見出し画像

コロナ禍でのがん手術

2020年3月に子宮体がんの手術を受けてしばらく仕事を休職することになった私は、職場の同僚たちにメールを送りました。
いま改めてその文面を見ると、
病気との闘いに加えて新型コロナウイルスへの恐れと不安が想像以上に重く心にのしかかっていたように感じます。その一部抜粋をここに掲載します。

【長期療養のご報告】皆様へ
2020年3月に子宮体がんの手術を受けて長期休職しています。病理検査の結果がんは初期の段階で転移はありませんでした。しかし転移リスクが中程度あるため、6月から抗がん剤の治療を受けています。仕事復帰の時期はまだ未定です。
ディレクター時代に何度か「がん企画」に関わったこともあり、2人に1人はがんになる時代、早期発見すれば治療可能な病気と冷静に受け止めることができました。
ところが「新型コロナウイルス」の出現で想定外の事態に直面しています。入院中に家族とは手術当日しか会えない、危機管理上これは当然の対処です。しかし抗がん剤の投与後に感染症にかかるも病院の施設内で治療を受けられない、さらには感染症予防に必要な消毒などの衛生用品が手に入らない。がん患者という立場から見る“コロナ現象”は理不尽で不安なことばかりです。
いまは病床からぼんやり眺めるテレビが情報源で、新聞に目を通すことさえつらい日が多い状態です。政府の対策本部や自治体が何を基準に方針を決めているのかもよくわかりません。
報道の最前線からは遠く離れているけれど、
せめて自分の身に今起きていることを記録して「復帰への習作」を書こうと思います。
推敲する余力はないけれど、文章を書かない=思考を停止することがどうしようもなく不安なのです。
のたうち回り弱音を吐いても抗がん剤6クール最後までギブアップさえしなければ逃げ切り判定勝ちです。無理しない、がんばらない。
心配しないで、わたしの心は元気ですから、秋にはこれまでにない健康な体で日常生活に戻ります。

かつて経験したことのないウイルスの感染拡大で医療がひっ迫する中、がん治療を受ける自分の身に何が起こるのか、しっかりこの目で観察して記録しようと強い決意で入院しました。しかし思った以上に入院や治療は心身ともにダメージが大きくて、ノートには言葉の切れ端が書きなぐってあるだけで判別が難しい文字も多数ありました。
以下、復帰後に闘病memoを解読して文章につなげ直したものです。

【入院memo】

3月10日(火)
血糖値コントロールや検査のため手術の1週間前に入院。気晴らしに屋上へ向かうと、コロナ対策で入院患者と外来者との動線が交わらないようにと閉鎖。
気が滅入る。手術後の体力低下を見越して筋トレ。
腕立てスクワット腹筋を30回×3セット。高額な入院費用を補助する限度額適用認定申請書が届く。これは助かる。
3月12日(木)
WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを宣言。
病院内も感染症対策で見舞い禁止。
手術当日しか家族と会えない。
荷物の受け渡しも警備室に預け直接会えない。
これだけ厳戒態勢にしてもコロナの不安は残る。
本を読み散らかす幸せ。「瓦解の未来」磯崎新さんの安部公房論がよい。
令和の三月に松本清張の「神々の乱心」を読むのは運命か。
3月14日(土)
新型コロナ米トランプが国家非常事態宣言。日経平均株価2万円台割る。
ギリシャ国内聖火リレー中止。
コロナの感染拡大で病院内も静かな恐怖。
感染は絶対に防ぐのだという強い信念。
みぞれから雪。
東京で桜が開花。3日ぶりのうんこ。
3月16日(月)お昼ご飯に「鶏のから揚げ卵とじ」という謎のメニュー出現。衣がニチャッとした上にあんかけ卵がひたひた…さすがにご飯残した。
明日の手術準備。家族の面会申請書、手術用セット看護師さんに預ける。剃毛。シャワー。夜は浣腸。
3月17日(火)子宮体がん手術

【手術後のmemo】

医師による説明。手術は実質3時間30分。100CC出血。
悪性腫瘍大きさ2センチ。
摘出した検体の写真は子宮から左右に卵巣が伸びて「捕らわれた宇宙人」のような形態、でも宇宙人はまだ見た事がない。
今後不正出血があっても少量なら問題ないとのこと。卵巣を摘出したので、閉経している場合はあまり影響ないが更年期障害の症状が少し出るかも。
リンパ節を取り除いた場所を迂回してリンパ液は流れるが迂回路で道に迷うと腫れる“リンパ浮腫”に注意。病理検査の結果をみて治療方針を決定。
化学療法(抗がん剤)ありの場合→3週間おき6クール。
1年目1か月おきに検査 2年目2か月おき 3年目3か月おき…
10年目まで経過観察を続ける。
3月24日(火)
手術から7日目。晴れ。 きょう退院。
桜は満開。

退院後の生活

退院の翌日、女優の岡江久美子さんの訃報が伝えられました。コロナ肺炎で亡くなったというのです。乳がん手術のあと放射線治療をしていたそうで、免疫力の低下はやはり影響したのでしょうか。ウイルスから命を守るため、これからは生活を大きく変えなければなりません。自宅療養でも感染症対策は必要です。家族でタオルは共用せずこまめに洗濯する。コップや食器の使いまわしもしない。手洗いうがい。家族が外からウイルスを持ち込む可能性があるので自分はずっと自宅にいたとしても手洗いうがいは必ずする。
自宅療養も治療も感染症対策も家族の協力がなければ何一つ出来ません。
お互いの状態を理解し合い、思いやること。自分が出来ることはやる。
出来ないことはやってもらって当たり前ではない。
感謝の気持ちを素直に伝える。
人生最大の危機、いや人類の危機に直面し、改めて家族と健康の大切さを感じました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?