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名前から読み解くシェルブールの雨傘

嘗てフランスでは子供が生まれると、聖人の名から選んで名前(prénom)を付けることが多かった。マリー(Marie)と言えば聖母マリアだし、ポールと言えば聖パウロという風に。
日本人にはピンと来ないかもしれないが、それぞれの聖人には守るべき場所や事柄がある。例えば、日本の守護聖人は聖フランシスコ・ザビエルで、医者・薬剤師の守護聖人は聖コスマスと聖ダミアンの兄弟という風に。
今回は、名前(prénom)から映画「シェルブールの雨傘」の物語を読み解いてみたい。

ジュヌヴィエーヴ

カトリーヌ・ドヌーヴが演じたジュヌヴィエーヴは、シェルブールの傘屋の娘で、自動車整備工のギイと恋愛していた。ところが、ギイに召集令状が届きアルジェリア戦争に赴くことになり、別れの前夜、二人は初めて結ばれた。そして、ギイは戦争に行き、なかなか帰って来ない。

そのうち、ジュヌヴィエーヴは、自分が妊娠していることに気付く。でも、彼は帰って来ない。当時、未婚の女性が子供を産むことは大変な時代だった。それで、自分を思い求婚してくれた宝石商のローランと結婚することにし、パリに移住する。

長々と説明したが、ジュヌヴィエーヴというのは、パリの守護聖人の名前なので、フランス人にとっては彼女がやがてパリに行くのだなということが薄々わかる仕組みとなっている。

マドレーヌ

脚を負傷し除隊となったギイは、シェルブールに帰ってくる。ところが、傘屋は持ち主が代わっていた。戦争中、病気の伯母・エリーズの世話を幼馴染のマドレーヌに看てもらっており、二人のもとに戻るのだった。
そこで、ジュヌヴィエーヴが結婚して故郷を離れたことを知ったギイは、自暴自棄になり、復職した自動車整備工場では些細なトラブルから退職し、酒に溺れ、知り合った娼婦の家に泊まることになった。
翌朝、帰ってみると、伯母が亡くなったことを告げる涙ながらのマドレーヌがいた。世話する相手を失ったマドレーヌは家を出て行くと言うが、目が覚めたギイは彼女を引き留め、自分と一緒にいて欲しいと懇願する。
彼は、心をあらため、マドレーヌを妻に迎え、伯母の遺産でガソリンスタンドを建て、新しい生活を始めるのだった。

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