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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー14


帰ろうとするから 

ここに居なさい

ひどい吹雪だから あしたになったら止むから

ここに居なさい

そう言って エゾシカに

ハマナスと 名を付けて

一緒に 小上がりで 抱きしめて寝たのさ

目覚めると

ハマナスがいない 岬止まりまで

行ってみたが 姿がみえない 雪は止んでいた

それもそうだ 

ハマナスが咲くには まだ早い


リリー いや百合

きっと おまえは ハマナスの 生まれ変わりだ

俺は そう思っているのさ

あしたになったら

また 居なくなるんじゃないかって


そんな 健さん

わたし 料理見習いだから

また あしたも

行っていいですね 行きますから

教えてくださいね


百合は 初めて恋をした

こころが 燃える 熱い恋をした

決して 口に出すことのない

これが初恋

胸の中に ずっと仕舞い込み

取り出すことのない

それが初恋

子供に戻りたくて 大人になってゆく

自分が 恐かった

花になれない 浜茄子の花に


ありがとうございます

おやすみなさい

寮に着くと 車はくるりと回り

オホーツクの海に 灯りを投げる

千切れる程 手を振り

灯りを 追っていた

うとうととして 目が覚めた

朝日を浴びて 渚の道を歩いた

何処までも果てしない

美しい オホーツクの海


<続く>


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