”正しさより優しさを”の続き

自分は情が深いタイプだと思う。
だけどそれって持っているだけではあまり意味がなくて、相手に伝わってこそ意味を持つはず。私は深い愛情を持っているだけで、いつも先に世間体や規則でものごとの良し悪しを考えてしまう。つまりそれって”優しさよりも正しさ”を優先してしまってるってこと。
そんな自分が嫌だなぁって思っていたのだけど、そうでもない時だってあったんだと後になって子どもに教えてもらった話です。一応昨日から続いています。



母親である私が言うのもあれですが、上の子は今クラスの中のいわゆる”面白キャラ”で、”人気ものポジション”にいるんだと思います。参観での様子、先生からの話などを通してそう感じます。また同じ幼稚園だったママ友複数人から「〜くんって小学校になって、よりひょうきんになったよね。いい風に変わったね。」と言われました。私もそう思う。変わったなぁって。もちろんいい意味で。

幼稚園の時の彼も活発でひょうきんだったけど、それ以上にどこか自信なさげで繊細でした。
このくらいの年の子どもってお友達に意地悪された場合、気の強子なら言い返すでしょうし、暴力で怒りを表すこともあるでしょう。そこまで気持ちが強くなくても泣いて悔しさを表す子もいるかもしれない。
この頃の彼がどうだったかと言えば、どっちでもありませんでした。
心の中はズタズタに傷ついている。だけどそれを誰にも知られたくないものだから、教室から飛び出して園庭の片隅で一人で泣いていたんだそう。当時の担任の先生が教えてくれたのですが、こういうことが何度かありました。

異常事態だと感じました。
嫌だと思っているのに、それを誰にも言えずに一人で逃げ出すって行為をとった息子に対してです。今はまだ幼稚園児の小さな嫌がらせレベル、この先小学校、中学校、高校と年齢を経ても同じように意思表示をできないまま逃げるのではないか?いや、いじめられたって、学校に行かなくなったって別にいいんです。生きていく方法はいくらでもありますから。
私が一番恐ろしいと感じたのは、こうして誰にも心の中を話せないまま大きくなった時に、生きることに絶望しないか?ということ。
私の育て方に問題があったのだろうとひどく落ち込みました。だけど落ち込んでいる暇なんてない、息子をなんとかしないと!そんな気持ちで必死でした。

”幼稚園児のちょっとした意地悪程度で・・・どんだけ大げさなんだ”そんなのわかってます。それでも怖かった。だって自分の子供のことだもの。心配して当たり前じゃないですか。
私は決して母性の強いタイプではないけれど、自分の子はかわいいに決まっています。大げさで何が悪い!


そういう危機意識があったのでしょう。
最初にこういうことがあった時に園の先生としっかり話をしました。今次男がお世話になっているところと同じ園ですが、ここの先生方はとにかく子どものことを一番に考えてくれます。意地悪した子と息子両者を呼び出して、とことん話をさせるという方針をとってくれました。先生は時折間に入って話の整理をするのみで、どちらにも肩入れはしない方針だったようです。
最初はこういう話し合いの場所を設けてもらったとしても、息子は言い返すことはおろか、ずっと泣いていたらしいです。たぶん傷ついている自分をさらけ出すことへの怖さ、されたことへの悲しさ、そういう気持ちが入り混じっていたんじゃないかな。でも先生は根気強く息子が”こういうことがされたから嫌だった”と言うまで付き合ってくれました。
そうするうちに、嫌なことがあったらその場で「嫌だ」と言えるようになったり、嫌とは言えないけどそこで泣きながら抵抗するとか。そういう風に変わって来たようです。


こういう経験の積み重ねが今の息子に繋がったんじゃないかな?
あるいは例えばバスケットボールや水泳など習い事を通して自分に自信が持てたのかな?
ずっとそう思っていました。ああ、いい幼稚園に恵まれてよかった。習い事させてきたよかったと。
だけど息子と最近話をしていて、彼の口から意外な言葉を聞いたんです。

息子は今も相変わらずガラスのハートで、打たれ弱いところはあります。だけど今はもうクラスの中でのポジションが確立されてるから、意地悪してくる子がいなくなったんだと思う。
その辺の変化について彼と最近話をしていたんです。
「小学生になって心が強くなったよね。意地悪言ってくる子はいないの?」って聞きました。
すると
「今はいない。もしいたら言い返すし、言えなかったら先生に言うわ。あ、それかママに言うかも。」そう言った後に、
「だってママさ、”俺を傷つける奴は全員ボコボコにする”って俺が幼稚園の時言ってたで。ボコボコにしてくれるんやろ?」ってニヤニヤしながら言いました。

!!!!!
えー、そんなこと言ったかな?正直記憶にない。
だけど私いいこと言ってる。
これってまさに”正しさよりも優しさ”やん。

わかってますよ。
もちろん本気でよそ様の子どもをボコボコにしにいくほどトチ狂ってはいません。だけど彼のためならそれくらい戦う用意はあります。それは本当。その心づもりを言ったんだと思う。
そして本気で実行しないにしても、道徳的に褒められた言葉じゃないのもわかる。だけど必死だったのでしょう。この子に私の気持ちを伝えたくて。
それだけ強く響く言葉だから、数年経った息子の心の中に残っていたんだと思う。この言葉がこの先も彼の胸の奥に住み着いて、小さなお守りになってくれたらいいな。


私は過去の私を見くびっていました。
母親としての自分は特に。
自分のことは棚に上げて厳しいだけのヒステリックな母親だ、としか思っていなかった。もちろんそういう要素も強かったんだけどね。
だけど少しだけ見直したし、少しだけ褒めてあげたい。
これから先も私にとって優先すべきは”正しさよりも優しさ”です。

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浜田 綾(コトバノ):ライター
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