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醜い人

この反ルッキズム、多様性の時代に、なんとひどいタイトルだろうか。
しかしそのものスバリ、職場にいる醜い男性のはなし。
彼は背が低く訛りがきつく、目はトロンとしていて、小太り。歯並びの悪い口はいつも締まりなく開いている。年の頃は30代後半といったところか。しかし、20代から50代のどれと言われても「ふぅん」と思う。服は常に生乾きの匂いがして、生にんにくたっぷりのラーメンが好きなのか、しばしば強烈なニンニク臭を漂わせている。花粉症なのか、しばしば強烈なクシャミをする。そのくせマスクは決して身に付けない。動きは愚鈍で、やらなくてはいけないことは忘れるくせに、今やらなくて良いことを勝手に押し付けてくる。空気が読めない。敬語も使えない。

今日も仕事ができる先輩社員に彼が尋ねる。「え、じゃあこれはどこに置いて置けばいい?」社員が答える。「あそこの棚に」そうして彼はまるで見当違いのところにその小包を置き、慌てて社員が「違う違う。」と止めに入り、続けて「いや、まずその仕事、どうせあとであなたがするんだから、自分が分かるところに置けば良いんじゃない?」彼は、しばしポカンとして、まぁいつもポカンとした顔だから、頭の中でぐるぐる思考が回転していたのかもしれないのだけど、しばらくあって「あ、そっか」と言って、ポンっとその小包を脇に置いた。そして私が帰る間際、「あの小包知らない!?どっかにやっちゃった!」と一人騒いでいた。きっと脇に置いたことを忘れて、他の小包と混ぜてしまったのだろう。

全てが万事こんな調子だから、今まで生きにくかっただろうな、と思う。学校ではいじめられていたかもしれない。あまりに仕事を知らなさすぎるから、転職したばかりなのかもしれない。まぁ10年以上ここで働いて、これだけの仕事しかできないのかもしれない。比較的反抗期がなかった私だが、彼に関しては「生理的にムリ!」と自分の中の思春期の少女が騒ぐ。そのくせ、彼に冷たい態度をとってしまった後は、胸がちくりと痛くなる。でも、なんでめちゃくちゃ忙しい今その仕事を私に押しつてくるんだ!?と、自分の冷たい態度の言い訳を探す。彼とシフトがかぶるたび、一人で勝手に苦々しい気持ちになる。

他の人はどう接しているんだろう?と思ったら、彼が彼のテンポで訳のわからない仕事を押し付けてきた時、ある人は小さくため息をついたのち「ありがとう!」と言った。なるほど、自分の忌々しい気持ちを払いのける感謝の言葉。

その翌日、彼の隣で仕事していると、彼が突然私に話しかけてきた。訛りがきつく聞き取れず聞き返す。「コーヒー豆」「はい?」「あるね」「あぁ、本当だ」と私。大量の小包の中にコーヒー豆がまぎれてあるらしく、ふわりとコーヒーの香りがする。(彼の口臭もするけれど。)「コーヒー好きなんですか?」珍しく、私が質問を返す。「いや、別に」と彼。・・・私の中の思春期の少女がまた、ジタバタと暴れた。

悪い人ではないのだ。たぶん。一方、私は自分が悪い人になったような気がして、居心地が悪くなる。彼を前にすると。

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