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「楽しい」は「おいしい」につながると再確認した、夫婦タッグラーメン。

仕事終わりに晩ごはんの相談のLINEを送ると、妻から「ラーメンじゃしんどい?」と打診が返ってきた。

そうだった、今夜あたりラーメンの予定だった。おなかがこれ以上ぽっこり出ないように、ふだん夜にあんまりガッツリ炭水化物を摂らない生活を送っているので、一応気を遣って確認してくれたのだった。

「そうか、ラーメンねー」と返信し、いそいそと生麺とモヤシとメンマを買って、夜の帳が遠慮がちに降りかかった街をバイクでカッ飛ばす。風はぬるいけど、それでも火照った身体を冷ましてくれる。

熱気のこもったヘルメットの中で考えるともなしに考えた。最近SNS界隈でお惣菜のポテサラや冷凍餃子を手抜きだと批判された、という出来事が話題を呼んでいるけど、いったい何なんやろうかあ、アレは。

個人的にはものすっごく的外れな批判だと思っているのよね。まずだいいちに女性が料理を毎日きちんと作らなければいけない、という主張がもはや旧来の陋習でしかないと思うし、それにどこまでが手作りならば手抜きじゃないというのかって話でしょ。そんなこと言ったらポテサラをマヨネーズから手作りしてないのは手抜きじゃないのか、よしんばマヨネーズから手作りしてても卵を他所から買ってきているのは手抜きじゃないのか、ってなるぞ。突き詰めると皆いずれはどこかの段階で出来合いに頼っているのだ。

だから、きょう、オレは、私は、出来合いの生麺のラーメンを買って帰る!麺から打ってないけどれっきとした自家製ラーメンを作ってやる。もちろん小麦を粉にも挽いてないし、麦畑を耕してもないぞ。けど引け目なんか感じないぞ。何もかも全部イチから作れるのは造物主たる神様だけじゃないのか。そんなことで人を責めたりするのはつまらないと思うけどなあ。

いかんいかん、暑さのせいかイライラしてしまいました。ごめんなさい。まだまだ修養が足りませんな。

手抜きだなんだと自分や誰かを責める必要なんかなくて、それよりも、家でみんなでごはんを食べるということを楽しめればいいのだ。少しぐらいの近道やチートはしてもいいのだ。それで作る人の気持ちが楽になったり楽しくなったりするなら全然アリだと思うなあ。

できることを楽しめばいいのだ。

始まりはゆで豚。

ラーメン02

そもそもの始まりは、前々日のゆで豚だった。国産の豚バラブロックで、いい感じに色っぽい脂の乗り方で100g128円ぐらいのものが売っていたので思いきって購入。白ネギの青いところと生姜スライス、ひと回しの紹興酒とともに一時間ほど水煮にしてじっくり冷ましておいた。

この半分を回鍋肉にしたらそれはそれは上手くいってほろっほろでおいしかったんだけど、写真撮って記事書く余裕がなくて、正直悔しい。今度またリベンジする。

で、残り半分をゆでたまごとともに妻がニンニク醤油的な合わせ調味料に漬け込み、密封袋に入れて一晩寝かせておいてくれたのだ。さらにはゆで汁すらもストックしておくという周到ぶり。というよりいい味が出ているはずのゆで汁を何かに活用したいというビンボくささがこのラーメン発案の基になっている。この時点で妻の背中から、ふつふつと自家製ラーメンに対する静かな情熱が立ち上っているのが肉眼で見えるかのようだった。

今日の具は、豚、モヤシ、ネギ、メンマ、味玉。

ラーメン03

モヤシはレンチンして粉末鶏がらスープの素、塩、醤油、ラー油を和えておく。コショウをふり忘れた。

ラーメン04

豚バラは妻が調合した漬け汁とともに再度加熱。味玉は火がこれ以上通っちゃうとイヤなので取り出しておいた。

ラーメン05

豚のゆで汁に煮豚の煮汁を加え、たっぷりの塩と醤油、隠し味に砂糖とオイスターソースを入れて調味し、スープに仕上げる。けっこう強気で味つけしないと麺に負けるので勇気が要る。

これは骨から出汁を取っていないからとんこつじゃないし何と呼ぶのかしらん。強いて言えば豚醤油スープである。ほんとうはスープこそラーメンの命なんて言われて、鶏がらもしくは豚骨と香味野菜を何時間煮るべしなんて話になってくるんだろうけど、今回の発想の土台がこの豚のゆで汁だったので、そこはテキトーでいいのだ。

出来合いの麺を規定時間ゆでる。

ラーメン06

さあ、ブランドも何もこだわらず目についたやつをレジカゴに放り込んだ麺をゆでる。グツグツ煮えたぎる湯の中で日輪のようにまあるく踊る中華麺。美しい。「ミッドサマー」の輪舞みたい。ピンボケだけど。

2分半でゆであがった麺をザルに空け、「天空落とし!」と詳しく知らないけど雰囲気だけ知っている言葉を叫ぶ。たぶんラーメンがおいしくなる呪文。「コピ・ルアック」みたいなもの。

さあ、あとは時間との勝負だぞ。麺が伸びる前に器に取り分け、熱々スープを注いでそれぞれの具をトッピング!

妻に「先に熱いうちに食べて! オレはまだ写真撮るからああ!」と叫ぶ。アクション映画やマンガでよくある「オレはいいから先に逃げろ!」ぐらいのテンション。

できた。俺たちのラーメン。

ラーメン01

タイトル写真ですが再掲。まあ茶色い。しかし、ことラーメン界において茶色こそは正義。これでいいのだ。

メンマももちろん出来合い。チャンスがあれば一度作ってみたいけどかなり難しいし手間もかかるらしいし、そこからがんばるのはちょっとなあ。でしょうよ。

果たして出来はどうか。肝心の味に関しては、先にすすっていた妻の一言が端的に表している。

「……うん、ラーメン!」

この声の元気と笑顔は、じゅうぶん合格点ということみたい。

すぐさま自分もすすってみる。うん! ラーメンになってる! 

ラーメン11

急いで写真撮ったからそこまで冷めても伸びてもなくてホッとする。かなり強気で味つけしたつもりのスープはそれでもお店の味に比べるとずいぶん優しめだったけど、あえて言うなら下町の大衆食堂のメニューにある中華そばに近い感じかなあ。

ラーメン10

煮豚はあらかじめ一時間水煮したからほろっほろ。これもお店に比べれば薄味だったけどじゅうぶん合格点。

ラーメン09

特筆すべきは妻が仕込んでおいてくれた味玉の絶妙の半熟加減と味の濃さ。これは非の打ちどころがなかった。妻よありがとう。何も言わなくても豚のパックに完璧なゆで加減の半熟玉子を入れておいてくれるその気遣いにただ感謝。

いやー一気呵成に平らげてしまった。げぷ。ごちそうさまです。

食べ終わりぎわに妻がほっぺの中を麺で膨らませながらこう言って笑った。

「おもしろかった。ちゃんとラーメンになってた」

そう、この一言をもらうために汗水垂らして作ってるねんなあ。おもしろかったの一言。「おいしい」はもちろん最上級の褒め言葉だけど、それは純粋に料理だけに対する評価だと思う。一方、「おもしろい、楽しい」はその食事全体・食卓を囲む時間や空間に対する評価だと思うのだ。

純粋に味だけで評価したら今日のラーメンはお店の味にとうてい敵わない。素人の域を出ていない。でも、妻の心には「自宅でインスタントじゃなくラーメンが作れるかなあ」という好奇心が沸き起こっていて、それが満たされたから「おもしろかった」と言ってくれたんだと思う。そんなふうに味覚で満足するのとは別に好奇心を満たすことができれば楽しいし、おもしろい。そしてそんな「楽しい」は「おいしい」につながっている気がする。おいしさをちょっとだけ底上げしてくれるのだ。大事な人と食卓を囲む意味ってそこじゃないかなあ。

楽しければ多少の近道やチートはあったっていいじゃない。作るという義務をじゅうぶん果たせていないんじゃないかと自分を責める必要なんかないのだ。料理は作っていなくても、楽しい食卓を作れていればいいのだ。

これでもまあ、世間的にはじゅうぶん凝ったラーメンだというお声もあるかと思う。もちろん、ふだんインスタント麺も絶賛食べてます。贔屓は「サッポロ一番塩らーめん」「辛ラーメン」「チキンラーメン」かなあ。

いっとき各社こぞって酸辣湯麺を売り出してて、すっごく気に入ってたけどあれどこいっちゃったんだろう。あんまり売れなかったのかな。

ふう、それにしてもおなかがいっぱいだ。明日の体重計が怖い。

でも明日からまたしばらくハードワークだから、少しばかりエネルギーを余分に貯めたと思えばいいかあ。

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