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抗がん剤治療VSコロナ感染対策

基礎疾患を抱えて

2020年3月私は子宮体がんの手術を受けました。その一か月後に病理検査の結果が判明、いわゆるステージは初期の1-B・G1。当初の予想より少しだけ深く浸食していました。転移リスクの低中高でいうと“中”リスク。
現時点で他に転移はないけれど骨盤やリンパ、子宮のあった周辺に再発する可能性があると説明を受け、化学療法つまり抗がん剤治療を決断しました。
抗がん剤の投与は3週間おきに6クール。劇薬のため初回は入院して副作用の度合いやアレルギー反応などを見ながら、2回目以降は通院で行うことになりました。人によっては吐き気や手足など末梢神経のしびれ、味覚の変化など思い副作用に耐えられず、途中で治療をやめる人もいるそうです。
抗がん剤の種類はパクリタキセル、カルボプラチンの2つで頭文字をとってTC療法というそうです。
点滴室の看護師が抗がん剤治療の注意点などを丁寧に説明してくれました。
「毛髪がごっそり抜けるからウィッグや帽子の準備は早めにしましょうね」という。「でも人によるとか、薬の種類とかでも多少違いがあるとか…」「いえ、このTC療法に限ってはほぼ確実にみんなごっそり抜けているので、それは覚悟しましょう」と明るく言い切りました。私は特に髪の毛に未練などありませんでした。それよりも一番気になっていたのは感染症の事。
白血球や赤血球血小板が減少するため免疫力が極端に低下します。医師や看護師に念押しされたのが「コロナウイルスや感染症が怖いので38度以上の熱があるときはすぐに電話で連絡相談して」というコロナ対策でした。
私が入院している病院ではコロナ患者は受け入れていません。病院玄関口にはサーモカメラが設置され、熱が高いと入ることはできません。
感染症にかかっても病院ですぐに治療を受けることはできないのです。
目に見えないコロナウイルスを食い止めるには、ウイルスを運ぶ「人の流れを遮断する」のが最良の方法です。感染防止のため仕方がないことです。
感染症が重症化する人の特徴として、糖尿病などの基礎疾患がある人が多いと報告されています。 やっかいなことに私は1型糖尿病でインスリンを注射して血糖コントロールをしています。
(※1型糖尿病は生活習慣病ではなく膵臓の機能障害)
手術も抗がん剤治療も常に基礎疾患による合併症リスクがつきまといます。私は“見えない敵”に不安を覚えました。
初めての抗がん剤投与の日。担当の女性看護師はシールドに防護エプロン、二重の手袋で劇薬の抗がん剤を扱い、体温血圧を何度も測りながら「気分悪くないですか」と声をかけてくれました。看護師の名札に目をやると苗字だけシールを貼り直してあり左手の薬指に指輪がキラリ。新婚なんだ…夫はこの防護姿を見たら心配だろうな、と感謝となんだか申し訳ない気持ちが入り混じって、お世話になりますと頭を下げました。

【抗がん剤memo】※一部を抜粋 5月13日(水)午前9時 点滴の管を入れて吐き気止めの薬イメンドカプセルを服用。
午前10時 抗がん剤開始 それほど吐き気はなく眠いだけ。
血糖値250かなり高い。インスリン増やし12単位打つ。
正午 点滴打ちながら昼食。完食。
午後3時30分 抗がん剤の初回終了。吐き気止め効いているらしく気分が悪いなどの副作用は自覚ナシ。かなり眠い。血圧も最初上昇すぐに落ち着く。血糖も大丈夫。
看護師にトイレ使用後に便座を拭く消毒ガーゼを渡された。劇薬だから。
抗がん剤は72時間ほど皮膚からにじみ出るため、付着すると他の人が曝露する可能性があるのだと。拭いたガーゼは医療廃棄物の箱に捨てること。
夜、カッと全身が熱い。足先と脛がジンジンする感じ程度でつらくはない。
口の中に少し苦みを感じる。36.3度の平熱。気持ち悪さも抜けた感じ。
翌朝ピリピリ皮膚の表面がしびれる。足指すね、ふくらはぎ、太もも前面、足に集中。
5月15日(金)退院。36.1度。副作用らしき症状ない。血糖値206。
二週間後に血液検査で骨髄抑制など問題なければ6月3日に2回目の抗がん剤
副作用で白血球が減少する骨髄抑制は注意が必要、数値が悪ければ他の薬を投与することもあるらしい。
5月16日(土)日ごとに変化する体調にとまどう。あちこビリビリ痛い。関節も目も痛い。今更だが何よりお腹の手術あとが痛い。頑張らない無理しないゆるーくのんびり乗り切る。つらいときは人に頼る。
5月17日(日) 朝ごはん作ってもらったのに食べられない。冷や汗しびれ。身を横たえじっと耐える。体を起こしていられない。退院した時の方が調子よかった。薬の副作用のペースがどう出てくるのかつかめない。まだ始まったばかり。
5月18日(月) 急に悪寒して夜21時38.9度の高熱。起き上がれない。しびれ痛み、恐怖。あす病院に電話連絡しよう。こんなに熱あったらみてもらえないコロナのバカ。
5月19日(火)仮設の緊急診察室で診てもらえた。

三つの選択肢、答えは最初からひとつだった

病院に電話をかけ「38.9度の熱が出た」と伝えると、救急搬送口の横に仮設された緊急治療室に来るよう指示されました。退院後は自宅に直帰したのでコロナ感染者との接触はないはずです。疑いはほぼ皆無ですが病院の正面玄関から施設内に入ることはできないのです。
おそらく警備室であったであろう仮設治療室で血液検査を受け、結果が出るまで1時間近く看護師がずっと付き添ってくれました。
私は「看護師さんみんな忙しい中でギリギリの人員で仕事をしているのに1人私にかかりっきりだと仕事回らないでしょう」というと「高熱で苦しむ人を仮設部屋にひとりで放置するなんてできませんよ、コロナのせいでちゃんと診てあげられなくてごめんなさいね」と言われました。実はこれまで大嫌いだと公言してきた「心に寄り添う」という言葉が初めて身に沁みました。
1時間後…血液検査で炎症反応が出ているため何らかの感染症であるとして医師から3つの提案をされました。
1=自宅療養で炎症をきれいにする抗生剤の薬を処方
2=仮設外来に2~3日通って抗生剤を点滴
3=入院して抗生剤を点滴ーただしCT検査で肺炎でないこと、つまりコロナ肺炎の可能性を否定することができないと入院はできない。
高熱で病院施設内に入れないのにどこでCT検査を受けられるというのでしょう。結局1=自宅療養を選択するしかありませんでした。
高熱では薬局にも入れないため病院の薬剤師が来て薬を処方してくれ、会計も仮設部屋の前まで事務員が来て看護師が取り次ぐなど、煩雑な作業はさらに増えていきました。

「逆説の証明」が治療を邪魔する

自宅に戻って抗生剤を飲み続けましたが、38度の高熱は10日ほど続きました。平熱に下がったところで2回目の抗がん剤治療ができる状態か血液検査をしました。医師は「感染症がかなり重かったので次回以降は抗がん剤を80%に減らす」と判断しました。薬を減量すると副作用も感染症リスクも本来の効果も減ります。しかしがん再発を抑える効果は充分あるから心配ないと言われました。私は「感染症は気を付けるから副作用も耐えるし頑張るから次も100%でチャンスを…」と何度もお願いしましたが、抗がん剤の使用指針でリスク管理が決められていて、80%に減量の決定は覆りませんでした。
「もしあの時すぐに入院治療すれば感染症はすぐに抑えられたのではないか」と思うと本当に悔しくてなりません。コロナではない証明が必要ならばPCR検査は出来なかったのか。厚労省によると医師が必要と判断すればPCR検査を受けられるはずです。しかし現場が「検査必要」としなかった理由は「コロナ感染の疑い」ではなくて「コロナではないことの証明」という逆説的な理由ではPCR検査の要請は通らないとわかっていたからだと思います。統一性がなく不可解なコロナ対策によって、コロナ以外の多数の患者がどれほど苦しみ、医療従事者が翻弄されていることか。この現実を直視して具体的な方針を早期改善してほしいのです。

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