥ずかしかったとはいえ、そんなに店がどこで、誰と一緒でとかまで覚えているものか?
どうでもいい人間だったら、きっと忘れてるはずだ。

あぁ、辺見は辺見で、梶のことを"可愛がっていた"分、許せねぇんだな。と納得した。
だからこそ、手ぬるい仕打ちで終わらせるつもりなんかない。
自分の元から離れたなら、最上に苦しませてやる。と。
歪んだ愛情だこと。

その話を聞いている時の梶が痛々しかった。
泣くまいとしているのか、怒りなのか、過去への、あの頃は良かったというようなある種の走馬灯でも浮かべてるのか、しきりに顔をしかめて、力んでしまっているのか首まで真っ赤になっていた。

「もう終わらせたいなーって。」
「死んだ猫必死に探す家族見て、俺なんかいたたまれなくなっちゃって。」

「なんかもう、疲れちゃった。」

この言葉であたしの涙腺はもう決壊した。

疲れちゃった。
これが、浩一が唯一、この舞台で、本当の《小川浩一》として呟いた、最初で最後の言葉だった。

今更善人ぶるな、お前のせいで自殺した老人の数は両手で足んないくらいだ、その覚悟を持って俺と一緒に働いてきたんだろう!!と怒鳴りつける辺見。
まさしくその通りだ。
浩一が優しすぎたから、浩一がニンゲンに戻らなかったら、昔の無機質な浩一だったら、そのままでいれただろう。

良心の呵責とかそんなものに疲れ果てることも無く。

「で?それ(包丁)で俺殺して、自分も死ぬってか?」
「…っ、はい。」
「やめてよーー。そういうの。俺もう少し長生きしたいもん。」

と全く悪びれた様子もない辺見。
辺見へ近づいて包丁突きつける梶の後頭部に、お手製のチャカを突きつける青木。
もしかしたら暴発するかも。そしたら自分の手が無くなるんで、そうなったら笑ってやってくださいと、てんでこの場面にそぐわないテンションと声で言う。ホントなんなんこいつ。狂ってるのか?と言いたくなる。
そりゃ、そんな場面でも辺見さんだって「笑えねぇなぁ」って言うわ。

と、不意に青木に指示を出し、梶の背後のブルーシートを取り払わせる。
と、
息も絶え絶えの真鍋が転がっているじゃないか。

これ持ってやって来たんだと、意気揚々と青木が、ジップロック?に入った真鍋の詰めた小指を持って説明する。

本当はまだ建設前のビルがあるから、その基礎になってもらおうと思ってたんだけど、それを辺見さんが止めたんだよ。
お前が来ることに賭けたの辺見さんは。
「必ず浩一なら来るから」って。

ここで少しハッとしたが、ヤクザとか、チンピラとか、そういうの無しに《梶(小川)浩一》を見ていたのは、家族以外に辺見と真鍋しか居なかったのかと。もっと真正面から上手く愛してくれる奴がいたらと思わざるを得なかった。
歪んではいるが、浩一のことを可愛がって、ある種洗脳し、支配したかった辺見は、だから頑なに、下の名前で呼び続けたし。
真鍋だって部下として愛していたけど、口下手だし無愛想だから伝わりきらなかったんだと。劇中、何度も真鍋が梶に向ける表情は酷く優しくて、変な程だった。それに、浩一が気付いていたら。

辺見が、青ざめた梶に滔々と語り出す。
日曜日焼肉屋で飯食ってたら、こいつから直接会って話がしたいって電話きたから、あーじゃいいよ?焼肉屋で飯食ってるから来いよって呼んだらこんなもん出されて、食った肉全部便器に吐いちまったよ、それでお前お会計8万だぞ!?8万!!!ふざけんじゃねぇぞ!!!!とブチギレて、真鍋の方に行く辺見。

いやそのスジで何年生きてんのよ辺見さん。
詰められた小指見て吐くとか、マジで小心者か。何度も見てんだろきっと。
しかも怒るとこそこか。8万くらい些細なんじゃねぇのか。ポルシェ乗ってんだろあんた。ちっせぇな。と思ったのは許して欲しい。

「…っ、す、みま、せん…」

「おまえっ、足洗えって!!!」

「梶さんには一瞬ですけど結構、いい思いさせてもらったんで。俺、日本人嫌いだったんで、復讐できて楽しかったです。」
「自分で選んだことなので。恨んでないです。」
「自分、不器用ですから。」

いや、えっ、いいシーンやん。
ネタなの?笑っていいの?真鍋くん。と、頭の片隅では思ったけど、それどころじゃない。
なんでだよ、なんでそこまでして、梶のことを守ろうとしたんだよ!とボロボロ泣いた。

「えーーーーーー!!!!ちょっと待って!!!!お前そんなこと言うの!?えっおもしろーーーーー!!!!ねぇもっかい!!!もっかい言って!!!!!」

と「自分不器用ですから」発言にケタケタ笑って、真鍋に詰寄る辺見。
いや気持ちは冷静な今のあたしだったら分かるが、観劇中はふざけんじゃねぇぞ。と目の前が怒りで真っ赤になった。

と思ったら、梶も同様だったのだろう。
辺見の右脇腹を包丁で突き刺した。

まじかよ、お前、あーあこれ、血ぃ出ちゃってんじゃん。
と、急にひよって階段に倒れ込む辺見さん。
いやだっせぇなおまえ。

そしたら急にバンバンと烏を銃で威嚇しはじめる気狂い青木。
いや怖何こいつほんとに怖い。
辺見が青木に救急車を頼むが全く取り合わないし、撃つなら梶撃てよという言葉に「いや、でももう刺されちゃったんで。本当は刺される前に撃ちたかったんですけど。」と「俺もそうして欲しかったけどね。」と辺見。ちょっとここの会話好きだったシュールで。

「俺の実家さニラが腐ったみたいな臭いがするんだよ。」

と、急に真鍋に語り出す梶。
守ろうとしたはずなのに、真鍋に守られていた事実を受け止め切れていないのか、はたまた少なくとも恩人ではあった、憎いけど慕った男を刺した、殺そうとしたこの状況の現実逃避か、浩一が壊れた瞬間だった。

排水溝に近づいても違うし、姉ちゃんに相談してもめちゃくちゃ怒られるし、俺蓄膿の気があったから本当参っちゃって、と今しがた刺した相手の辺見にすら語りかける。
辺見は呻きながら威嚇するが、全く意に介さない梶。

「布団の中で早くこんな家出たい、出たいって呟いてた。」

「大人になってわかった、あれ、人間の臭い。自分を含めた。」

でも、今この瞬間、戻りたいって思ってるんだ。
あのニラ臭い家に。
周りに誰かが生きていることが分かる。
自分含めて生きているんだって思えるあの空間に。

そう聞こえた気がした。あたしには。

各家庭それぞれの臭いってあって、生活臭っていうのか。
でも確かに生きてる証拠で、あんなに忌み嫌ったはずなのに。と。

もう本当に事切れる寸前の真鍋は静かに笑うだけ。
青木も言葉を返さないし、辺見は救急車を呼べとしか言わない。いやむりでしょ。ヤクザもんが救急車は。

そこにふらりと姿を表す道子。
青木が誰だ!と詰めると、振り返った梶が「お前…なんで。」と驚く。
「なんだ梶さんの知り合いか!俺見えちゃいけないもん見えてんのかと!」という青木の気持ち分からなくもないが、やはり青木が異質である。
仮にも雇用主が死にはぐってるのに、全く意に介さないし、浩一に反撃もしない。

何故かここに来てしまった、行くところもないから。
私は何も知らないし、見てない。
と声高に言うが、きっと犯罪に手を染めたことへの呵責とか、被害者のお年寄りへの罪の意識とかで、自殺しに来たのかなと思った。踏ん切りつかなくて、音楽聴いてたけど、死に切れなくて帰ろうとしたら、梶がいた。

それにしても、この何も知らない、見ていない。
という言葉はある種、神の許しの言葉のようだなと。
この立ち位置もそうなのだろうか。
聖母マリアのように真っ白な服を着た道子が、何も知らないし、見ていない、だから許す。と階下の足掻く浩一へ告げているのだろうか。

「お前、名前は!?」

と問う浩一。
1週間以上雇用していたのに、名前を知らなかった、その時点で以前の浩一と、今の浩一が全くの別物なのが伝わる。
他者を社会の群衆としてしか見ていなかった浩一が、社会を作る群衆1人、1人にも人生が、生き方が、想いがあると痛感したんだろう。どこかのタイミングできっと。
だからこそ、名前を問うたのだろうと。
だって、この場から出て行けと促すだけなら名前なんかいらないはずなのに、1個体として認識して、道子への言葉だと伝えるために名前を問うた。

「みちこ!!!!!望月道子です!!!!」

「そうか、お前、そういう名前だったのか!!!!」

その後望月さんには関係の無いことだから!!!!と出てってくれ!!!としきりに叫ぶも、背後で花火が上がった音にびっくりする道子。
戦争が始まった!と声を張り上げる青木を他所に、遠巻きに花火の片鱗が見えて「花火ーーー!!!」とキャッキャとはしゃぎ始めてしまう道子。

いや、道子お前、え?おめぇも壊れてんな。ってか、青木、戦争ってなんだ?と思ったけど深く追わないことにしよう。
とりあえず道子、音楽聴いてたって、微かに聞こえたろ修羅場。曲間とかきっと。
望月の心もきっとどこかとうに壊れてて、犯罪者になったことには耐えきれないけど、もう表へも戻りきれないから、という複雑な心情なのだろうか。

花火俺も見たい!と辺見踏んづけて駆け上がる青木。まじか。
その後、辺見さん早く!!!と誘ってるし、まじ何なのこいつ。

そのはしゃぐ姿から視線を逸らし、真鍋へと目を向ける梶。
ふっと真鍋と梶の視線が合わさった時、静かに真鍋が微笑んで、梶も微笑んで、静かに事切れる真鍋。
その時の優しいやるせなく笑った浩一の表情が痛々しくてこっちも死にそうだった。

「早く!ここから居なくなってくれ!!」と再び道子に向けて叫ぶも、辺見が血ぃだくだくのまま道子の前へごろりと寝転がってしまう。

叫ぶか?と思ったその瞬間、ポリタンクを抱えた中年男が静かに現れる。

えっ。

まって。

まさか。

案の定、医者と揉めたんだ。富士山も爆発しねぇし、医者は診断書をくれない、こんなに辛いのに、苦しいのに、だから火を放った。結構燃えていた。命からがら逃げてきたはいいが、なんで上に逃げてきたんだろう。もう逃げ場がないのにと、想像通りのことを告げる中年。

いや、あんた、なんつう事してくれてんの。
頭の片隅を、世間を騒がせたあの事件が過ぎる。
その瞬間、青木が容赦なく中年を撃ち殺す。
その直後、辺見も青木に撃ち殺される。
なんて呆気ないことか。
飼い犬に手を噛まれるとはまさにこの事。
でも、浩一ですら一思いに殺すことは出来なかったのに、付き人のように辺見の周りにいた青木は、なんの躊躇いもなく引き金を引いた。
1番やっぱり狂ってるのはこいつなのか。

「降りろ。おーりーろ。」

と、花火の見える階段上から降りろと、酷く明るい口調で道子に階下に行く様に促し、空に向けて銃を放つ。
まさか、全員殺す気か?青木のやつ。
と、少し戦慄したが、静かに非常階段の鍵を出して道子に逃げ方を伝える。
「錆びてボロボロだけど、運が良ければシャバに帰れる。行くも地獄、残るも地獄。」と伝えて道子を促す。

「かじさんは…?」
「こいつにはもう、戻る場所がないから。」

辛かった。
認めたくなかった。
分かってたよ。もう浩一は来る所まで来てしまってたんだって。
でも、少なからず、生きていれば何か。
そう思いたかったのに、きっぱりと片道切符であったこと、帰るではなく、"戻る"場所がないと言い切ったことが。

おどおどと階段を降り、梶に何か言いたげに視線をやる道子の前に、青木が1万円をほおり投げ、それで美味いもんでも食え!と餞別を送る。
意を決したように道子は煙が立ち込める階段へと駆け抜けていった。

シーンとした屋上。

急に青木はカラスをバンバンと撃ち落とし始める。
それと同時に真鍋へも銃口を向ける「そいつはもうっ、」と、紡がれはしなかったが事切れたこいつをこれ以上傷つけないでやってくれという梶の言葉も介さず、真鍋の亡骸へも弾丸を送る。

ひとしきり撃ち終わったあと、おもむろに青木は梶に《烏は昔は3本足だった》と語り始める。
いや、下で火上がってんのにどうにかしてでも逃げないの?
浩一くんはまだ分かる。もう戻る場所ないし、逃げるほどの気力も、余力もない、焼け落ちるのを待つだけだって言うのは。
いやでも、青木?あんたは?なんで?

「昔ね、カラスは3本足だったんだって。犬も昔は3本足だったんだって。
カラスは飛べるからいいけど、犬は3本じゃあ走りにくいよ〜。
だから犬は偉い人に、あー、偉い人ってほらあれね、あの、神様みたいな!で、神様にもう1本足が欲しいってお願いしたんだって。
だから、神様はカラスの足を1本取って犬にあげたんだって。
で、カラスは2本足になったってわけ。
偉い人って全然偉くないね!!!!
だから犬は、おしっこするとき片足を上げるんだってさ。
カラスからもらった足が汚れないようにする為に。
犬もさ、そんなにカラスに遠慮して、気ぃつかわなくていいのにね!
こんな小狡いやつのために!!!」

これを聞いて、思ったのは、青木なりの激励?励まし?だったのかなと。
満ち足りているやつから奪い、持たぬものに与える。神様同士(3本足のカラスは八咫烏と言い、神様的存在)だってそうなんだから、浩一がやった《富んだ老人》から奪うのは罪じゃないんじゃない?と。そんな優しさが青木にあるのか分からないけど。

でも、今、辺見の飼い犬をやめ、戻るところもない浩一は、小狡いカラスに成り下がったという事なのか?

そこへ、ボトリと1羽の撃ち落とされた烏が落ちてくる。

暗転

7場 小川家

まーーーーーーた険悪な父親と母親。
娘の作ったカレーを食べずに2人して怒られている。
どうやらまた何か喧嘩をして、両親は1週間口を聞いていないらしい。

「悪いと思ったら謝ってよ!それで許すんだから。」

母親が、父親へ叫ぶ。
まさにその通りなのだ。
ここでふと、1場の謝れとリンチをしていた浩一が過ぎる。
自分の起こした事実に責任と、悪いと思う感情があるなら、その事実によって被害を受ける人にきちんと謝罪しろと。
家庭内でもそれなのだ。結局は。家族だってそれが必要なんだ。

「悪かったよ。」

と罰が悪そうに謝る父親。
まだ起きてるの?がまだ生きてんの?に聞こえてしまったと。それでカッとなったと。

「バッカじゃないの。あたしがそんなこと言うわけないじゃない。」

もう、この言葉で嗚咽漏らして泣いた。
結局、そうなのだ。
どんだけ忌み嫌っても、家族なんてそんなもんなんだ。
嫌いでも、その行動が嫌いなだけで、死んで欲しいなんか思うわけが無い。だから家族なんだって。

お姉さんはてっきり猫の事件のことかと思っていたようだが、それをぶり返したらまた面倒臭いからと1人納得して「半分でもいいからカレー食べちゃってね?」と言い残してリビングを出ていく。

「あれ?帰ってきたの?どうして、こんな時間に?」
「あ、ちょうど良かった、カレーいっぱい余ってるから食べちゃって。」

その声を残し場面は暗転しカーテンコールとなる。

終幕。

以下、感想文をやめてちゃんと考察してみる。

ラスト、1回目の時は帰ってきたのという言葉に「あ!浩一!生きてた!!!」と思ったが、アフタートークの内容と《帰ってきた》という言葉が引っかかって、冷静に考えてみる。

小川家は浩一にとって、帰ってくる場所では無い。
どちらかというと《戻る》場所であり、今の小川家で浩一は生きていない。
過去はこうだったという事例しか浩一はあげられない空間。(例:昔クリーニング屋だったセブンイレブンとか)

だから、帰るのは薄暗い裏の世界のどこかであり、戻りたいと思っても戻れない過去でしかないのだと思う小川家は。
だから頑なに泊まらなかったんだろう。戻りたくなかったし、戻れないとわかっていたから。

そして何より「俺はここに《戻られへん》かったんや」と袖で泣いた隆平くんの言葉と、青木の放った「戻る場所がないから」という言葉。

ニンゲンに《戻った》浩一が、人殺しにまで手を染め、自分の独り善がりで仲間を失った事実を抱えて、あの家に戻れるだろうか?
あたしはそうは思えない。
きっと、生き残ったとしても、どこかで自殺するか、そもそも記憶を全て失っていそうな気がする。
優しすぎるから。皮肉だけど。

ここで《帰る》と《戻る》の違いをあげてみよう。

帰る
人、動物、乗り物が、元いた場所や、所属、本拠としているところへ移動する意味。
物が元々あった場所へ移される場合は「返る」と書く。

戻る
人、動物、物、乗り物が、元あったところへ移動すること。元の状態や性質になること。

もしかしたら、浩一の中身(裏稼業とか)の変容を知らないお姉さんは、過去のままの中身の浩一であると信じて疑わず、結果として「帰ってきたの?」と言ったかもしれない。
でも、隆平くんが告げた「戻られへん」という事から、元の性質に精算は出来るはずも無いということ。

そして何より、浩一の名前が本来の小川浩一ではなく《梶浩一》がデフォルトであるということだ。
前述の通り、実家の名は《小川》である。
いやなぜ?違うの??というのが率直な感想でしかない。
そして、この名前の違いも小川家の人々はもちろん知らないであろう。

そこで、個人的な意思での日本の姓の変更について調べてみたが、基本的に結婚に帰依するもの、難読苗字にしか個人的意思での変更の適用例はなかった。しかも家庭裁判所で云々と面倒くさそうだった。それを浩一がやるとは思えない。

しかし、いくつか調べるうちに、気になる文言と記事を見つけた

《組を抜けて8年、口座開けぬ元組員 家裁が改名認める》

ここで1つ仮説があがる。
もしかしたら、浩一は過去に所属したヤクザの組から既に足を洗っていて、記事のように生活に弊害が生じたから姓も変更して、でも表に戻り切れる訳でもないから、仕方なしに辺見の傘下でグレーゾーンの詐欺グループに務めあげて"店長"という肩書きに甘んじていたのか。
だから、刺青のひとつも入ってなければ、辺見と袂を分かつその時、暗にヤクザものであれば、「抜けます」という言葉を使いそうだが、そうではなく「縁切ります」と言った。
そう思うと納得できる気がする。

だからこそ余計に小川家に「戻れない」のでは無いだろうか。

この仮説で考えると、哀れな小川浩一という青年はとうに居なくなっていて、残ったのは梶浩一という裏でも表でも生きる場所なんかハナから無くて、この舞台が始まった瞬間から、辺見豪という男の手中でしか動けない"飼い犬"でしかなく、そうしてしか生きることが出来なかった哀れな男でしか無かったのではないか。
でも、その飼い主すら裏切ったからこそ、どこにも戻ることは出来なくなった。
だから、辺見を殺して自分も死ぬという極端な事しか《出来なかった》のでは無いだろうか。

それに嫌な程に頭の回る小心者で、浩一が乗り込んでくることも予想出来た辺見なら、用意周到にもっと梶浩一を追い詰めることが出来たはずなのに、それをしなかったのは「完全な裏の人間」では無かったから、手出しが出来なかったからこその展開な気がしてくる。
だから、梶に刺されても一般人に刺されたから、組が絡まないから救急車を要請しようとしたのかと。

以上の推察から、梶浩一の末路は、あの屋上での《死》を選ばざるを得ない結末だと思う。
辺見というヤクザを殺めて、裏の世界や、グレーゾーンの空間に戻ったところで、収入源を失った上の人々(辺見の更に上のヤクザ幹部とかになるのだろうか?)が、そのまま浩一を生かしておくはずがないだろうし、真鍋よろしくビルの基礎にされそうなものだ。
かと言って表に戻ったところで殺人罪、詐欺罪、ありとあらゆる罪が残って、服役も免れないだろうし、刑期を終えてもまともに生きていくことも、実家に帰ることなんて到底無理だろう。
母も父も姉も甥も「ヤクザの犯罪者の家族」と後ろ指を刺されることになる。
それを"優しすぎる"浩一が享受できるとも到底思えない。

あの屋上でもきっと、優しすぎる浩一は青木に"殺してくれ"とも頼めないだろうし、青木も常識が通じるやつでは無いから、潮時だなとお手製の銃で浩一より先に自害していそうだ。
そうなると、彼は侘しく微かにしか見えない花火を眺めて、あの包丁で自害する勇気もなく、焼け死ぬのを待ったのでは無いだろうか。呆然と。
浩一が望んだ全部「終わらせた」しがらみが何も無い刹那のパラダイスで。

そうして、気狂いの放火事件に煙を巻いて、偉い人が何も無かったようにして。
何も知らないし、何も見ていない。
そんな世界に。

戻したんだろう。

余談的なものになるが、タイミング同じく同グループの安田くんが舞台を行っていたが、そのパンフレットで「lawdamassy/EL SKUNK DI YAWDIE」という曲を上げていた。
題の意味としては「神様お願い」「主よ哀れみたまえ」とかそんな意味らしい。
閃光ばなしにはあまりそぐわない曲調と歌詞だが、パラダイスのイメージソングなのか?というくらい、この曲がパラダイスには似合うので是非ともこの曲を流しつつ、公演パンフレットを読むなり、舞台を思い返したりして見てほしい。

10/19追記

このラストシーン。
1人呆然とと記載したが訂正する。
1人パラダイスに残るのは青木だ。

浩一は確実に撃たれてる。

1〜2発目はカラス、3発目は中年、4発目は辺見、5発目は真鍋、6〜8発目はまたカラスへ撃ち込んでいる。
あのタイプの銃ならば、残る弾は多くても3発ほどだろう。

何より今日「ざまぁみろ」と叫んだ青木と、その青木を見て破顔し笑った浩一。
その浩一の笑顔とともに、暗転直前しっかりと銃を青木が握り直したのだ。
もう、言わずもがなであろう。

そして、ふと思ったのが、あの屋上は上段がパラダイスの比喩では無いかと思ったのだ。

花火を見られた者は「楽園に足を踏み入れることを許されたもの。」だからしきりに、青木が「辺見さん!」「梶さんも!!!」って呼んでいたのではなかろうか。

青木は意外とと言うと失礼だが、キーマンなのではなかろうか。パンフレットの記載も含め。
全身緑の服である事などを含め、いわば梶と真鍋を失楽園へと走らせた、蛇のような存在なのではないか。

アダムとイブは苦しみも心配もなくエデンの園に住んでいたが,誘惑に負けて知恵の木の実を食べた。神の命にそむくこの行為(原罪)のため2人は楽園を追われ,それ以来人間は苦労して働き,ついには死する運命となった。

辺見が屋上でお寿司のことを「隠した木の実」と称していたり。
そんな気がしなくもないな。こじつけすぎかな。

この辺りはメモ取りBBAした走り書き見ながらもう少し精査します。

10/4追記

舞台を通しての感想しか書いていなかったから、もう少しキャラクター個々に迫ってみたい。
こちらは書け次第更新予定。

梶浩一

彼を見ていて何故か思い出したのは、梶浩一を演じる丸山隆平くんと同グループである、大倉忠義さんが演じた「大伴恭一」という男。
人を惹きつける何かを間違いなく持っているのに、フラフラ、フラフラ、人と人の間で流れ流されてる。
野心家のようには見えないのに「独立」しようとしているのも、誰かに唆されたようにしか思えない。
こう考えてみると、普通の家庭に育ち、普通に進学し、大学まで出て、就職して、彼女だっていた彼が、何故ここまで流浪してしまったのか。
皮肉にも1場で遅刻してきた掛け子に言った「どうせ今まで逃げてきたんだろ」といったような言葉、それは彼自身にも当てはまるんじゃなかろうか。
「自分を騙すんだ」「お前たちは何物でもない、それは何者でもなれる可能性を秘めている」これは掛け子に放った言葉だが、ある種自分への言い聞かせにしか聞こえなかった。
自分でもどっか気づいてしまっている本当の思いに見て見ないふりをして、俺はまだやれる、俺はこんなもんじゃない。そうどこか思い続け、甘言にゆらゆら揺れて。
きっとそうやって、辺見の元へも流れ着いたのだろう。
変にガッツはあるし、元は純粋なようだから(付き人出来たりとか、カウンターのお寿司に感動して泣いたりとかね)、まさに《思春期の子供》のままの人なのではなかろうか。
ほら、中学生とか高校生の頃って根拠もなく"自分は特別だ!自分ならできるんだ!"って思いがちじゃない?違う?()
だからこそ辺見が手塩にかけたのにと、可愛さ余って憎さ百倍になってしまったり、真鍋があの世界であそこまで心酔したりしたのかと。
裏ではもう手に入らない「優しさ」とか「純粋さ」とか、言うなれば「輝かしい愚かさ」、そういったものを、浩一が持っていたから。
言い方が合ってるかは分からないけど、大人が子供達のはしゃぐ姿を見て「戻りたい」って思うのと同等に、憧れて、辺見はそこに変な独占欲が湧いたり、真鍋に「もしかしたら本当に終わらないのかもしれない」と刹那の夢を見せたりしたのかもしれない。
そして、それと同じくらい浩一の中に存在しているものもある気がする。
破滅願望に似た何か。なるようになれ。といったような。
最後に言った「俺もう疲れちゃった」という言葉が、まさにそれじゃなかろうか。
これこそが、輝かしい愚かさに助長されて、彼をここまで流してきた根本原因な気がする。
小川家で疲れ果てていたからか、大学か、会社か、それとも自分自身にか。
どのタイミングでそう思ってしまったのか分からないが、純粋な子供のような浩一と、ある種放火した中年男の破滅願望に似た部分(冒頭で生まれながらに罰を受けてる気分だと言っていたことや、世界への復讐であると宣っていたりとか、他力本願な破滅願望)との対比、この相反した所が、ダメンズにハマる女性達のように辺見や、真鍋を絡めとっていたのではなかろうか。
「この人は私がいないとダメだから」「私がいてあげたらこうしてあげられる」と。
それにしてもこう考えれば考えるほど、この《梶浩一》というキャラクターは《丸山隆平》という男にピッタリすぎる。最高の当て書きだと思う。
"みたらし"と揶揄されるほどの人たらしであり、ボディタッチが多かったり、すぐにその場と人と仲良くなってしまうくせに、絶対に人には踏み込ませない自分の領域があり、家に姿見が割れたまま散らばっている中生活していたり、光と闇を併せ持った人間らしい人間である彼に。
「怒られている時、俺どないしたらええんか分からへん。」と、Jr時代1人説教されてもへらへら笑うしか方法を知らなかった歪さとか。
赤堀雅秋さんなりの一種、パラレルワールドに丸山隆平という男が存在していたら、こんなこともあったんじゃないかというようなキャラクターの表し方に思えてくる。
梶にも、村上信五さんみたいな存在がいたら何か変わっていたのだろうか。真鍋のように共に落ちる所まで落ちても文句を言わない、間違っていても認めてしまう人ではなく、村上さんのように叱咤し、引き上げてくれる人がいたら。
そう思うけれど、案外何も変わらなかったりするのかもしれないね。

真鍋(ごめん下の名前忘れた。後でパンフ読むね、ごめんね。)

酷く優しい目をしていたことが強く印象に残ってる。
何をするにも、どんなときも、目線は基本的に梶にしか向けられていなかった。
その見つめ方は異様なほどだった。
梶に「足洗え」と言われてることから、親がそのスジで、ここで生きていくことが決まっていた人物でも無さそうだし、でもゴリゴリに入った刺青とか、あのレベルの彫りは少しづつ増やしていくから、何年も、何年もあの裏の世界にいるのは間違いないんだろうな。
そんな彼が、なんで梶と交わることになってしまったのだろうか?
無口で、不器用な彼が積極的にお喋りに興じて、初対面で仲良くなるとは思えない。
きっとそれこそ、長い時をかけても真鍋とは真に仲良くなれることは無い気がする。普通の人なら。
きっと途中で「自分嫌われてんのかな?」って変に誤解されて、離れていかれそう。あたしは多分そうなる()
何か真鍋にとって心のドアとかぶち壊してくれる、衝撃的なことがない限り、あそこまで心酔しない気がする。
そういうことがあったなら、不器用な人だからこそ、1度惚れたら最後までってそうなるのも分かるし。あたしもそのタイプだし。
心開いたら0か100しかないから、嫌われがち。悲しいかな、ね、真鍋?(真鍋に押し付けんな)

あとこれは、他の方の考察を拝見し「あぁ、そうか。」とあたしが納得したものだが、真鍋は海外にルーツがあるのではないか?ということ。(素敵な考察だったのでこちらでお借り致します。お許しください。)
その方曰く、梶が宣った復讐の対象者は漠然としていて、この地球上の生き物全てを指しているようなニュアンスだが、真鍋は事切れる寸前にわざわざ「日本人に復讐出来て」と、日本人への復讐であったと宣言しているのである。ということ。
そう考えると海外にルーツがあるのではないかというのも痛く納得出来てしまう。
この仮説からいくと、人種とかそういった何かで真鍋が作っていた壁とか、差別されていた環境とかを、梶が持ち前の「輝かしい愚かさ」で乗り越えるなり、ぶっ壊す何かが過去にあったのかなと思える。
その事から真鍋は梶を慕い、支え、腹心になったのではないだろうか。
どちらかと言えば、風体とか、寡黙さとか、辺見が若林を接待していた場面でも怒りを隠し、静かに肉焼いてたりとか、彼の方が圧倒的にあの世界に順応しているのに、わざわざ子飼いの梶の元で腹心になる理由がない。にも関わらず、辺見に怒るのではなく「ちゃんと(梶にも)説明してくださいよ!!」と辺見に怒鳴り、誰よりも梶の心情を心配した。
そして恨まず、受け止め、許して、死んだ。
真鍋も神様みてぇだな。

辺見豪

八嶋さんのパンフレットインタビューで「好きな子にしつこくしちゃって逆に嫌われる」的なことが書いてて「いやそれーーーーーーー!!!!!!」ってなりました(?)
いや、あの、うん、本当に、正しくそうなの(?)
好きが歪んでる人。あれ、過干渉タイプの毒親とか、メンヘラDV彼氏みたいって思った。
「なんで分かってくれないの?」「お前のためなのに」「俺の言うこと聞いてれば間違いないから」「すべてお前のことを思ってるんだ」「むしろ被害者、可哀想なのは俺だよ?こんなに思ってるのに分かってくれないんだもん。」
想像のセリフなのになにこれ言ってそう、気持ち悪っ()
きっと辺見さん自体は悪い人じゃない(いや悪くはあるんだけど)気がするし、何より1番親近感が湧いたのよ。
あの空間で1番まともな人間らしい人間だったのが、辺見豪という男だった気がする。
やり方は姑息だし、褒められたもんじゃないけど、場所とか場面とか変えて考えてみよう。
例えば可愛がってる会社の後輩とか、部下とかがいて、決してホワイトでは無いにしろ、人間関係も悪くない、給料も悪くないむしろいい、そんな会社なのに、自分の更に上の部長とかから「梶くん、自分で起業してみようって考えてるんだってねぇ。知ってたか?辺見。」って言われてみ?
死ぬ気で止めるよな。あたしなら止めるだろうし、なんでそう思ったか聞く、とことん話し合う、後悔しないのかとか。
でも、辺見はそこを話聞かないで頭ごなしにやめとけとしか言わなかったから余計に心を離れさせちゃったんだろうね。
この人も変に不器用だよ。不器用しかいねぇのかパラダイスの男は(?)
それに、付き人にまでして、その後も自分の手元である程度好きなようにさせてあげて、他人を利用するのに躊躇いがない男が、自分が1番可愛い事に変わりはしないけど、梶だったら反抗した事も、自分に今刃を向けてることも許容してしまう程度には《特別》だったと思うと、この人も報われねぇなと切なくなってくる。
「だってこいつすげぇ頑張ってたから!」この言葉に嘘はないんだろう。
だからこそ、自分が信じた、賭けてみた梶の「頑張り」とか「愚直さ」を、梶から「もう終わらせたい」と言われた時、裏切られたとか、捨てられたとか、長い年月賭けて目をかけて、期待していた分、そう思ってしまったのではないだろうか。
それが「その覚悟を持って!!!俺と一緒にここまでやってきたんだよなァ゛!!!!そういう認識でいいんだよなァ゛!!!!」このセリフに繋がるんだろう。
俺は少なくともそう思っていたけど違うのか?お前の心はたかが猫、たかが家族のために揺れ動く脆さだったのか?お前はなんもかんも捨ててでも、上にあがりたいそう信じていたから手助けをしたんだぞ!俺にわかるように説明してみろよ!!!!そういう風に聞こえてくる。
それでも皮肉なのが、ここで浩一は何も返さないこと。むしろ返せないのかもしれない。そこまで自分を買ってくれていたこととか、情けなさとか、この言葉に流されてしまいたいとか、本当にぐちゃぐちゃで。
加えて、真鍋には自分が不愉快だったことに対してキレる(ボウリング玉のとき)のに対して、浩一には、浩一がとった行動や、思考が、今後及ぼす影響とか、裏の世界で生きていく浩一に本当に弊害が生じる可能性がある場面でしか声を荒らげない。(例:若林を殴る、偽善者のように今更引き返そうとすること)
本当なら独立を示唆した時点で、おめぇどういう腹積もりだ?って詰めたっていいはずなのに、さも「そういう気持ちになるのは当たり前だ」と認め、テッペン取りてぇもんな?とその意欲を買ってすらいるのだ。
そして、どこか真鍋より自分の方が、浩一の中で必要とされているはずという自信があったんだろう。
だから、真鍋の死にかけにゲラゲラ笑ったし、この惨状を見て意気消沈してまた自分の所へ帰ってくればいい。慢心にも近い自信が。
それが可哀想にフラれちゃってあの結末か。
でも、皮肉にも、期待って信じてないとできないことだと思うんだ、辺見さん。
信じてないとか言ったくせに、結局は1番信じてたんじゃん。自分で自分の首、あんたも絞めたんだよ。
でも、あたしとしては、1番憎めない人でした。
メンヘラ仲間になろうよ辺見さん!(指詰められろ)

望月道子

あの、なんていうか、いい子なんだけど損する子って世の中にいるでしょ?
その代表みたいな感じ。
あたしの身内というか、友達にも沢山居た。
いい子で、男女問わず慕われて、毎日ひたむきで、なのに損ばっか被って痛々しくて、でも必死に笑って生きてる。
あんなに必死に生きてる道子が何かにハマって借金するとも思えないので、あたしの友達よろしく彼氏の借金背負わされたまま蒸発されたとか、親の借金背負わされたとか、そんな気がする。
それでも、このひたむきさに救われる人って絶対いるんじゃないかな。
犯罪に手を染めたことを、抱えて彼女がこの先生きていけるかは甚だ謎だけど。

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