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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー13


それから地元の漁師が

三人できて 漁の話で盛り上がり

帰って行った

北の夜更けは早い

すぐに日暮れて あっという間に過ぎてゆく

楽しい一日だった

百合は 目を細めて 夜空をみた

きらきらきらと 星は

手の届くように かがやき

生きる強さを 知った

でもなぜ こんな所に 父は生まれ変わり

暮らしているの 夢じゃない


海鳴り 渚通り

帰り道である

女子寮まで 健は 送ってくれる

健さん 親しみをこめて

呼ぶように なっていた

ふるさとは 小豆島?

恐る恐る 百合は尋ねてみた

ああそうだ どうかしたの

小豆島は 父の漁場で

言いかけて 百合は 言葉を失くした


ひと呼吸おいて

妙にあかるく 

健さん わたしのこと どう思ってますか

変な子だなぁ

そんな風に思ってないでしょうね

百合は 思い切って聞いてみる

そうだね

5年前のちょうど今頃かな

季節はずれの春の吹雪の日だった

店の戸を とんとんとん

とんとんとんと 叩く音がしたんだ

急いで外に出ると

誰もいない

風のいたずらか そう思っていると

こんこんこん こんこんこん

また店の戸を叩く音がする

出てみると 

可愛い子供のエゾシカが

じっと俺の目をみつめているのさ

<続く>


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