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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー4


泳ぎの達人だったけ

あん人が 海で 死ぬはずがなか

いつも話してた

オホーツクの海で 

スケソウをとる夢を

クリオネと遊ぶ夢を

きっと叶えて 生きているさ

漁師の仲間達は けして

悲しみを 受け入れようとしない

美智子も

ずっとずっと 信じていたかった


大阪や兵庫や和歌山から

県立淡路高校を志願し

優秀な生徒が 集まってくる

調理師コースや

パティシエコースは 大人気である

百合は 調理師コースで学んでいた

卒業すると

調理師免許が貰える

卒業まで あと一ヶ月


卒業おめでとう

卒業賞書と調理師免許を

胸に抱いて 旅立ちの時がきた

就職係の加藤先生は

しきりに 大阪の老舗ホテルを紹介するが

「修行の旅に出たいので」

いつも百合の答えは 同じだった

父の夢 父の魂が

浮遊する オホーツクの海を

眺めながら 料理の修行をしようと

百合は 心に決めていた


南淡連の

法被《はっぴ》に菅|すげ

足袋《たび》に半ズボンに晒|さら

提灯に 印ろう

阿波踊りの道具一式

そして一歳の時に

父と母と写った写真を一枚

スーツケースに納めて

夢にみた女満別空港へ

飛び立つ

きらきらとかがやき 希望に満ちた

百合十八才の春だった

<続く>

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