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付け文(つけぶみ)のメソッド

青いエアメイル(松任谷由実)

シャンソンではなく、いきなりユーミンから始めることをお許しいただきたい。
「青いエアメイル」をご存知だろうか? アルバム「オリーブ」の収録曲で、知る人が知る名曲だ。

青いエアメイルがポストに落ちたわ
雨がしみぬうちに急いでとりに行くわ
傘をほほでおさえ待ちきれずひらくと
くせのある文字がせつなすぎて歩けない

ときおり届いたこんなしらせさえ
やがてはとだえてしまうのかしら
けれどあなたがずっと好きだわ
時の流れに負けないの

想いをはせていた男(ひと)が海外に行ってしまった。私(女性)はあなたを選らばなかったから、あなたを失った。でも、時々あなたから青色のエアメイルが届く。いつまで続くのかわからないが、私はその手紙を心待ちにしている。そんな情景を歌詞にしている。封筒の青が雨に濡れるともっと青くなってしまうと思わせる、この色彩感覚が私は大好きだ。
この歌が作られた当時(1979年)フランス郵便局の国際便速達は、青色の指定封筒だった。だから、彼はフランスにいるのではないかと想像している。今では、メールやメッセージ・アプリがあるので、フランスから速達を受け取ることも無くなった。現在の封筒は何色なのだろうか?

un bleu(青紙)という呼び名

フランソワーズ・サガンが1959年に書いた小説にも青い封筒は出て来る。
当時は、国際便と同じく速達の指定封筒は青かった。人々は、その封筒を詩的に un bleu(青紙)と呼んだ。
インテリア・コーディネーターをしている主人公のポール(女性)が恋人ロジェが不在の日曜日の朝、目覚めると入り口ドアの下の隙間に青紙を見つけ、直ぐに開いて中を読んでみる。それは、仕事先(クライアント)の息子で若くて美男子のシモンからのコンサートへの招待状だった。
「ブラームスはお好きですか?」という懐かしいハイティーン時代に聞いたような口説き文句を思い出してポールは思わず微笑んでしまうのだった。
当時、既に電話は普及していたが、敢えて速達でその日のソワレに開催されるコンサートの誘いをしている。その方がスマートでおしゃれで女心をくすぐることになるからだ。青紙は男女間の駆け引きのアイテムとして使われていたに違いない。

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