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小説「灰色ポイズン」その3

結局、教会に行くには行ったけどいつもより早めに帰ってきた。
そこら辺の洋菓子店のクッキーに負けないくらいにおいしいガレットをお土産に2枚もらったけどイエスさまのお話の紙芝居を観る間は他の子ども達と一緒にクッキー入れの缶から一枚もらって食べた。
それで少し早めに帰ってきたけど母さんは、眠り続けていた。兄さんのメモには母さんは夕方迄起きないと書いてあった。
時計に目をやると4時をまわっていた。午後4時って夕方なのだろうか?子どもの国語辞典で調べた。
夕方とは15時から18時を指す天気予報の用語である。午後4時は16時のことだから、夕方だ。15時から18時までが夕方ってことだから午後3時から午後6時までは夕方
あと2時間は夕方ってことなんだから、母さんはそのうちに目が覚めるでしょう。

それにしても今日の教会のおやつはおいしかったな
バニラがちょっとだけ効き過ぎてたけどね。きっとまたシスターアグネスの手がすべったか敵数を数え間違ったに違いない。

シスターアグネスは私が母さん用にお菓子を持って帰るのに気づいていた。それで広告のチラシで作った小袋に教会で他の子ども達と食べるのとは別にいつも余計にお菓子をくれるのだ。
愛にあふれたやさしい人。イタリア人なのに日本に暮らしが長くなったためか顔は存在感のある高い鼻以外は雰囲気といい表情といい日本人のようだ。
今日のお土産ビッケは滅多に出ないバターたっぷりのいい匂いの大きめのガレット2枚。
ラッキー!

わたしが家に戻っても母さんは相変わらず寝息を立てて眠ったままだった。変わったことといえばイビキに近い大きな寝息は消えていた。
わたしは何となく母さんがもうすぐ目が覚めるのを知っていた。目が覚めたらサンドイッチを食べられるだろうか。それともおかゆみたいな胃に優しく消化しやすい柔らかい食べ物が必要だろうか?とりあえずインスタントのコーンスープとマグカップを用意した。お湯はまだポットの中にある。
お湯の温度がぬるいと思うけどきっと猫舌の母さんにはちょうど良い。

そういえば、兄さんはいつ来て、いつ出て行ったのだろう...?いっぱい話したいことがあったのに。寮を出てからどこで暮らしているのか、高校にはまだ行けてるのか。メモに書かれていた電話番号はペイジのものだった。今は便利なものがあるものだと思った。
兄さんが寮にいる時は誰かが電話を取ってはくれるけど3回に1回くらいしか兄さんはわたしの電話に出ることはなかったもの。

ペイジって便利だ。兄さんに連絡したければペイジの電話番号に電話をかける。すると兄さんが電話をかけてきてくれる。

母さんが目を覚ましたら「何かあったことになるんだろうか?」置き手紙のメモには『何かあれば連絡しなさい』って書いてあった。母さんの目が覚めるって何かあったってことだと思う。思いたい。っていうか兄さんの声が聞きたいのだ。

教会でお土産にもらったガレットはまだ食べずにいる。
母さんが目覚めたら紅茶でも入れて一緒に食べようか。
それともお先に食べてしまおうか?匂いって罪だ。
バターたっぷりのガレットの匂いは食べてと言わんばかりに辺りにふんわりと広がってくる。

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