その2 ヨンエージーとは?

その峠には超絶速いヤツがいて、それが何に乗っているかというとハチロクなわけで。

自分が走り始めた時でも、ハチロクは既に「時代遅れのポンコツ」であり、1.6リッターでカタログ数値で130馬力。実際には100馬力も出てれば御の字という低スペックなクルマだった。

なのに速いってのは、なぜなんだ?

どうやらヨンエージーってのが凄いらしい。何だそのヨンエージーってのは?

それは4AGという型式のエンジンの事だった。ハチロクが搭載する1.6リッターエンジンは、同じトヨタのMR2や、その後の新型カローラシリーズにも搭載し続けられた名作で、耐久性が高くチューニングにも対応する神エンジンと崇められていた。

しかし、当時自分が乗っていたのは1.8リッターのガゼール。エンジンはこっちの方が大きいんだから勝てなきゃおかしいだろ!と思い込んでいた。実際の所は車両が重かったりして、ハチロクより明らかに条件が悪かったのだが(苦笑

とはいえ、そのヨンエージーが1.6リッター界隈でずば抜けて速かったかというと、そんなことはなく、むしろシビックのエンジンの方がずっとパワーもレスポンスも良かったと思う。

これは後にヨンエージー搭載のMR2を購入して乗ってみて判ったことだが、確かにヨンエージーは神エンジンだった(笑 これは「乗ってみて」としか言えないのだが、アクセルを開けた際のレスポンスやパワーの出方、加速トルクの盛り上がり方などが絶妙で、まさに思った通りに反応するユニットなのだ。このサイズのままパワーを上げるチューニングが出来るとか、インジェクションからキャブに変更が容易だとか、そういったマニアックないじり方の前に、そのエンジンとしての素養が優れている。人間の感性にマッチした超絶バランスのエンジンだったということ。

パワーとかトルクとかいう数値ではなく、思ったように動くということが、人馬一体感を生み、このマシンをコントロールしている、思った通りに動かせてるという恍惚感すら発生させていた。アクセルオンに反応してリニアに加速し、オフで綺麗にエンジンブレーキが効き始める。現代のクルマよりかなり遅い反応なのだが、この緩さ、間があることが人間の神経とリンクするタイミングにどんぴしゃなのだ。性能を突き詰めた鋭さではなく、人間のレベルに丁度マッチした機械というデチューン的なエンジンが、人々の心をグッと掴んだのである。

このヨンエージーハチロクをカリスマ化させた一因であることは間違いない。

ただ、その要因のひとつであることに間違いはないが、それだけではない。もっと人を虜にする何かがハチロクにはあったのだ。

つづく



かつて自分の血を沸騰させたスポーツカーと界隈の人間。その思い出を共有していただきたい、知らない方に伝えたいと、頑張って書いております。ご支援いただければ幸いです。