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短読⑨ ろうそくの数が増えてく様を見て時の重さもまた増していく

はじめに

九首目は、山川草太さんの歌です。ご投稿ありがとうございました。似たような言葉の違いを掘り下げていきました。どうぞよろしくお願いします。

ろうそくの数が増えてく様を見て時の重さもまた増していく

山川草太

まず読んで思ったこと

この歌を読んだときに、〈ろうそく〉・〈増える〉・〈時〉という言葉の連なりから、誕生日の光景なのかなーって思いました。ただ描かれてるものの手がかりがろうそくしかないので、ろうそくの火だけ見えて辺りは真っ暗みたいな、なんかハッピーバースデーの曲を歌う直前みたいな感じのイメージっていうのが思い浮かびました。
年齢を重ねていくということは、大人になっていくっていうことで、大人になっていくっていうことはその分だけ、経験を重ねた分だけの責任が伴うみたいなイメージがあるのかなーってに思うんですけど。この歌のなかで〈時の重さ〉って表現されてるので、年齢を重ねていくことが、この人のなかでは香背負わされている感じ、一種重圧のようなものとして感じ取られているのかなーって感じました。だから(すごくハッピーな感じの)祝福っていう雰囲気ではないのかなって思います。
この歌のなかで面白いのが、この〈ろうそく〉に対しては数が〈増えてく〉って言っていて、下(の句)の〈時の重さ〉に対しては〈増していく〉っていうどっちも増える・プラスになっていく表現なんですけど、ちょっと使い分けがされてるんだなーって思いました。〈ろうそく〉は物理的な、実際に物体としてあるものなので、そこに対しては〈増える〉っていう言葉が使われていて、〈時の重さ〉っていうのは抽象的な、観念的なものだから、それは「増す」っていう使い分けの感覚があるんだなーって感じています。上(の句)の〈増えてく〉に対して、下(の句)は〈増していく〉で、ちょっとカジュアルさ(の度合い)も違うなって思いました。音数の関係で〈増えてく様〉なのかなーっても思うんですけど、「増えゆく様」っていう言い方もできるから、やっぱりこの下(の句)の〈時の重さもまた増していく〉に対しての方が、すごく本気[マジ]な感じというか、それを受け止めようとする(こと)の方に力が入ってるなーって感じました。

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 余談から入るのですが、私は誕生日が結構好きで、生まれただけで何にもしていないのに祝福してもらえるなんて、なんて素晴らしい日だろうと思っています。でも歳を重ねたから大人になれるってわけでもなくて、先人の話を聞く限り、どうやらこのままの感じで年齢を重ねていくっぽい。ようは精神的なものはこれ以上熟す感じがないのに、時間だけが経って年齢というものに何かが詰め込まれる感覚の恐ろしさってあるのではないかと思います。
 歌を読んだときに、まずろうそくが出てきて、それが時という観念的なものを想起させる。私たちのイメージは、物(理)によって立ち上がりやすい、実際的な物がトリガーになってくるんだなあと実感しました。また、時間が蓄積されているときの表現に「厚み」というのがあって、これはどちらかというとポジティブなイメージがあります。中身が伴っているというか、外部から押しつけられるというよりも内側から膨らむことが要求される言葉のような感じ。でも歌で採用された言葉は〈重さ〉で、重さって比較的外部から与えられたときに感じやすいから、ろうそくだけしか見えない(周りにも人がいなさそうな無音の感じ)と相まって、この人のなかで割合シリアスに直面するテーマなんだろうなと思いました。もう一つ余談なのですが、この歌を読んだときに、タロットカードの大アルカナの「The Hermit」をイメージしました。日本語では隠者と訳されますが、杖と星の形としたようなランタンを持ち、左を向いて立っている老人が描かれています。意味としては思慮深さ、自己の内面に向き合う、精神の探究と言われていて、そういう内に向かう質感がこの歌にもやはり感じられます。逆に言えば、年齢を重ねる=軽くなるという発想の方が目新しいものに感じやすくなるのかもしれません(できればそんな精神でありたいなあと思いますが)。
 音声でも言及していますが、〈増えてく〉と〈増していく〉の使い分けが細かい感覚の違いを捉えているようでよかったです。リフレインで「増えていく」にする手もありますが、音の流れを考えたときも「していく」の「ま」の重なりのほうがつっかかりが少ないこともポイントかなと思いました。

参考サイト
タロット「The Hermit」:https://jingukan.co.jp/fortune-lab/the-hermit/

企画趣旨はこちらから

https://note.com/harecono/n/n744d4c605855


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