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きんし丼でパワーチャージ。 〜うなぎに対する考察その2〜

新しい生活様式になって煩雑な準備や余計な回り道が増えて、そのせいだけでもないけど、寝食もままならぬほど仕事がタテ積みになっちゃってて困るのだ。イヤなのだ。仕事自体がイヤというより、絶えず背中を蹴りつけられるようなペースで仕事をしたくないのだ。もっとクヨクヨ迷う時間がほしいのだ。

そんな折実家のオカンから、今さら土用の丑でもないけどと言いつつ浜名湖のうなぎがクール便で届いた。やったー。一日中あちこち動き回ってお疲れ気味のカラダにうなぎをチャージするぜ。

絶滅が危惧されている生物を食べる文化ってどうなの、という議論もあるしもっともだと思うけど、それは流通やマーケティングまで含めた、日本人が全員いっぺんに何かしなきゃ気が済まない風潮にも問題があると思う。土用の丑だけじゃなく節分の恵方巻とかだって絶滅は関係ないけど大いに問題だと思うのだ。
いつも食べ物に感謝してはなるべく食品ロスを出すまいと努力して暮らしています。どうかお目こぼしを。

そういえば先日も書いたけど、土用の丑のときに我が過去記事が再び陽の目を見たようで、大勢の方に「土用の丑を広めたのは平賀源内」説は事実無根という研究結果をアピールできて嬉しかったです。うふふ。

これ、今見たらnote始めて二つ目の記事なのね。道理でたどたどしい〜。 まあ今だってスラスラ書けているわけじゃないけど。

くどいようだけど、ほんまにこの説には何の根拠もありません。大田蜀山人あたりがブームの火付け役という説もあるけど、そちらも決定的な証拠はなし。後世に何らかのきっかけで拡まったフェイクニュースなのです。

世の中に拡散しやすい情報ってこういうことなんだなとしみじみ思う。説明のまどろっこしい真相よりも、スパッと話せて「へえ〜」って思わせるフェイクの方が拡まってゆく。愚かですねえ、僕たちの社会って。

今回もうなぎを食しつつ、前回書けなかった内容にももう少し踏み込んで書いておきたいので、おヒマならご一読ください。

背開き、腹開き? 問題の真相。

うなぎ03

今回は浜名湖のうなぎを豪華にも一人前まるまる一本どーん。浜名湖養鰻組合のうなぎはタレもベッチャリついておらず、うなぎをきちんと味わえる上品な味つけ。やわらかな身は淡白な中にもうなぎ本来のコクと風味がしっかり感じられ、うなぎってやっぱり白身魚なんだなあと再確認できる。

それにしてもふわっふわ。もはや、カレーに続きうなぎも飲み物。たまらんわあー。

さて、よく言われる「江戸はもともと武家社会だから切腹を嫌いうなぎも背開き、大坂は商人文化だから腹を割って話す、という意味で腹開き」という説。この説明がキャッチーで皆「へえ〜」っていうものだからずっとはびこっているけど、うなぎ業者さん達に取材した限りではこれも全くのウソ。中国・四国地方から九州にかけてはやっぱり背開きが多いのだ。武家社会と必ずしも関係はない。

何が問題かって言うと、うなぎの肉質なのだ。

肉質の違いが調理法の違いに。

関東のうなぎは蒸した後焼くからふわふわ、関西はカリッと香ばしく焼くだけ。この作法の違いがどこから来たのかを考えると、背開き腹開きの理由もわかる。

これは大阪のうなぎ業者さんに実際にお話を聞いたからたしかだと思うんだけど、歴史的に水温の低い東日本ではうなぎが大きく育たず、小ぶりで肉質が締まっている。一方西日本のうなぎはよく育ち、肥えているという違いがあったそう。

つまり江戸のうなぎは小ぶりで皮ばっていて固い。そこで江戸時代末期に生み出された手法が一度うなぎを蒸してやわらかくするというもの。

でもそうすると、腹開きだと串から外れやすくなっちゃうのだ。

うなぎ05

わかりますか、左右に厚みがあったほうが、蒸してやわらかくなったとき縁っこがべろんと崩れるのを防げる。だから背開きなのです。

一方大阪のうなぎは大きくてやわらかいから、蒸さずに焼くだけでおいしいので、他の魚と同じ腹開きでも崩れる心配が少ない。さらに言えば脂の乗ったお腹の部位が左右に来ることによって脂が真ん中にたまらず適度に落ち、香ばしく焼き上がる。非常に合理的なのです。

この説を裏付ける要素のひとつが串の違い。関東は竹串、関西は金串ですよね。関西のような細くて摩擦の少ない金串を使っていたのでは、蒸した後にすっぽ抜けやすい。竹串にすることで崩れにくくしているのだ。蒸しありきの背開き、竹串なわけですねえ。

きょうは精をつけるために、きんし丼。

うなぎ04

滋賀県大津市と京都市の境のあたりに「かねよ」といううなぎの老舗がある。あんまり知られてないけど滋賀は琵琶湖産が豊富に獲れていた歴史もあってうなぎ文化はわりと深く根付いているのです。そこの「きんし丼」は巨大なだし巻き卵がうなぎを覆い、背徳のボリュームで惑わせる垂涎の一品。

貧乏人の我々にとっては年に一度巡り逢えれば僥倖なぐらいの憧れ。今回、妻が「かねよ」にリスペクトを表し、丹精込めて玉子焼きを焼いてくれたので嬉々としてマウントする。ありがとう。

いやあ、もう絶句。だってう巻きがおいしいでしょ。合わないわけがない。玉子とうなぎと炊きたて土鍋ごはん。黄金のトライアングルとはこのこと。なんかもうメーター振り切った。気絶しそう。

猛然とかき込み、即座にパワーチャージできたぜ。心の中でちっちゃい中山きんに君が「パワー!」と連呼している感じ。パワー。

半分ほど食べ進めたところでふいにさみしくなる。楽しいことが終わりに向かおうとしているときの、胸の奥がきゅううっとなる感覚。お盆をすぎた夏休みの気分だ。これを食べ終えたら次はいつうなぎにお目にかかることができるだろう。

ありがとう、おいしかったよ。

うなぎロスにかかるまいと身構えている自分を感じながら、慈しむように最後の一口まで、お米一粒まで全神経を集中していただきました。

いろいろ明日からも立て込んでいるけど、ニョロニョロとうなぎのようにかわしてやり過ごすぞー。


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