その6 ちょいちょい起こる「クラッシュ」

公道レースをしていたら、そりゃクラッシュもある。

 毎晩走っている常連同志でのバトルでは滅多にクラッシュはない。イキって道場破りに来た新参者が、コースを把握していないのに無理をして突っ込むパターンが多い。あとは初心者が、ハイペースに付いてこられなくて、クラッシュしてしまうケース。すぐにハザードを焚いて「降参」したらいいのに、それが出来なくて充分減速せずにコーナーに侵入して…ドカーン!みたいな。

クラッシュが発生したら、全員集合(笑)。警察が来て問題になる前に、跡形もなく綺麗に処理するためだ。これはこの「コース」を守りたいというみんなの気持ちの現れ。いつも無口でスカしてる感じのRX-7乗りが、案外と優しくて積極的に手伝ってくれたりしてね。

場所によっては始終パトカーが巡回するようになったり、道路に凸凹を作られたりして、走れなくなってしまった例がいくつもあったから。クラッシュで割れたレンズの破片や外れた部品は全て回収した。オイルなどが道路にぶちまかれた場合は、砂を撒いて吸わせる。このコースは今後自分たちが走るので、綺麗に取り除かなくては危ないから。まるで私有地のように丁寧に扱うからね(笑)。

後にドリフトが流行った時はキッズと呼ばれる若者が、クラッシュした際に外れたバンパーやタイヤを放置して行ったりして問題になり、コースが夜間通行禁止にされたりするなど対策がされてしまい、あっという間にドリフトをする場所がなくなってしまった。自業自得。

自走できなくなったクルマを牽引して、安全なところまで移動させる。みんなそこそこの工具は所持しているので、帰れるくらいまで修理を試みることもある。修理屋まで運ばなければならない場合は、知り合いのレッカーを呼ぶかJAFを呼んで運んで貰う。

幸いにも自分の周辺で大怪我や死亡といった事故はなかった。自分が助手席に乗ってる時にフェンスに突っ込まれたことはあったけど(笑 100キロそこそこしか出ないコースだったので、タイヤをロックさせてギャーと言わせながら縁石やフェンスに突っ込んでも、案外と衝撃は小さい。クルマの足回りは折れたりしているけれど、乗員は別段どこも痛くないかな。みんな小僧なりにバケットシートとか4点式シートベルトとか入れてたから、それも幾分いい影響があったのかも。

衝撃的だったのは、どうクラッシュしたのか、何が起こったのか、60センチくらい段差&柵が設けられている歩道にクルマが綺麗に乗っかっていたとき。え?どうやって登ったの?みたいな(笑)。最初から歩道を走っていたみたいな顔してました。歩道の端から出せなくて、ユニック(クレーン)を使って降ろしたと聞きました。走ってるクルマのエネルギーって凄いから、何が起こるか分かりません。湾岸ミッドナイトの台詞ではないけれど、どう良く解釈しても違法行為。高いリスクを背負っていることを、クラッシュを見る度に痛感しました。

負けたくないという気持ちから意地を張ってクラッシュをしてしまう。若者ばかりだったから、そんな光景は良くあったし、気持ちも理解できた。ただ、クラッシュの一番の問題はお金が掛かると言うこと。タイヤとホイール1本だけでも1~2万。サスペンションのアームが折れたら、部品代、工賃、アライメントの調整代などで5~10万円。フェンダーが凹んだら5万円…。と安く見積もっても20代の小遣いなんて吹っ飛んでしまう。

それゆえ、クラッシュしない走り方、守りの走りが身に付いて、安全圏から徐々にマージンを削るという地味かつ着実な成長の仕方をしていったのであった。





かつて自分の血を沸騰させたスポーツカーと界隈の人間。その思い出を共有していただきたい、知らない方に伝えたいと、頑張って書いております。ご支援いただければ幸いです。