アフリカ健康構想ってなんだ__

アフリカ健康構想ってなんだ!?

 今回は私も農業からのヘルスケアを考えている身として、内閣府が現在アフリカで取り組もうとしてしている「アフリカ健康構想」について勉強しながら書いてみたいと思います。研究している身ですがODA業界で働いている訳ではないので、的外れなことを書いているかもしれませんがその時はご容赦ください。

アフリカ健康構想とは?
(1)経緯 平成 26 年5月に成立した「健康・医療戦略推進法」に基づき、同年6月に健康・医療戦略推進本部が設置され、同年7月には「健康・医療戦略」が閣議決定された。「健康・医療戦略」では、健康・医療に関する国際展開の促進が柱の一つとして掲げられた。 これを踏まえ、健康・医療戦略推進本部は、平成 27 年 9 月の国連サミットで 国連加盟国 193 ヶ国が「2030 年までに達成すべき目標」として定めたSDGs (Sustainable Development Goals)の「目標3」にある「ユニバーサル・ヘル ス・カバレッジ(UHC)の達成」への貢献を視野に、平成 28 年7月に「アジ ア健康構想に向けた基本方針」を決定した。 平成 30 年7月の同基本方針改定においては、アジア諸国とアフリカ諸国双方 で、各々に適したヘルスケアの構築がシナジーを生み、それぞれの地域において、 互恵的で効率的な事業環境の形成に繋がる可能性があるとの観点からアジア 健康構想の経験も参考に、アフリカの実情を踏まえたアプローチを今後検討し、 令和元年のTICAD7においてアフリカ健康構想の推進という形で提示する ことを検討するとされた。(内閣府資料より)

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実現すべき理念:アフリカにおける富士山型のヘルスケアの実現
 アフリカ健康構想ではUHCの実現に向けた「「医療・介護」「ヘルスケアサービス」「健康な生活を支えるサービス」の各分野における自律的な産業を振興し、すそ野の広い富士山型のヘルスケアの実現を目指す」とされている。この絵はアジア健康構想でも同様のものが用いられており、アジアの構想の横展開としてアフリカ健康構想について記載されている。
 実際に上記の絵に示されたようなヘルスケアサービスを提供できるようになれば最高!であるは、内閣府の指摘している通り実現するためには、下記のような状態を改善しなければいけない。


1. ヘルスケア分野における産業育成においても必要となる電力・水道・港湾・道路といった基礎的なインフラが未整備。
2.  公衆衛生・農業分野における基礎的な知識を向上させ、実践を担保し、更にはそれらを一体として進めることで社会環境の改善を図る必要。
3.  未だ感染症や栄養不良といった早急に対応すべき課題も存在。

富士山型のヘルスケアという考え方はどこから来たのか?
私が調べた限りだと平成31年に外務省から出ていた資料の中にあるSDGs実施指針の資料にアジア健康構想で富士山型のヘルスケアが書かれていた。日本を含むアジアの内容のついでに、アフリカについても記載があった。アジアの環境を中心に記載されており、「富士山型」ということはベースとなる下流から上流までという意味を表しているとも取れるし、それに関わる産業の数とも取れるし、それぞれの業界に関わる人数の大小とも取ることができる。

公衆衛生と農業分野も含めたアフリカ健康構想
農業分野と公衆衛生という部分がとても引っかかったので、公衆衛生と農業分野それぞれ何を示すのか調べてみました。


公衆衛生
・アフリカにおける顧みられない熱帯病(NTDs)
・母子手帳の普及
・健康危機対応能力強化に向けたグローバル感染症対策
農業分野
・アフリカ稲作振興のための共同体イニシアティブ(CARDフェーズ2)
・市場志向型農業振興アプローチ(SHEP)
・食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)

といった分野のことを指していると考えられる。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団も力を入れる公衆衛生分野

ビル&メリンダ・ゲイツ財団も力を入れるトイレ事業アフリカ健康構想の富士山型ヘルスケアの土台になっている通りトイレや下水の整備はアフリカにとっても大きな問題である。
私自身が現在調査を行なっている地域の都市近郊でも、水洗トイレを完備している家族は少なく、汲み取り式のトイレである。汚水や糞尿はどこにいっているのか聞いたことはないが、私が村を回っている時に嗅いだ匂いからすると一部は畑の肥料に使われているのではないかと思っている。また、NETFLIXから配信されている「ビルの頭の中:ビル・ゲイツを解読する」からも糞尿をそのままに川に流しており、下流で水遊びする子供や飲み水として使用している中で下痢になってしまう状態を描写している。

トイレの技術革新に賭けるゲイツ氏-LIXILと連携し世界に挑む:
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-11-07/PHT3LO6S972Q01

農業分野からのヘルスケア
これに関しては私の専門分野なので自分の研究の結果も含めてお話をすると、ナイロビに在住している以外の人々への農業は生活する上でとても重要な要素である。ケニアの50%以上の人が農業に関連した仕事(兼業も含め)をしている。そのため農業は収入・栄養・身体活動など産業以外にも、現地の人々の健康にも大きく影響していると考えている。まず、私の都市近郊を対象にした調査(n=140)から、男性と女性の体重は差がなく、女性の方が肥満傾向であることがわかった。また、女性の場合は自身の畑から収穫した野菜や作物を食べてる方が痩せ傾向にあることがわかった。さらに身体活動量は所有している畑の数に関係しており、多く畑を持っている方が身体活動量の増大が望める。つまり、畑を多く持ち自家栽培した農作物を食べた方が肥満の予防に効果があるのではないかと示唆されている。ここに収入が安定してくると、農業をする付加価値を高めることができる。

日本人が考えるヘルスケアとアフリカ(ケニア)のギャップについて
・収入の違い
地方に生活する人々の生活費は個人差もあるが1日200円程度で生活している人も多く、医療にアクセスしたくてもアクセスできない人が多いことは明らかである。そもそも病気になっても病院にアクセスできない状況はかなり多いのではないだろうか?ケニアの医療費の使用金額は日本の1/50であり非常に少ない。

ケニアの一人当たりの医療費(Institute for Health Metrics and Evaluation)

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日本の一人当たりの医療費(Institute for Health Metrics and Evaluation)

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・栄養不良の勘違い
 ケニアにおいては栄養不足という児童生徒もいるが、ケニアの社会はダブルバーデン(栄養失調と栄養過多が混在する状態)であり、エネルギー摂取量の増加を中心とした健康構想では現在の状況とにはマッチしないと考えられる。
・メディカルスタッフの少なさ
富士山型のヘルスケアの図では健康支えるサービスが土台となってるが、そもそも健康を支えるサービスがほとんどない。現在のアフリカでは、予防医学という概念がそもそもあまり定着していないので、治療をサービスとして提供している業種の方が多く、逆三角形の形をしていると考えられる。また、医師や看護師以外のコメディカルの数は、医師や看護師よりも少ない。ケニア最大のケニヤッタ国立病院における栄養士は37名程度である。地方病院にはほぼ駐在しておらず週に何回か滞在する場所もある。私がサモアに赴任して居た時は栄養士は国の中で5名しかいなかった。
一方で日本の厚生労働省の統計表によれば、10万人に対する医師の数がケニアの約12倍、歯科医師は40倍、薬剤師は約40倍となり医療スタッフの数から見てもケニアの医療の現状は富士山の土台となる医療者や医療サービスが十分確保されていないことが考えられる。

日本の厚生労働省(統計表平成28年)

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ケニアの10万人あたりの医療従事者の数(Kenya-HRH-Strategy-2014-2018)

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As help from Cuba arrives, is there only one Kenyan doctor for every 16,000 people?
https://africacheck.org/reports/as-help-from-cuba-arrives-is-there-only-one-kenyan-doctor-for-every-16000-people/

・死亡原因の違い
これは日本とケニアの死亡原因の違いの話であるが、日本の死因1番はガンであるが、ケニアではHIVがもっとも多く、それ以外にも感染症が上位を占めている。一方で、脳血管疾患や心臓血管疾患なども劇的に増加しており、感染症と高血圧や高血糖により非感染症対策も同時に行う必要がある。

ケニアの死亡原因の10年間の変化(Institute for Health Metrics and Evaluation)

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日本の死亡原因の10年間の変化(Institute for Health Metrics and Evaluation)

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・交通インフラの違い
ケニアでも交通インフラの整備は整ってきているが、課題は渋滞である。ナイロビ市内はほぼ1日中渋滞しており、物流や患者の輸送などは深刻な問題である。緊急時以外の輸送などに関しては十分なインフラ体制を整えている訳ではない。

アフリカ健康構想実現に向けて
私が関係している分野は栄養や身体活動など予防医学的な要素が多く実際に疾病を罹患した患者に対するものではない。現地でガンに関するヒヤリングをした結果、予防に関するワクチンの摂取などに積極的な人々は多い。しかし、予防にかける費用はそれほど多くない。今後アフリカの発展を考えると予防について積極的に進めてほしいと考える。UHCは優れた医療システムである一方、安価に医療にアクセスできるがうえに予防に費用をかけにくくなる可能性があり、教育レベルが途上段階の国ではさらに予防の概念の薄くなってしまうことを懸念する。
ナイロビ以外の人々は多くの人が農業を主な収入源としてる人が多く家畜も行う混合農業をしている。その結果、感染症および非感染症の両方のリスクに晒されていることは容易に想像ができる。農業を行うことは健康を維持する上で非常に重要な要素であることを私自身の研究でも検証しているため、農業から医療までの一気通貫のヘルスケアシステムをこのアフリカ健康構想により日本のサポートによって実現してほしい。


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