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短読⑦ 夏の雪みせて見せてと子どもらに囲まれてゐる若き手品師

はじめに

七首目は、秋月祐一さんの歌です。ご投稿ありがとうございました。歌の中の形容詞について掘り下げていきました。どうぞよろしくお願いします。

夏の雪みせて見せてと子どもらに囲まれてゐる若き手品師

秋月祐一「未来」2022年10月号

まず読んで思ったこと

 この歌を読んだときに、世界観の完成された一首だなーってまず感じました。歌を読むと一首に描かれている前後のストーリーみたいなものも見えてくるんじゃないかなと感じています。歌の内容を見るんですけど、若い手品師っていうのがいて、その手品師が子どもたちにこう夏の雪を見せてくれないかって言ってるところだと思うんですね。多分この子どもたちが(見せてと)言い出す前に、手品師は手元からいろいろなアイテムを取り出しては見せ、何もないところから取り出しては見せっていうことをやってたと思うんですけどね。夏の雪っていうのは、現実的には出せないものだとは思うんですよね。溶けちゃうし、どこから降らせてくるのっていう話だと思うんですけど。そういう風にせがまれて、この若い手品師はすごくどうしようかなみたいな、戸惑いを覚えたりしたんじゃないだろうか、といったところまで一首で想像させてくれるような作りになっているなーって思いました。
 私が結構気になった部分が、この〈若き〉っていう言葉です。この歌には手品師のことが書かれてるわけなんですけど、この手品師のことを見て(言葉にして)こういうふうに描いている人の視線っていうのがこの歌にはやっぱりあって。この人がこの手品師の属性に関して言ってることって〈若き〉なんだなーって思うんですよね。やっぱり若さゆえに自ら進んでいろいろやってみながらも、その中で思いもしないことを言われて戸惑ったり、「どう乗り越えてたらいいんだろう」みたいなそういう初々しさみたいなものも若さにはあるのかなって思うんですけど。そういう若さに着目している人なんだなーっていうことをちょっと思いました。それは結局、自分にはもうそういう時間がない、時間がないっていうのはそういう若いからこそ経験できたことというのが、もう遠いものとして感じるような感覚っていうのがあったりもするんじゃないかなって思いました。

さらに読む

 「世界観の完成された一首」というのは 、描きたいものが一首で過不足なく表現されているという意味合いでここでは使っています。短歌はある場面の瞬間を切り取ったものを表現するように思われたりしますが、正確にはその(比較的長い)前後の時間も言外でいうことができる表現でもあって、そういう意味でも「時間性」を感じさせる形式だよなあと思いました。
 余談なのですが、占いでよく用いられるタロットカードの大アルカナと呼ばれる22枚のカードには「THE MAGICIAN」のカードがあります。マジシャン、日本語では魔術師と呼ばれることが多いです。このカードに描かれているのは、一人の魔術師の青年で、テーブルにいろんなアイテムを並べながら、これから人々をあっと言わせようと自信満々に意気込んでいる様子だと解釈されます。このマジシャンもやはり青年で、なにか創造的なことをするために必要なのは若さだというのが、意外と普遍的な発想であるのかなあと思いました(音声でもタロットカードのことを念頭に置いて話してはいます)。
 人の属性について言及があるとき、大体は最も特徴的なことについて触れられると思うのですが、自分は持たないものや距離のあるものに目がいきやすい=特徴として捉えやすいのかもなあとも思いました。これが老いた手品師であれば、また違った展開になるような気もしましたが。いや、そうなると持たないものや距離のあるものに目がいくというのは不正確で、欠如であれ過剰であれ、自分が気にかけている属性に思わず惹きつけられてしまうのかもしれません。いずれにせよ、形容詞ひとつで、含みを凝縮できることの面白さを思いました。

参考サイト
・THE MAGICIAN:https://jingukan.co.jp/fortune-lab/the-magician/

企画趣旨はこちらから

https://note.com/harecono/n/n744d4c605855


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