デジタル時代に対応した 日本的ファッションニューリテール戦略の未来 ―カスタマーファーストを実現するOMOビジネスモデルの一考察―

みなさまこんにちは。

本日は、デジタル時代に対応した日本的ファッションニューリテールの未来
―カスタマーファーストを実現するOMOビジネスモデルの一考察―というテーマで発表させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、今回の研究に至った背景と目的を話させていただいた後に、先行研究および先行研究から得た私なりの知見を述べさせていただきます。

(本投稿は、2020年9月12日に開催された、日本ダイレクトマーケティング学会第19回全国研究発表会で発表した内容です)

◆研究の背景

さて、経済産業省の調べでは、2018年の国内Eコマース率は約6.2%でした。今後もEC市場が年率9%で拡大を続けると想定し、小売販売額総額は横ばいにとどまると仮定した場合、2030年のEコマース販売額は50兆円に達し、EC化率は約17%、2割弱に達すると予測されています。

EC化率

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一方で、2018年の衣類・服飾雑貨等のEC化率は 12.96%と平均の6.2%より高いので、2030年には3割を超える可能性が大きいと予測することができます。

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つまり、10年後には、ネットとリアルは完全に融合し対立概念ではなくなり、ネットとリアルを行き来する消費行動が当たり前になることが予測されます。つまり、オンラインとオフラインを組合せて、いかにユーザーエクスペリエンスを高めるかが、ファッションビジネスや小売りの成功の鍵になるといえるわけです。

研究の背景

実際、消費の先進国である中国では、アリババグループの創業者であるジャック・マー氏が「ニューリテール」という概念を提唱しています。

「ニューリテール」とは、簡単に言えば、テクノロジーとデータを駆使し、オフラインとオンラインが融合したリテールビジネスによって、より優れた顧客体験を届けることです。

同時に小売事業者のビジネス課題も解決するともいわれています。簡単に言えばオフラインとオンラインを融合し、相乗効果を高めるOMO(Online Merges with Offline)のビジネスモデルであります。

研究の背景2

中国ではすでにスマートフォンのアプリやウェブとオフラインを連動させるマーケティングが盛んに行われていますが、日本においても、先ほども申し上げましたようにオフラインとオンラインを組み合わせていかにユーザー体験を高めるかが、ファッションビジネスや小売りの成功の鍵となっていくことが考えられるわけです。


◆研究目的

ところで、日本国内においては、複数の販売チャネルを活用する「マルチチャネル」販売の進化形として、リアル(実店舗)とネット(インターネット通販)の境界を融解する「オムニチャネル」という概念が先行してきましたが、オムニチャネルという考え方は、あくまでも売り手発想の域から抜け切れておらず、現在では形骸化しつつあるように感じます。

今後の成功の鍵を握るのは、アマゾンの大躍進からも学べるように「カスタマーファースト思考」であり、カスタマーファーストに基づいたカスタマーエクスペリエンスの最大化であると私は考えています。

特に今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、ファッションビジネスへの大きな打撃を与え、各社はパラダイムシフトを急がなければ生き残れない状況になっています。つまり、今まさにコロナ後の新消費秩序に対応できるビジネスモデルが模索されているわけです。

そこで本研究では、日本のファッションニューリテール戦略を牽引する企業の事例研究を通して、日本的ファッションニューリテール戦略の未来について考察していきたいと思います。

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◆先行研究

さて、ユニクロブランドで知られるファーストリテイリング社は、今やアパレル製造小売売上世界第3位、同時価総額世界第2位と、世界を代表するアパレル製造小売業に成長してきました。

ユニクロ世界

ユニクロ世界2

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今回の先行研究では、ファーストリテイリング社の戦略を分析することで、日本的ファッションニューリテール戦略の未来を考察してまいります。

創業者の柳井正会長兼社長は、デジタル・トランスフォーメーションの推進をまさに自らの「CEOアジェンダ」と定め、その実践をリードしています。目指しているのは、ユニクロを「製造小売業」から「情報製造小売業」に大変革することです。


① ビジネスモデル

ユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリング社は、企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一貫して行うビジネスモデルで、他社には真似のできない独自商品を次々と開発しています。

ユニクロモデル

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合繊メーカーとの協業で開発したヒートテックやエアリズムなど画期的な素材や、高品質な天然素材を使用したベーシックなデザインのブランドとして、現在も世界中でシェアを拡大しています。

また、ユニクロはLifeWearというコンセプトに基づき、世界中のあらゆる人々の日常を快適にする究極の普段着をつくり続けています。

昨今はデジタル化が進んだ現代社会のなかで、顧客とダイレクトにつながり、顧客の要望をすぐにカタチにするビジネスモデルへと進化しています。その結果、売上高で世界第3位のアパレル製造小売業に成長。時価総額ではH&M社を抜いて世界第2位へと躍進しています。

② 「情報製造小売業」への転換

同社が現在目指しているのは、「情報製造小売業」への変革です。具体的にはお客様がほしいと思う商品をすぐに商品化できる、情報を中心とした新しいサプライチェーンへの大変革です。

ユニクロ情報小売業

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2017年2月には、有明倉庫の6階へユニクロの本部を移転し、本格的に有明プロジェクトを始動。「無駄なものをつくらない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」ことを目的に、企画・計画・生産・物流・販売といったサプライチェーンのすべてのプロセスの変革に取り組んでいます。

さらに、リアル(店舗)とバーチャル(Eコマース)の融合が、“情報製造小売業”の実現とサプライチェーンの仕組みを変革していくうえで欠かせないものと考えています。

③ 顧客満足を高めるビッグデータ活用

2018年夏からは、有明プロジェクトのひとつとして、Googleとの共同プロジェクトをスタートしています。世界中から集めたビッグデータや膨大な画像分析によって、ファッションで流行する色やシルエットをいち早く分析。同時に同社は、ユニクロとジーユーがすでに持っている膨大な情報も有効活用することで、顧客がほしいと思う商品の企画や、精度の高い数値計画を効率的に行うことにも取り組んでいます。さらに、ユニクロのコア商品をより良いものに変えていく「UNIQLO UPDATE」という取り組みでは、顧客から寄せられた膨大な意見を分析し、商品の細部に至るまで細かい改良を加えることでより快適なLifeWearへの進化につなげています。さらに今後は、人工知能(AI)やアルゴリズムなどの新しい技術を駆使することで、有明プロジェクトを加速させていく計画です。

ユニクロスタイルヒント

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④ ニューリテールを推進する物流改革

一方で、日本を代表する物流機器メーカーのダイフク社との協業により、プロジェクト始動から2年で最新の自動化機器・システムを有明倉庫に導入しました。

ユニクロ物流

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有明倉庫はユニクロのEコマース専用の自動化倉庫として、2018年秋からフル稼動。すべての商品にICタグ(RFID)を導入しているため、有明倉庫での商品の搬入、仕分け、ピッキング、検品などの作業プロセスはほぼ無人で遂行しています。

24時間稼動のため、繁忙期の人手不足による配送遅延という問題も解決しています。今後は、ユニクロ店舗への商品配送でも、自動化倉庫を活用することで、効率化アップを図る計画です。


⑤ Eコマースを成長させ新しいビジネスの形を創造

また同社は、ユニクロ事業だけではなく、ジーユー事業など、グループすべてのEコマースを拡大していくために2019年秋、Eコマース事業すべてを、グローバル・グループ一丸となって活動できる組織に一新しています。

ユニクロEC

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将来的には、グループでEコマースの売上比率を30%まで引き上げていくという目標を掲げています。2019年8月期実績では、グループでのEコマース比率は11.6%、売上収益は2,583億円。Eコマースの利益率も店舗と同水準と、継続的な成長をめざすことのできる事業基盤が整いつつあります。

ユニクロ事業では、日本のEコマース比率が約10%、米国では約25%の比率となり、グレーターチャイナと欧州では約20%の比率に達しています。

⑥ 店舗はよりリッチな体験をする場へ

同社は今年4月には「公園」をテーマにした「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」「ジーユー UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」を。

6月には情報製造小売業への変革を目指すユニクロのリアルとバーチャルを融合させた最新型の店舗「ユニクロ 原宿店」と未来のユニクロの魅力が詰まった情報発信店舗「「UNIQLO TOKYO」をオープンしています。

ユニクロ店舗

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ただ商品を販売する場から「よりリッチな体験を提供する場」へ。店舗はオンライではできないブランド体験の提供の場へ。リアルとバーチャルの融合は着々と進められています。

⑦ 今後は、OMO(Online Merges with Offline)を目指す

同社が今目指しているのはEコマースと店舗の融合を図ったOMOの取り組みです。

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2018年度から「ユニクロ店舗受取り」、「コンビニエンスストア受取り」のサービスを開始し、すでに、これらのサービスを利用する顧客は、件数ベースで約30%を占めています。

また、大型店でしか買えなかったコラボ商品も、Eコマースで手軽に買うことが可能です。

さらに、顧客の検索回数、購入履歴などをベースにAI (人工知能)が分析し、一人ひとりの顧客興味にフィットした商品を的確に情報発信しています。

一方でユニクロとジーユーで導入した「着こなし発見アプリStyleHint」が好評を得ています。StyleHintは、世界中の着こなしをチェックできたり、画像検索で着こなしのアイデアを探せるアプリで、画像解析技術によって、StyleHint 上で顧客がほしいと思った商品に似たデザインのユニクロやジーユーの商品を選び出し、顧客に提案しています。その結果、StyleHint 上で得た情報をもとに、Eコマースや店舗で購入する顧客も増えています。

有明プロジェクトでは、Eコマースと店舗の相乗効果を高める変革を部署横断で推進しています。例えば、Eコマースの効率アップのためのプラットフォームの再構築、Eコマースで購入した顧客にすぐに商品を届ける物流改革、Eコマースと店舗の在庫一元化による欠品防止への取り組み、売れ筋商品を短期間で追加生産する仕組みづくりなどです。

以上みてきたように、ファーストリテイリング社はEコマースと店舗を融合させた、世界で最も先進的な小売業を目指しています。

◆日本的ファッションニューリテール戦略を実現する7原則

世界を代表するファーストリテイリング社の戦略を分析することで、低迷する日本のファッション産業がニューリテール戦略を実現していく上で重要となる7つの原則が見えてきましたので、まとめとしてご紹介させていただきます。ニューノーマル時代を生き抜くためのヒントになれば幸いです。

7原則

①ファッション産業は「人々の生活や心を豊かにするもの」という原点回帰

まず1番目は、ファッション産業は「人々の生活や心を豊かにするもの」という原点へ回帰しなければいけない、ということです。

ユニクロはLifeWear(究極の普段着)というコンセプトを掲げて、服をつくり続けています。

LifeWearとは、世界中のあらゆる人々の生活を豊かにする、生活ニーズから考え抜かれたシンプルで上質な服です。そうしたLifeWearの価値観は、ここ数年の間に世界中で支持され、その輪が広がり続けた結果、世界第3位のアパレル製造小売り企業に躍進できたといえます。このように、ニューノーマル時代に生き残っていくためには、生活者の豊かで幸せな体験を提供していくことが重要です。

②顧客ファーストを起点にしたビジネスモデル変革、デジタルシフトの推進

2番目は、「顧客ファーストを起点にしたビジネスモデル変革、つまりデジタルシフトの推進です。

ファーストリテイリング社は、2017年2月、有明倉庫の6階へユニクロの本部を移転し、本格的に有明プロジェクトを始動しました。

「無駄なものをつくらない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」という徹底した顧客志向のもと、例えば、Googleとビッグデータや膨大な数の画像分析によるトレンド予測に取り組むなど、企画・計画・生産・物流・販売といったサプライチェーンのすべてのプロセスのデジタルシフトを加速させています。このようにデジタルトランスフォーメーションの推進は企業の成長ためのキーワードとなります。

③顧客ファーストを起点にしたビジネスモデル変革、つまりデジタルシフトの推進

そして3つ目は、「顧客ファーストを起点にしたビジネスモデル変革、つまりデジタルシフトの推進」です。

ユニクロはLifeWearというコンセプトに基づき、世界中のあらゆる人々の日常を快適にする究極の普段着をつくり続けています。

今後はコアコンセプトを軸に、デジタル技術を活用し、顧客とダイレクトにつながり、顧客の要望をすぐにカタチにするビジネスモデルへと進化しています。そして世界中の1人1人にジャストフィットする“個客”対応を通して、顧客との生涯にわたる絆づくりを実現していくことを目指しています。特に人口減少が進む日本国内においては、このような顧客との生涯にわたる絆づくりは、ますます重要なテーマになっていきます。

④顧客の生活スタイル変革へのスピーディーな対応

4つ目は、顧客の生活スタイル変革へのスピーディーな対応です。今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって消費者の生活行動が大きく変化しています。スピーディーな変化対応こそが、企業の命を救います。ユニクロは、ここ最近のアウトドア志向の高まりを背景に、「スポーツウエアとカジュアルウエアの融合」をコンセプトにした「アスレジャー」ファッションを積極的に展開してきました。

また、新型コロナウイルス感染防止のため、防御性能、洗濯可能、つけ心地という3つの機能を兼ね備えたエアリズムマスクを開発するなど顧客の生活スタイルの変化に敏感に対応しています。ウイズコロナ時代の新たな生活様式に迅速に対応することは、ニューノーマル時代のビジネスの基本となりました。

⑤循環型社会(サスティナブル社会)への対応

5番目は、循環型社会(サスティナブル社会)への対応です。

ユニクロが目指すLifeWearは、サステナブル(持続可能)な社会への貢献につながるものを目指しています。ユニクロやジーユーの服は、「使い捨ての服」ではなく、長く着ることのできる品質の高さと優れた機能性をもつ日常着であり、シンプルで細部への工夫に満ちた、進化し続ける普段着であるとも言えます。

年間13億点の服を製造・販売する同社は近年、縫製工場や素材工場での環境保全、工場で働く人の労働環境や人権、地域社会への影響などについての配慮を強化するなど、持続可能な社会への貢献を強めています。今や、サスティナブル社会の実現は、ファッションビジネス界のみならず、すべての産業において避けることのできない課題です。

⑥ジョブ型雇用の推進と自律型人材の育成

そして6つ目の原則は、「ジョブ型雇用の推進と自律型人材の育成」です。
ニューノーマル時代は働き方も大きく変わっていかなければなりません。ファーストリテイリング社の有明プロジェクトでは、小チーム制のフラットな組織による「即断・即決・即実行」で仕事が実践されるようになり、大きな成果が出始めています。

また、店舗のアルバイトからトップ経営者まで、すべての社員が経営者マインドを持ち、自らが考えて、お客様に最高の商品、サービスを提供する「全員経営」を実践しています。これまでの常識が通用しないニューノーマル時代は、自律型人材の育成が、企業の価値創造の原点となります。

⑦OMO (Online Merges with Offline)の推進

そして最後の7番目は、「OMO (Online Merges with Offline)の推進」です。ファーストリテイリング社は、2018年度から「ユニクロ店舗受取り」、「コンビニエンスストア受取り」のサービスを開始。利用者は、今では約30%を超えています。ユニクロ店舗で商品を受け取れば、すぐその場で試着することも可能です。また、今まで大型店でしか買えなかったコラボ商品も、Eコマースで手軽に買うことができます。

このように、ファーストリテイリング社は、店舗で買っても、Eコマースで買っても、便利に楽しく買い物が楽しめるOMOをさらに普及させて、世界で最も先進的な情報製造小売業の実現を目指しています。このようにOMO (Online Merges with Offlin)eの推進は、ファッション産業のみならず、日本の全産業が今後目指していくべき方向になると思います。

その実現のためには、同社が取り組んでいるような、Eコマース効率アップのためのプラットフォームの再構築、Eコマースで購入した顧客にすぐに商品を届ける物流改革、Eコマースと店舗の在庫一元化による欠品防止への取り組み、売れ筋商品を短期間で追加生産する仕組みづくりなどが重要な戦略となります。

以上、世界を代表するアパレル製造小売業、ファーストリテイリング社の戦略分析から、日本的ファッションニューリテール戦略の未来を考察してまいりました。

今後の日本のダイレクトマーケティングも、従来の通信販売の概念を超えて、オフラインとオンラインの融合を通しての、顧客価値の最大化に向かっていかなければいけません。


以上で、発表を終わらせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。


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