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肩車から見える景色

おいでませ。玻璃です。

我が家の喫茶店G&Gは夜の営業でおしゃれなアルコールを提供することになり、喫茶店メニューやカクテルが作れるスタッフが必要だった。

白羽の矢が立ったのは、長女のさゆり姉さんの彼氏、タカシ兄さん。
下関市で小さなバーをやっていたところ引き抜かれたのだ。
タカシ兄さんは長身でスラリとしたイケメンで、美人のさゆり姉さんとはとてもお似合いのカップルだった。
私の記憶にあるタカシ兄さんはいつも穏やかで静かに話す温和な男性だった。

一応G&Gのマスターは父の洋平、ママは母の昭子だった。
だが、父は旅館の泊り客や観光客相手に売るお土産用萩焼の製作を始めて、工房に行くことも増え、母は主に旅館の方にいたから、実質タカシ兄さんがG&Gを任されていた。彼女のさゆり姉さんも高校を卒業して手伝っていた。

その頃、タカシ兄さんの弟のトシくんもアルバイトとしてG&Gで働いていた。
トシくんはこの頃で二十歳くらいだったろうか?
いつも私がG&Gに遊びに行くと、

「お!玻璃ちゃん!!」

と言って、しゃがんで両手を広げて待っていてくれた。

「トシ兄ちゃぁ~ん!」

私は全力でかけて抱きついた。
そのまま私をグイっと持ち上げいつもの肩車だ。
トシくんのウエーブのかかった頭につかまり、ニコニコとまわりを見渡した。
いつもの目線よりぐっと高い位置からいろんなものを見ることができるこの肩車が私は大好きだった。
自分一人では見ることのできない世界。
私はワクワクして、いつも抱っこや肩車をせがんでいた。

楽しそうにトシくんに遊んでもらう私にまわりの大人は決まって

「玻璃ちゃん、大きくなったら誰と結婚するん?」

と聞いてくる。

「トシくん!玻璃ね、大きくなったらぜ~ったいにトシくんのお嫁さんになる!!」

決まって私はこう答えた。

「よし、じゃ玻璃ちゃんが大きくなったらお嫁さんになってな。」

と笑顔で答えてくれるトシくんの事が、大好きだった。姉しかいない私にとってはお兄さんのような存在で、もしかしたら初めての小さな小さな恋心だったのかもしれない。

でも、大人になってトシくんと結婚することはなかった。

そしてトシくんとは、私が大きくなってくると会うこともなくなった。
人づてに結婚して双子ちゃんを授かり、そのうちの一人のお子さんを亡くしたと・・・。そしてトシくん本人も40歳を過ぎた時に肺がんで亡くなったと聞いた。
若すぎる死だった。

あちらの世界で亡くなったお子さんを肩に乗せて遊んであげてるのかな。

我が家の墓地の横にトシくんのお墓がある。
いつもうちのお墓参りをするときはトシくんのお墓にも一緒に手を合わせる。

何度もお参りをするうちに私はトシくんの歳を追い越してしまった。

あの頃、トシくんの優しい肩に安心して腰掛け、私だけの力や目線では見えない景色や世界を見せてもらっていた。

肩車こそしないが、今は夫がその景色を見せてくれている。
夫のそばで安心して過ごす毎日の中、一人では見ることや感じる事のできない景色や世界を見つめる優しい日々。

今年も帰郷した時にお墓参りに行く。
その時にまた伝えよう。

トシくんのお嫁さんにはなれなかったけど、大切な人のお嫁さんになって幸せですと・・・。

ではまたお会いしましょう。



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