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桜回線 # 毎週ショートショートnote

半世紀前の映画、もう何度見たことだろう。
白黒の映画。このヒロインにどうしても会いたい···。

この賃貸物件にはネット回線だけでなく桜回線が通っていた。桜の咲く季節に、一生に一度だけネット上の映像作品の登場人物と心を通じ合わせられるという。

数年後、やはり僕は同じ映画を観ていた。
ふいに画面の向こうから声が聞こえてきた。
嘘だろ !?··· 

「ずっとあなたに会いたかった。あなただけは映像の中の私の姿を忘れずに見続けてくれたから」
「僕は君が大好きなんだ。会ってみたいんです」
「私もよ。でもね、私の生きてる世界は白黒の世界。色のある世界に行くと消えてしまうの」

「それでもいい。最後に見せたいものがあるんです 」

画面から飛び出してきた彼女は美しかった。
目の前に桜並木が広がる。

満開の夜桜の下で僕たちはキスをした。
次第に消えていく彼女は花びらになって僕の手のひらに落ちた。さよなら、ありがとう。

満開の桜が花開いた夜、僕の恋は終わった。

(410字)


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企画参加です。お題、相変わらず難しい···。


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