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思いがけず「悟り」を一瞬だけ味わったかもしれないお話。

GWの初日、長男の保育園時代の同級生メンバーで、家族ぐるみで登山をする予定だった。

久しぶりに保育園時代の友達に会えるチャンス!
息子はてるてる坊主を窓辺に2つぶら下げて祈りに祈った。

しかし、無情にも天はその願いを聞き入れなかった。

朝、目を覚ますと外は大雨。

がっかりしている息子を助けるべく、お母ちゃんは考えました・・・。

「そうだ!どうせ雨なんだから、タオくんの家に泊まりで遊びに行こう!」

タオくんとは、息子が0歳から6歳まで保育園で寝食を共にした同級生。

数年前から家族で田舎に移住し、大工であるお父さんのトラさんが改造した古民家に暮らしている。

薪ストーブのあるいい感じの台所で、お母さんのレミちゃんはご機嫌で美味しい料理を振る舞ってくれる。

息子は久々に保育園時代の友人に会えるとわかると、どん底からの大逆転に飛び上がって喜んだ!!

まるで登山の中止がむしろラッキーな出来事だったかのように。

「家族で泊まりに行くね。」

そうLINEでメッセージを送ると、私達一家は片道1時間ほどの田舎へ車を走らせた。

外は土砂降りの大雨だけど、私達の気持ちははルンルンそのもの。

道すがらスーパーでワイン、ビール、おつまみ、簡単アヒージョの素、エビ、マッシュルーム、チョコ柿ピー・・・などなど買い込み気分はさらに絶好調。

そして自然に囲まれた古民家が、静かに温かく私達の到着を歓迎してくれた。

ゲームに興じる子供達の傍で、大人達はさっそく昼間から飲んで、食べて、実現したい未来について語りあった。

大工のトラさんは元プロカメラマンで旅人、妻のレミちゃんも料理上手な旅バックパッカー。

そんな2人が出会ったのは、八ヶ岳の山小屋だった。

山小屋に来る登山客のお世話を一緒にする中で、互いに惹かれあって自然と結ばれたとのこと。

そんな2人がこの自宅の古民家で民泊を始めると言う。

かつての自分たちのような旅人を世界中から受け入れ、一緒に畑をいじったり、ドーナツを作ったり、きっと時には悩める若者の話を聞いてやるのだろう。

聞いているだけで、友人である私と夫まで勝手にワクワクしていた。

まだ何も始まってさえいないのに、あれこれ思いを巡らせて想像を膨らませて4人で大いに盛り上がった。

そんな昼間から始まった宴は夜まで続き、子供達が眠くなったところで終了。

広い和室にキャンプ用の寝具を準備して、カエルの大合唱の中で私達はぐっすりと眠りについた。

翌朝、ニワトリのけたたましい鳴き声で目が覚めた。

朝?いや外は真っ暗。時間は朝の3時だ。

私達一家は一瞬でまた2度寝をし、朝日が登る時間になって目を覚ました。

起きるとレミちゃんが土鍋で筍ご飯を炊きながらお味噌汁を作ってくれていた。

「私、今から髪の毛を切りに町まで出て行くの。好きなだけ家にいていいからね。」

そう言うと車に乗り込んで出て行ってしまった。

寝ぼけ眼の私達一家とトラさんは、筍ご飯をおにぎりにして、お味噌汁と一緒に味わった。

子供達は朝ごはんを食べ終わると、元気いっぱいに遊び始める。

その一方で残された大人3人はコーピーを飲み、まったりとした時間を過ごしていた。

外は昨日の大雨が嘘のような快晴。
お日様が眩しく、山の緑が良い一層美しく輝いていた。

子供達はニワトリ小屋に卵を探しに行って、畑からイチゴを摘んでほおばっている。

ふと目をやると、古民家にはいい感じの裏山があった。

トラさんの家の裏山

夫は裏山に向かってズンズン分け入るように登り始め、しばらくすると「素敵な場所があるよ〜!」と声を上げて私を呼んだ。

裏山にはいい感じの階段がある

その声につられて私も裏山に登ってみると、瞑想するのに最高な静かで気持ちの良いスペースがあるではないか。

「そうだ!ここに椅子を並べて、美味しいコーヒーを飲もう!」

夫はそう言うと、キャンプ用の椅子を山の中に持ち込み、寒くないように毛布まで持ってきてくれた。

とりあえず椅子を並べてみた

私は毛布に包まって瞑想というよりウトウトしていると、夫とトラさんがコーヒーとピタサンドを持ってやってきた。

3人で並んで、森の中で静かにコーヒーを堪能。

この瞬間、ただの裏山だとばかり思っていたこの場所は、とても贅沢なプラーベートな森だと気がついた。

椅子から眺めた景色

「民泊に来てくれたゲストにも、ここでコーヒーを飲んでもらいたいね。」

夫はそう言うと、いそいそと倒木を運び始めた。
トラさんに頼まれてもいないのに、山の斜面に平らな場所を作り始めたのだ。

すると家で遊んでいた娘もやって来て、トラさんと夫と娘とで何やら楽しそうに作業をし始めた。

その声を聞きながら、また私はウトウトと眠りこけていた。

そしてその瞬間、私はとてつもなく幸せな感覚を覚えた。

完全に眠っていないのだが、限りなく眠っているのに近い状態。
心地よい愛する人たちの楽しそうな声に包まれ、この上なく気持ちが良いい。

「今、この瞬間に死んだら、最高に幸せ!」

そう思った瞬間、私は眠りから目が覚めた。

「うわ〜気持ちよかった。なんだこの感覚は!?」

私が夫にこの不思議な経験を話すと、

「事故物件になったら民泊できなくなるから死なないでね」

と笑いながら釘を刺された。

きっと前の日からずっと幸せな気持ちが続いていて、自然の中に包まれて大好きな人たちの幸せそうな笑い声聞いたことで偶然到達した心の境地だったのだろう。

これがもしかして「悟り」なのでは?

その昔、普通の人には見えない物が見えるバリ人の友達が言っていた。

「誰もが悟りの味を知っているよ。ただ、味わい続けることができないだけ。でもそれでいいんだよ。」

ああ、幸せ。今この瞬間に死んでも悔いなどない。

そういう気持ちは、思いがけず突然やってくるのだなぁと私は感慨深かった。

ひょっとしたら私は一瞬だけ悟ってしまったのかもしれない。

この甘美な味を忘れないために、私はここに記録を残そう。そして、繰り返し思い出してなんども噛み締めて味わおうと思う。

トラさん、レミちゃん一家のお話はこちらの記事でも紹介しています。

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